トリプル・オジョウサマ・ティーパーティー①
ドォン!
太く大きな腕部の量産型ビッグスーツが、バチで大きな太鼓を横から叩く。
ドォン! ドォン! ドォン!
一機だけではない、左に二機、右に二機。
ドォン! ドォン! ドォン!
その中央、武者鎧のような装甲に身を包んだワンオフ機が一機。
ドォン! ドォン! ドォン!
「団長! 奴が見えました!」
頭の上に編み笠のような大きなレドームをつけた、索敵型量産機のパイロットが、武者鎧ワンオフ機のパイロットに慌ただしく報告する。武者鎧ワンオフ機は索敵型量産機からビーム薙刀を受け取る。武者鎧がそれを振るうと、ピンクのビーム刃が展開される。
ワンオフ機のパイロット――ノブシ・ノブセは朝の草原を見やる。一隻の地上艦がノブシ達ののいる方へ、真正面から近づいてくる。
「あの女で間違いねえだろうな?」
「今日このルートを通るってもっぱらの噂ですぜ!」
「間違ってたらお前を殺す」
「ヒエッ!?」
ノブシとその部下達の後ろには、ビッグスーツの高さの倍をゆうに超える何かがある。高さより更に長い砲身を持つそれは、巨大な電磁加速砲……すなわちレールガンである!
「発射十秒前!」
レールガンの周囲では、十機以上のノブシの部下の量産機達が、その様子を見守る。レールガンは甲高い音を立て、青白く砲身を光らせる。
「三、二、一……発射!」
ノブシはカウントがゼロになると同時にビーム薙刀を、合図するかのように振った。
ドシュゥ!
電気エネルギーにより発射された巨大な弾丸が凄まじいスピードで射出され、向かってくる地上艦へ向けて突き進む! インチキとも言える大きさのこのレールガンに敵うはずの者などいない。ノブシは自身の勝利を確信していた。
その地上艦の甲板の上に、一機のビッグスーツが立っている。
西洋甲冑のような丸みを帯びたデザイン、全体の白い色に空色のアクセントカラーが映えるその機体は、筒状の物を手に取り、それを振るった。筒状のものから長いピンク色のビームが飛び出し、鞭のようにしなる。近接武器の一種、ビームリボンだ。
迫りくる巨大な弾丸。甲冑型のビッグスーツはビームリボンを縦に振った。
ズバン!
「!?」
レールガンの弾丸が地上艦ごと、そのビッグスーツを粉々にするものと確信していたノブシは、起こった出来事に自身の目を疑った。
甲冑型ビッグスーツのビームリボンが、レールガンから放たれた弾丸を真っ二つに切り裂いたのだ! 二つに分かれた弾丸は地上艦を通り過ぎ、その遥か後方で地面に墜落し、轟音と土埃を上げた。
「ば、馬鹿な! なんだあの女! 達人なんてレベルじゃないぞ!」
弾丸を回避した地上艦はそのまま突き進む。その甲板の上で、甲冑型ビッグスーツのパイロットは高笑いした。
「おーっほっほっほっほっほ! あの時の賊の首領がお出ましと言うワケね! 爺や、速度を落としになって! 私が片付けてくるまで前進を控えめに!」
「お嬢様! お気をつけて!」
そのパイロットは女性であった。美しいブロンドの髪を右から下げて縦巻きにしたロールヘア、少し童顔だがはっきりした顔立ちに、水色の明るい瞳が映える美しい容姿である。
「おーっほっほっほっほっほ! 畜生以下の皆様にはここで果てて頂きますわ!」
パイロットの女性――ベル・カマンはもう一度高笑いすると甲板を強く蹴り、ノブシ率いるビッグスーツの一団の中へと飛び込んでいった!
◇ ◇ ◇
「頭の痛い話ですわね」
スズカ連合・アオキシティ、モッツァ邸。シャイニングマグロのカルパッチョを口に運びながら、この邸宅に住まう令嬢――レイラ・モッツァは目を閉じて考えを巡らせる。
「ビッグスーツ級の身長を誇る生体兵器の量産。こんなスケールの話は大陸でここだけにして欲しいですわね」
「半年と少し前に巨大昆虫が暴れたという事件は聞いたことがありますが、そう頻繁に起こる類のモノではないと思われます」
横に立つ執事のバジル・メボークは、背筋を伸ばした美しい姿勢で直立し、微動だにせずレイラが食べ終わるのを待っている。
「マテガイ・バイオテック社。スズカ連合内での生体兵器の開発・生産を認めなければ、連合外へその技術を拡散させる――と各機関を脅迫」
「一度議会で承認が下りなかったものですから、強硬策に出ております」
「つまりはステレオタイプなイメージ通りの危険なモノ、だということでしょう?」
レイラはティーカップを手に取り、口につけて紅茶を一口飲む。湯気に乗った香りが鼻をくすぐる。バジルは美しい姿勢で微動だにしない。
「他連合に対する刺激になり得るという外交上の懸念、機械のように単純にはいかない生物故の制御・安全性の問題、そしてやはり製造するには無茶が必要なようでして、生産工程での倫理面の問題が多数、と様々な問題が指摘されております」
「議会の判断は信用してよろしいので?」
「議事録がこちらになります。幾分簡潔な内容になりますが、信用できるかと」
バジルはタブレット端末をそっとレイラの食器の隣に置いた。レイラはティーカップを置いて、その画面に表示された議事録を読み進めていく。
「……それからもう一つ、お嬢様。もしかすると今から報告することの方がお嬢様に取っては頭が痛い話かもしれません」
レイラはきょとんとした顔でバジルの方を見た。バジルは穏やかな笑顔であったが、いつになく悪戯っぽい、悪い顔をしていた。
「ベル・カマンお嬢様がお戻りになられたようです」
(トリプル・オジョウサマ・ティーパーティー② へ続く)




