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ブンドド!  作者: ぶらぼー
第一部
172/227

モータル・コンバット・オブ・オーチャード③




 ◇ ◇ ◇






 とある荒野。列をなして進行する十隻を超える地上艦。賞金首ユデン・イオールが率いる犯罪集団の艦隊だ。


「ミッタマリか。こんなもんが今の今まで見つかってなかったとはな。まだまだこの大陸にも未開の地ってのは結構あるのかもしれねえなあ」


 その先頭の黒い艦、「スキッパーキ」の大部屋で、ソファに座ったユデンがタブレットの画面を見て呟いた。


「ああ。他にも何件か地図未記載の情報で気になるのをリストアップしておいた。後で目を通しておいてくれ」

「……最近俺よりチネツの方がリーダーに向いてる気がしてきたぜ。しかし、ミッタマリか。話が広がりゃ派手に争奪戦になるのは間違いねえ。先んじて押さえといて競合の悪党どもと差を広げねえとな」

「……奴隷売買よりはお前向きなのは確かだ」

「そう、奴隷の扱いにくさよ! すぐ死ぬしうるせえし場所も取るし糞はするし! ありゃあ全員荒野に捨てて無かったコトにして正解だったな」


 ユデンの向かいのソファに座るチネツが、別のタブレットを両者の間のテーブルの上に置いた。ユデンはそれを手に取ると、彼に聞いた。




「今回の襲撃に必要な〝乗り物〟は問題ねえのか?」

「ああ、検査も調整も問題ないらしい」

「不安だぜ~なんせすげえ辺鄙へんぴなとこ行かねえとなんねえもんな。あんな小さい奴で行けるのかね」


 ユデンはわざとらしく、手を額に当てて高所を見上げる仕草をした。




「ミッタマリの群生地。標高三千メートルの高所にあるとは……」




 ◇ ◇ ◇




「ミッタマリの群生地。標高三千メートルの高所にあるとは……」



 カブーム博士の研究所の応接室では、レトリバーのクルー、依頼人のクラップ、そして喋る犬のボンと喋る猫のヴルームが顔を寄せて話を続けていた。


「ウチの艦、飛べるようになったはなったんだけど行けるもんなのか?」

「問題ねえはずだ」


 カリオがそう言うと、カソックは顎髭あごひげを触りながらニカッと笑った。自分の艦の新機能を試す絶好の機会に舞い上がってしまっているようだ。


「実際のところ周囲は殆(ほとん)どが断崖絶壁で、通常の地上艦で進んでも辿り着けるのは標高千メートル弱が関の山の場所です」

「輸送ヘリもその高度まで行けるヤツは限られている。ビッグスーツクラスの兵器を持ち込んで何か出来る奴は限られてくるな」


 クラップが作戦区域の地図を表示したタブレットをニッケルに見せた。その横でヴルームがニャーオと気品のある鳴き声を出した。


「イニスアの囚人を倒したというのは聞いているし、艦の空中航行もできると知ってな。アキタタウンや、周りの街にお願いして回り、報酬を集めて君達に頼むことにしたんだ」

「なるほど、あの金額をどうやって用意したのかと思ってたんだけど……前の依頼も似たような感じでってワケね。にしても……」


 リンコは事の経緯より猫が外交をしていることの方に気を取られる。唐突にワン!  とボンが吠えた。


「俺もヴルームが新開発した兵器を引っ提げて出るつもりなんだが! おたくらの船にエクスギャリワンを入れられるスペースはあるかね!」

「スペアの格納スペースはあったはずだが犬型か……ウチのメカニックに聞いてみよう」

 目を爛々《らんらん》と輝かせるバトルなポメラニアンにカソックはそう答えて、携帯通信端末を取り出した。その横でニッケルがクラップに聞いた。


「その果物、まだ世間には出回っていないのか?」

「残念ながら少量は流出してしまったものと思われます。大量輸送手段の構築が済むのも時間の問題かも」

「急ごう。一旦拡散するとどれだけの被害がでるかわからん」




 KABOOOOOOM!!


「……カブーム博士は実験中なのか」


 カリオはヴルームに聞いた。


「なんかミーティングに博士混じると邪魔になりそうだから、好きなだけ実験しといてくれって言っておいた」




 ◇ ◇ ◇




「頭痛が痛い!」


 朝。未開の高地。標高三千メートルの山の上。


 量産型ビッグスーツのコックピットで、マフィアの下っ端構成員がそう叫んだ


「マール語がおかしい。頭が痛いだろ」


 隣に並ぶもう一機のビッグスーツに乗った仲間が、その構成員に呆れながら指摘する。


「うるせえ! 酸素が薄いらしいじゃねえか。んでこの機体には酸素ボンベついてねえんだ」

「そんなもんわざわざ付いてるような機体があるかよ、あったとしても俺達の方までは回ってこねえさ」




 この高原は今、マフィア「ボロドウ・ファミリー」の占拠下にあった。ここにあるのは……美味くて危険な果物、ミッタマリの群生地である。そのビジネスでの可能性に目を付けたボロドウ・ファミリーは一帯を占拠し、ミッタマリの生産体制と闇市場への輸送ラインを構築せんとしていた。


 既に高原一帯は、急ぎで建てられたプレハブ混じりの建築物で埋め尽くされており、ミッタマリが生えた木々はその中に入れられたのか見えない。ボロドウ・ファミリーの計画が軌道に乗るまで、そう時間はかからなそうだ。




「チッ、まあいいや。警備の仕事なんて退屈だし、工場予定の建屋からくすねてきたこれ食べちゃお」

「!! おい! おまえまさか!」


 頭が痛いと叫んでいたボロドウ・ファミリーの下っ端は、脳波コントロールをオフにして上着のポケットから何かを取り出した。たまが三つ合わさったような見た目の果物――ミッタマリの果実だ!


「何考えてんんだ!?」

「気になるじゃねえかよ、どれだけウマいのか」

「……! バカ! 生で食っていいもんじゃねえよ! 一発で廃人になっちまうぞ!」

「んなワケあるかよー。ボスが盗まれるのを防ぐために嘘ついてるに決まってらあ」

「なっ、おまえウチのファミリーでも使い物にならなくなった奴が出たって知らな――」




 コリッ




「ああ!?」


 仲間の心配をよそに、下っ端構成員はミッタマリをかじった。その時彼の体に電流のような衝撃が走る!


「……! うう……!? ウオオアアアアアア!!」


 彼は仰け反り、シートに背中を強く打つ! 殺人的な美味!


「ウオオアアアアアア!!」


 視界にもう現実は映らない。彼の魂はこの星を飛び去り、広い宇宙を駆け巡る。そこへ付いてくるのはかつての仲間、恋人の顔、いるはずのない妹、飼ったことのないクロコダイル……さながら走馬灯のような――


「アアアアア!!」


 ――そこを真っ白な光が埋め尽くしていく。そして……


「ゴフッ」


 下っ端は突然、糸が切れた人形のように前のめりに俯き、動きを止めた。


「おい! 通信繋がってんだろ! 返事しろ! おい!」


 仲間は死んだ下っ端に必死に呼びかけるが乾いた笑い声が返って来るだけだった。




(モータル・コンバット・オブ・オーチャード④ へ続く)

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