表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブンドド!  作者: ぶらぼー
第一部
170/228

モータル・コンバット・オブ・オーチャード①

「選べ」


 小さな町、アキタタウンの大通りの端。


 美しいグレーのもこもこした毛に包まれた猫が、流暢なマール語(人間の言葉)でそう言った。その真正面で白いふわふわした毛に包まれたポメラニアンらしき犬がうなりながら悩んでいる。


「その思考になんの意味がある。ただの確率の話だろう。紙コップの中ののコインは表か裏か」

「うーん……」


 猫と犬の間には紙コップが逆さまに置かれている。犬はすんすんと鼻を鳴らした後決断した。


「裏!」


 流暢りゅうちょうな人語で犬は宣言した。すると猫が紙コップを前足で倒す。


 中からは偉人の肖像画が描かれた面、「表」を向いたコインが現れた。


「ああああああん!!」

「このプニプニのおもちゃは俺のモノだ。ボン」


 猫はプニプニとゼリーみたいな質感をした人形をくわえる。犬――バトルポメラニアンのボンはそれを羨ましそうに見つめながら悶絶もんぜつしてひっくり返った。


「これで百五十勝百五十敗でイーブンか……」

「まあ三百回もやってたら確率も集束してくる」


 猫――バーバリアンショートヘアーのヴルームは人形を甘噛みしながら言った。




「アンタ達その前足でどうやってコイントスしてるんだい……?」


 自転車のかごにネギがはみ出した買い物袋を乗せたおばちゃんが、通りすがりにボンとヴルームに話しかけてくる。


「俺達は器用なんだ」

「プニプニのおもちゃもぉおおおおん!!」


 未だに悔しがるボンを生暖かい目で見つめながら、おばちゃんは聞いた。


「それより聞いたわよ! クラップちゃんがピンチだからアンタらの出番だって!」

「何? ヒミツの仕事の情報がれているのか? それはよくない」

「カブーム博士が町中で言いふらしてたわよ」


 「あのボサボサ頭が!」とヴルームは両前足で頭を抱えた。ボンは短い前足でヴルームの肩に手を置いてなぐさめる。


「大丈夫だ、勇者であるこの俺が全てなんとかする」




 ◇ ◇ ◇




「カブーム博士からの依頼か」

「正確にはその知り合いから、だな。博士は仲介だ。ボンも依頼に参加するらしい」




 とある荒野。大地をひた走るオレンジ色の地上艦、「レトリバーⅡ」。そのミーティングルームで艦長のカソック・ピストンが、カリオ・ボーズ、ニッケル・ムデンカイ、リンコ・リンゴの三人に一枚ずつ紙を配る。プリントアウトされた仕事の依頼文だ。三人はそれを見て表情を無にする。


「いや、二度共闘してそう怪しくない奴らだとはわかっているんだが」

「なんかその……ねえ? しゃべる犬と博士って絵面が妙ちくりんというか」

「仕事内容、なんか物騒だな」


 依頼文にはこう書かれている。




 「――面会時に指定する地点を破壊してほしい。犯罪組織による厳重な警備がかれていると予想されるため、そちらも殲滅せんめつ願いたい。報酬は一億テリ――依頼人、クラップ・クラックル」




「なんでもある研究者の娘らしくてな。気の毒なことにその父親をマフィアに殺されている。恐らく依頼文に書かれている奴らのメンバーだろう」

「じゃあ復讐か何かなのかな?」

「でも一億テリって個人で出せる金額か? 企業か何かに補助してもらえなきゃ出せねえだろ。ん、待てよ? 前回八千万テリ出してたカブーム博士はなんであんなに金持ちなんだ……」


 三人は色々と疑問を口にしたものの、結局のところ依頼文に書かれている情報は少なく、依頼人本人に会ってみるしかない。


「やけに情報少ないけど、大丈夫なのかオヤジ?」

「一度共闘した仲の奴が仲介に入っているし、依頼した本人を少し調べてみたが、特にややこしい人物ではなさそうだ。ただの大手食品メーカーの従業員で間違いない」

「なるほど……」




 疑問が尽きない三人を乗せて、レトリバーⅡはアキタタウンへ向かう!




 ◇ ◇ ◇




 KABOOOOOOM!!


 一軒の建物から強烈きょうれつ爆音ばくおんが聞こえ、その屋根やねが空中に飛び上がった。 屋根がなくなった建物の上側と側面の窓から煙と炎が噴き出す。


「おーやっとるねえ」

「やっとるねえじゃないわよ」

「ニッケルが変なことに慣れちまった」


 前回訪れた時と同様、珍妙なギミックで出迎えてくるカブーム博士の研究所を見るレトリバーの三人の傭兵とその艦長の顔は、虚無きょむと表現するほかなかった。




「あ、ねえあれボンじゃない?」


 リンコがそう言って指さす方へ、カリオとニッケル、カソックは視線を移す。そこにはポメラニアンらしき白い毛玉と、グレーのふっくらした猫。


 猫は肉球に乗せられたコインを器用に上に放り投げる。そして地面に落ちるその瞬間、これまた器用に紙コップをその上からおおいかぶせた。




「選べ」


 猫はそう言った。




「喋ったな猫、今猫が」

「あー……そうなんだ、今回そうくるんだ」


 ニッケルとリンコは顔を両手で覆って上を向いてしまう。


「今日こそ裏!」

「疑う余地なく白い毛玉はボンだな」


 カリオが遠目で見守る中、ボンはコインの面を宣言する。グレーの猫、ヴルームは前脚で紙コップを倒した。中のコインは数字の面、すなわち裏を向いていた。


「よっしゃうおっしゃ!!」


 ボンは喜びのあまり腹を上に向けて、背中を地面にこすり付けながらズゾゾゾと回転する。


「おいボン。久しぶり」


 回転するボンの上からカリオが覗き込んで声を掛ける。


「そっちの猫も喋ってたけど、もしかしてボンと同じように遺跡で寝てたとかか?」

「そういう君たちはボンの言っていた傭兵さん達か。バーバリアンショートヘアーのヴルームだ。エクスギャリワンのメカニックをやっている。よろしく頼む」


 カリオが問いかけたボンの代わりに、ヴルームが礼儀正しさを感じる、紳士的な声色で答えた。


(バーバリアンショートヘアーか……)

(バーバリアンショートヘアーなんだ……)


 生暖かい目を細めて見つめてくるニッケルとリンコをよそに、ヴルームはカソックに言った。


「アンタが艦長さんだな。依頼人のクラップは研究所で待ってる」




(モータル・コンバット・オブ・フラワーガーデン① へ続く)



 






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ