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ブンドド!  作者: ぶらぼー
第一部
181/226

モータル・コンバット・オブ・オーチャード⑫




 ◇ ◇ ◇




「はえー! これが危ない果物!」


 マヨとブンタ、そしてボンは透明な球形の壁で覆われた巨大な空間に入っていた。そこには高さ十メートルほどもある巨大な木々と、そこに実る、球が三つくっついたような果物――ミッタマリが大量にあった。この建屋全体がミッタマリの育成施設のようだ。


「食えないのは惜しいですが早速ブチ壊し……ゴフゥ!」


 意気揚々とミッタマリを破壊しようとするソラマメに、脳天から肘打ひじうちをかました機体があった。カリオのブンドドマルだ。


「この馬鹿! また勝手に外に……っ、あ~体中が痛え」

「早く終わらせてしまおう」


 カリオに続いてやってきたニッケルは、肩アーマーからビームソードを抜くと、その刃先をミッタマリの木に押し付ける。木は高熱でみきから燃え始め、その炎は瞬く間に建屋内の果樹園全体に広がっていく。




 その様子を眺めるブラックトリオとマヨ、ブンタ、ゴン。赤く燃え上がる果樹園を見つめながら、リンコはため息を吐いた。


釈然しゃくぜんとしないなぁ」

「ん?」

「クラップのお父さん、真面目に働いてたわけでしょ? せっかく新発見だと思ったらソレがこんなやくネタで、コレが原因で殺されてるワケでしょ。理不尽。何も悪い事してなかっただろうに」

「確かにな。でも今更だろ、他の仕事でもしょっちゅうそういうのあったじゃねえか」

「うーん、撃ちあいは慣れてもこういうのは中々慣れないかも」

「確かにな」


 パチパチと音を立てて焼け落ちる木々を眺めながら、ニッケルは会話を繋げる。


「慣れてしまえば楽なんだろうな。俺達の仕事はこういう理不尽の相手が殆どだから」

「……失敗したねえ職選び」

「お前それ言うのレトリバーに来てから何度目だ」




 ニッケルは視線をブンドドマルに移した。ブンドドマルはソラマメと並んで燃える果樹園を立って見つめている。


「おい、ハゲオ」


 その足下にグレートエクスギャリワンが並ぶ。ボンは尻尾を振りながらカリオに声を掛けた。


「よくやった偉いぞ」

「ハゲオじゃねえよ……依頼人のお父さんが生き返りはしないってコトだけはすっきりしねえな」

「そうだな。だがお前らがいなかったら彼の発見が大勢の人を不幸にするところだった。彼は災いの元凶にならずに済んだんだ」


 ボンはブンドドマルを見上げてワン! と吠えた。


「グレートパックの力をもってしても、お前らがいなかったらきっと悲惨な結果になっていた。お前らはなんだかんだで俺の事もクラップの事も、色んな人を救ったんだ」

「……なんかいきなり褒められると気持ち悪……あだだだ!」


 ボンがブンドドマルのすねに噛みつく。マヨとブンタはその様子を見てゲラゲラ笑う。カリオはソラマメを睨んだ。


「てめえら艦に戻ったら覚えてろよ!」

「お、レトリバーが迎えに来た」


 リンコの言う通り、上を見上げると透明な球形の屋根の向こう側に、滞空するオレンジ色の巨体が見えた。


「敵機影なし、こちらでも確認した。ハッチを開けるから全機帰投してくれ」


 通信士の声を聞いたブラックトリオとその仲間達は、炎もほとんど消え、黒い炭と化したミッタマリの果樹園を一瞥いちべつすると、空へと上がっていった。




 ◇ ◇ ◇




残骸ざんがいの一つも持って帰れねえとはな」


 母艦のスキッパーキへと帰投したユデンは、大部屋のソファに荒っぽく腰かけた。周りの部下達は機嫌の悪いリーダーに気圧けおされ、黙り込む。そんな重い空気も気にせず、向かいに座ったチネツは淡々と話し始めた。


「一緒にいた犬型のロボとそのパイロットはアキタタウンに居を構えているらしい。どうする? 恐らく黒い三人組もそこにいる」


 チネツの隣でタヨコは、腕を組んで成り行きを見守っている。その表情は険しい。 殺気で押し潰されそうな空間に十秒近い沈黙が流れて、ユデンが口を開いた。


「……すぐには無理だな」


 ユデンは着ている服の袖から、左腕だけを脱いで外に出した。赤くれあがった腕が、ぴくぴくと痙攣けいれんしている。


「……最後の一撃を受けたときか。酷くやられたな」

「町を出やがってから、跡をつけるのは難しいか?」

「あの三機が仮に一(せき)の艦で管理されているとしたら、相当設備の整った地上艦だろう。索敵能力も高いはず。レーダーに引っかからずに尾行し続けるのは無謀だ」

「そうか」


 ユデンは険しい表情を緩め、頭をボリボリと掻いた。


「……チネツ、いつも通り手近な仕事ヤマを整理しておいてくれ」

「いいのか?」


 ユデンはニヤリと笑って見せる。乾いたように見えるその笑顔はいつもより不気味だ。


「いずれ酷いやり方で殺してやるさ。三度俺の邪魔した挙句、フリクまで殺りやがったんだ、当然だろう。だが今じゃない。今が準備不足ってだけじゃねえ、いいタイミングってのは独特の匂いがするもんなんだ」




 ◇ ◇ ◇




 カリオ・ボーズはビール缶片手にテーブルに突っ伏していた。


「カリオ、どうしたの?」

「アレか? 何度言ってもマヨが無謀な外出やら出撃やら繰り返すからねてるんだ」


 ロリポップキャンディーを舐めるリンコに、ニッケルはそう教えた。




 ミッタマリ破壊の任務を終えたレトリバーⅡはアキタタウンへ戻ってきていた。その食堂兼休憩室。テーブルに突っ伏して動かないカリオから少し離れた別のテーブルで、マヨとブンタとボンはババ抜きに興じていた。


「……おい……! その手を放せ……そのカードを引かせろよ……!」

「ダメですこっちのババ引いてください」


 ボンが引こうとするカードを握力全開で引かせまいとするマヨ。その後方の廊下から、タックとヴルームが歩いてきた。


「エクスギャリワンは何事もなく搬出が終わった……何してるんだボン」

「犬には時に譲れない戦いというものがやってくる」

「……そうか。傭兵さん達、あのバカ犬は放っておいて研究所まで付いてきてくれ。報酬をそこで渡す」

「今バカって言っただろうこのクソ猫」




 ニッケルはカリオを揺さぶって起こす。その隣でリンコは独り言ちた。


「しかしこう言っちゃなんだけど、どんな味したんだろうねミッタマリ。食べちゃいけない禁断の果実かぁ」


 その足下でヴルームがニャーと鳴きながら話に加わってきた。


「知らなければ気にならずに済んだ。知らなければ命を取られずに済んだ。知らなければこんな物騒な仕事もなかった。世の中知らない方がよかったって事はごまんとあるが……あるんだがなあ」

「……ふふ、そうだね。知らないコトを知りたくなるのは止められないもんね」

「うむ、人間というのはつくづく業が深い生き物よ」


 アンタ猫じゃん、というツッコミを胸の奥にしまい込むリンコ。その後ろでキラリと光る眼鏡――メカニックのミントンがヴルームを見つめていた。


(そうよね、知りたいわよ私は……飼い主に頼んだらちょっとあの猫と犬じっくり〝見させて〟くれないかな……)




 ――結局、任務の後処理はスムーズに進んで、ミントンの危ない野望は叶わずに済み、レトリバーⅡは新たな仕事を探しに町を発った。




(モータル・コンバット・オブ・オーチャード おわり)

(次回予定 トリプル・オジョウサマ・ティーパーティー)




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