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ブンドド!  作者: ぶらぼー
第一部
168/226

フィーンズ・バンケット―タヨコ・ソーラがつるはしを捨てた日―⑫

 致命の一撃を食らったハイブリは地面に両膝りょうひざをつく。勝負は決した。


「テンネ」


 コックピットを串刺くしざしにしようとユデンが大剣を構えた時、チネツがテンネに問いかけた。


「俺達がファミリーのビッグスーツパイロットとして選出されないように手を回していたのもお前だろう?」


 大鎌を拾うタヨコは、その言葉を聞いて思い出した。ユデン達は初めてのビッグスーツ戦で多大な戦果を挙げたのに、その後一切パイロットとして出撃することは無かった。チネツが言う通り、テンネの介入があったからなのだろうか。何故か。


「浅ましい欲ゆえさ。おまえ達の適性の高さが上に知れたら、俺がこのファミリーのトップガンの地位でいられないのは明白だったからな」

「組織を奪うつもりの奴が地位にしがみつくとはな」

「最初は力づくで奪うつもりなど毛頭なかったよ。ゲンシに認めさせて、トップの座を寄越してもらうつもりだった」

「どちらかというとイオマスの奴を気に入ってたみたいだな、ゲンシの爺さん」


 ユデンの口からファミリーの幹部の名前が出ると、テンネは天をあおいだ。


「ああ、イオマスはファミリーで一番の稼ぎ頭なのは知っての通り。最初はまともにやり合おうとしたが、アイツの稼ぎはビッグスーツのカチコミ組じゃ、死ぬまで超えられないと気付いたさ」

「それで力づくで組織を乗っ取る方に切り替えたってコトか」

「イオマスかゲンシを消せば思い通りになる……九カ月前にお前らが反乱を企ている事を知った時、決心がついた。お前達を利用しようと。お前達の計画を裏でフォローする方が色々な面倒が省ける」

「だが……俺達をやはりビッグスーツに乗せるべきではなかったんだろうな。結果お前はここまでだ」




 ユデンは剣の切っ先をハイブリのコックピットに向けたままだ。空に目を向けながら、一呼吸してテンネは言った。


「……俺の中身はまだまだガキだ。おまえが俺より強いなんて認めなくなかった。その下品な機体に乗ったお前を愛機でバラバラにして、俺の方が上だと証明したかった。みじめなもんだ。お前より上の地位にいても、お前より稼いでいても、俺自身が俺を認めていなかった」

「なんだ泣くのか?」

「ふん、今その憎たらしい口の主を殺すことが出来なくて本当に泣きそうだ」




 テンネは横目でタヨコのゼルディを見つめる。


「チネツも、フリクも、この女も気に入らない。あの時お前に甘くせず、このみにくいまぶたの女を殺しておけば――」




 ドスッ




 ユデンの大剣がハイブリのコックピットを貫いた。




「おっといけねえ、つい。でも女の顔の悪口言う方が悪いだろ」




 ハイブリは静かに、うつ伏せに倒れた。




「ふう」


 タヨコはうつむき気味にため息をついた。れあがった左の瞼を触ろうとしたが、ビッグスーツに乗り、脳波コントロール機能をオンにしている間は、機体側の左手が動くだけだった。ユデンは剣を下ろして声を掛ける。


「なんだ? もうすぐ華々しい船出だってのに。暗いため息ついて」

「……あーゴメン。ってか初めて乗ったから疲れてんの!」


 フリクが上空から降りてきて、チネツも武器を下ろした。


「偵察役からの連絡だ。各方向の港で交戦中だがいるらしい。脱出しようとするゲンシ側の人間とテンネ側についた人間とで銃撃戦になってるらしい」


 チネツが言うのを聞いて、ユデンは肩をすくめた。


「やれやれ。俺らが裏切らなくてもこのファミリーもうダメだったんじゃねえのか?」

「おいタヨコ、本当に疲れてんのか?」

「ずっと空飛んでたアンタの方が楽なんじゃないの? ねえ早く終わらせようよ」




 ユデンは大剣を肩に担いだ。


「ゲンシの野郎は生きてるかわかるか。チネツ」

「どういうわけか通常ファミリーが使わない東側の港にいるらしい……ん、今メッセージが入ってきた。マズいな、もたもたしてるとゲンシが出港するかもしれん」

「ふーむ、もう戦には勝ったもんだが、あまりボスとその取り巻きを逃してもめんどくさそうだ」


 ユデンはいつものようにニカッと下品な笑顔を作った。




「さて、うたげのシメと行こうか!」




 ◆ ◆ ◆




 ユデン達がビッグスーツを強奪し、テンネを倒して数時間後。


 ガラワルシティの北地上艦港では、いくつもの死体がゴミのように散乱していた。大半はゲンシを守る、または殺そうとしていたファミリーのメンバーだ。


 ダダダダダ!


 港に響く銃声。撃たれて血を流し倒れたのは、マフィアのファミリーではない街の住民達だ。いち早く街の異変に気付いた彼らは、出港準備を進めるユデンの一味を問いただそうとして、その内の一人に詰め寄ろうとしたのだ。彼の死に際のまなこには、禍々しくも見える黒塗りの地上艦――「スキッパーキ」が映っていた。




「この街もお別れだなぁー」

「おいタヨコ、知り合いとかいたら連絡とっておけよ。多分飢え死にするか刺されて死ぬか他の死因で死ぬぞ」

「大丈夫~そんなのいない~」


甲板の上でユデン、フリク、タヨコの三人が外の空気を吸いながら出港の準備を待つ。そこへ煙草を吸いながらチネツが歩いてくる。


「あとは三十分もあれば出港できる。そして三日もすればもう一度ビッグスーツに乗ることになる」

「マジか。近いんだな標的。ヤミーはなんて言ってる?」

「今日のうちに整備は余裕をもって終わらせられるから心配はいらんそうだ」

「へぇ、ホントに有能なんだなアイツ。ギリギリでこっちに寝返ってくれてよかったぜ」


 ユデンへそう伝えるとチネツはタヨコの方を見た。


「だがその前に……ユデン、お前が言ってたように一旦別の場所に寄る」




(フィーンズ・バンケット―タヨコ・ソーラがつるはしを捨てた日―⑬ へ続く)




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