表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブンドド!  作者: ぶらぼー
第一部
171/227

モータル・コンバット・オブ・オーチャード②




 ◇ ◇ ◇




「出来たぞ、フライングソラマメだ!」

「うおおおお!!」


 高らかに声を上げるチーフメカニックのタック・キューの横で、レトリバー居候いそうろうの少女、マヨ・ポテトが興奮で叫ぶ。


 マヨが時々乗る作業ロボ、ソラマメ。その背中にはタックが新造した推進器スラスターと、一対の金属の翼が取り付けられている。名付けてフライングソラマメである。


「つまり……飛ぶってことですか」

「そう飛べる! そのはず」

「大丈夫なんですか本当に」


 二人の少し後ろでマヨと同じく居候の……茶筒型の機械の体をしたオタク、ブンタ・H(ホライゾン)・ナイトウが、大型バッテリーに自分のボディをケーブルで接続した状態で心配そうに見守る。


「俺の腕を信じていないようだな」

「腕というか頭というか」

「何だとこの野郎」

「あ、そこ開け閉めしないでください、やめ、やめ」


 タックが怒ってブンタの頭のカバーをぱかぱか開け閉めしてる横で、マヨは目を輝かせてソラマメをじっと見つめている。


「ちょこっとだけ! ちょこっとだけ飛ばしませんかタック!」




 マヨは操縦席に座り、新たに取り付けられた操縦桿そうじゅうかんを握る。そしてゆっくりと引いた。背中の推進器すいしんきのファンがキュイイインと高い音を立てて回転し始める。


「おお……おお……」


 ゆっくりと浮かび上がるソラマメ。シートから伝わる独特の感触に、マヨはうなった。だが――




 ドスン!


「おうふ!」

「ありゃ?」


 不意に、宙に三十センチメートルほど浮かんでいたソラマメが浮力を失い、地面に着地した。少々強い衝撃にマヨは思わず目をつむる。


「あれ、どうしたんだ」


 タックはすぐにソラマメの背中のバックパックを調べ始める。マヨはコックピットから飛び出して興味深げにその様子を見守る。


「……マジか、この短時間でバッテリー切れとは」

「マジですか。エコじゃないですねタック」


 肩をすくめて眉尻を下げるマヨの表情を見て、タックは怒りでわなわなと震える。


 その視界の端に、大型バッテリーに接続されたブンタが映った。


「……今、充電中なのかブンタ」

「? はい、見ての通り。この体になってからご飯の代わりに電力がいるようになって……」

「それは昨日聞いたからいい。それより――」




 ◇ ◇ ◇




「オチャトオカシヲオモチシマシタ」


 テーブルにメイド服を着た白いボディのアンドロイド、ミス・ズドンが紅茶とクッキーを運んできた。


 カブーム博士の研究所の応接室で、レトリバーのメンバーは依頼人の女性と向かい合って座る。


「クラップ・クラックルです、よろしくお願いしますね。何からお話すればよいのか……」


 カーリーでボリュームのあるブロンドヘアが特徴的な女性、クラップ・クラップルが顎に手をやって考え込む。


「破壊目標について教えてあげてくれ。依頼文には情報の拡散を防ぐために載せてなかっただろう」


 テーブルの近くのカーペットの上で、行儀よく座るヴルームがそう彼女に助言した。


(なんなんだあの無駄に紳士を感じる猫)

(ボンより大人びた猫、喋る猫)


 またも生暖かいでヴルームを見つめるニッケルとリンコ。その向かいのソファでクラップがふぅ、と一呼吸して、話し始めた。




「破壊してほしいのは〝ミッタマリ〟の群生地、です」

「ミッタマリ?」




 聞きなれぬ植物らしき名前に、三人の傭兵は顔を見合わせる。その様子を見たヴルームが補足した。


「聞いたところでわからないのも無理はない。そもそもミッタマリも仮名だ」

「仮名?」

「まだ公式に発表されていない新種の果物なんだ。ざっくり言うと三ツ星シェフが太鼓判を押したかなり美味な――麻薬特性のある果物だ」




 ヴルームの説明にまた、三人は顔を見合わせる。ニッケルは続けてヴルームに聞いてみた。


「三ツ星シェフ?」

「ああ、信じられない話だが、幻覚や知覚の歪み、錯乱といったクソ症状を引き起こすくせにめちゃくちゃ美味いらしい」

「……」

「あ! バカバカしい話だと思って信じてないだろ!」




 ヴルームがシャー! とニッケルに怒りの表情を見せたところで、クラップが会話に入ってきた。


「確かに変な話なんですが事実です。発見した研究チームが瓦解がかいする前に成分データを残しています」

「マジかよ。いや待て、瓦解? 発見した研究チーム……まさか――」

「――私の父、ランブル・クラップルが率いるチームです。その、殺されたというのはひょっとしたらご存知かもしれませんね、ちょっとだけニュースにはなってましたし」




 ニッケルにそう答えながら、クラップはテーブルに置かれたティーカップを持ち上げ、一口飲んだ。


「真面目な話、ミッタマリは中毒性が高く、増産するのも低コストで済みます。売り手にとってはいい条件が揃い過ぎてます」

「出回れば厄介ってワケだ」




 クラップはティーカップを置いて、ふぅ、と息を吐いた。


「……新発見に喜んでいた父も、最初の研究でその特性が判明してすぐ、この発見は無かったことにしようとしました。ところが父のチームの中にあるマフィアとコネを持った者がいて……おどされたのか金銭の授受じゅじゅがあったのかはわかりませんが、情報がそちらに漏れました」

「アンタのお父さんのニュースを見たのは二週間前……」

「チームの研究員から漏れたと判明してすぐに殺されました。ただくだんのマフィアも他所の横取りを警戒してか、情報の拡散には注意を払っていて、一般市民レベルにまでは知られていないはずです」

「確かに俺らも知らなかった。三流どころの乱入は頭に入れなくていいが……」


 クラップとニッケルの会話を聞いていたリンコが唾を飲み込んだ。


「知る人ぞ知る情報をキャッチしちゃうくらいの腕利きは乗り込んでくるかもしれないってことだよねえ……」




(モータル・コンバット・オブ・フラワーガーデン③ へ続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ