フィーンズ・バンケット―タヨコ・ソーラがつるはしを捨てた日―⑩
「大仰な!」
テンネはタヨコの大鎌をサイドステップで躱す。剣とは形状が大きく異なる大鎌、下手に受けに回れば大怪我を負いかねない。テンネは大鎌の刃が通り過ぎるのを待たずに大剣を横に薙ごうとする。
ジャギィン!
金属音。テンネはその音のした方を見やる。ユデンのハオク、その機体が持つ大剣が変形し、銃身が現れていた。ユデンはライフル状に変形した武器をテンネのハイブリに向けて、撃つ!
バシュゥ! バシュゥ! バシュゥ!
赤いビームがテンネ目掛けて連射される!
ビビビイン……!
「……チッ!」
ユデンは舌打ちする。テンネの機体とは別のハイブリが二機、射線上に割って入ったのだ。二機は左腕にビームシールドを形成し、ユデンが撃ったビームを防いだ。
「レギュラとユトはどこだ」
ハイブリのパイロットの内の一人が、チネツとフリクが目の前から消えたことに気づく。その言葉と共に、シールドで防いだのとは別の二機のハイブリが上空へ目を向ける。フリクの乗ったユトが上空から爆弾を投下するのが見えた。
ドドドドドォン!
テンネも含めたハイブリ五機全機が、瞬時に散開して爆発から逃れる。辺り一帯が煙に包まれた。
「うわ、ちょ、フリク! あーし達まで巻き込むつもり!?」
「大丈夫だ、アイツは俺達の反射神経まで読んで爆弾落としている」
「それはそれでなんか気に食わないわね」
煙の中、文句を言うタヨコをユデンが落ち着かせる一方、ハイブリ部隊はレーダーを注視する。上空の一機、前方の二機――
――三時の方向にもう一機。
ガガガガガガガ!!
何十発もの実弾が煙を切り裂いてテンネの機体を襲う。 チネツが乗るレギュラのガトリングガンだ! テンネは急いでシールドを展開、弾幕を凌ぐ!
「行けるかユデン」
チネツがそう呟くと同時にユデンは地面を蹴って、テンネがガトリングガンの連射を防いでいるその横から突撃。右手に持った武器を再び大剣に変形させて振りかぶる。
ガキィ!
テンネとユデンの間に別のハイブリが割って入り、ユデンの大剣を似た形の大剣で受け止める。そのユデンの背後に、別のハイブリ二機が回り込んでくる! 二機はそれぞれの大剣をユデンのモノと同じようにライフル型に変形させ、銃口をユデンに向ける!
「早速あーしを忘れるんじゃないよ」
二機のハイブリの後ろで、タヨコが乗るゼルディが持つ大鎌のビーム刃が不気味に光る! その刃は目にもとまらぬ速さで宙を走った。
袈裟斬り! 逆袈裟!
稲妻のように走る二筋の閃光は、高性能機であるハイブリ二機を豆腐を着るかのように真っ二つにした。二機が火を噴いて倒れていく姿を見たテンネは眉間に皴を寄せた。
(なんと。ゼルディに乗っているのは誰だ? 想定外かもしれん)
ガギィイン!
ユデンの大剣を受け止めていたハイブリはそのままそれを弾き返す。ユデンはすぐに体勢を立て直して大剣を振る。それに合わせるかのようにハイブリも大剣を高速で振った。
横一文字! 真っ向! 袈裟斬り! 逆水平! 逆袈裟!
凄まじい速度の剣撃の応酬! 互いに重量級の武器でありながらその攻撃は殆ど目に見えない。
ブォン!
ハイブリがユデンの打ち下ろしを回避、その隙をついてハオクの頭部目掛けて大剣を振り下ろす。だが――
ブォン!
その一振りを遥かに上回る速度で、ユデンは振り下ろした大剣を逆方向へ斬り上げた! ハイブリの胴体にその一閃が直撃、相手は体勢を崩す。
「トドメだオラッ!」
ドドドドドォン!
上空を飛ぶフリクがそこへ、爆弾を投下していく。致命の攻撃を受けたハイブリに爆撃を避ける余力はなかった。銀色の機体は爆音と共に炎の中で倒れていった。
(何機だ……あと二機、チネツは)
バシュゥ! バシュゥ! バシュゥ!
ユデンは爆炎の向こう側を見やる。テンネともう一機のハイブリが武器をライフル状に変形させて、チネツ相手に射撃による猛攻を仕掛けていた。一対二という状況もあって、チネツはホバー走行しながら回避に専念している。
「マズいな。レギュラを次で落としてしまおう、テンネ」
「そのつもりだ」
顎髭を生やしたハイブリのパイロットが、テンネへそう提案する。五機の内、三機を失ったハイブリ部隊は数の上で不利。速攻を仕掛けてそれを解消する算段だ。その僅かな焦りをチネツは見逃さなかった。
テンネと顎髭のハイブリは左右に散開、直後チネツの斜め前二方向からチネツに向かって突撃する。
その時、チネツの乗ったレギュラは、突如足を滑らせ、バランスを崩して膝をついた。
「ははっ! トロいな! 終わりだ!」
顎髭はチャンスを逃すまいと武器を大剣に変形させ、突撃する――だが異変に気付いたテンネは足を止めて、顎髭に叫んだ。
「突っ込むな、迂闊だ!」
顎髭が大剣を振り上げた時だった。体勢を崩していたかに見えたレギュラは、ガトリングガンの銃口を「正確に」、顎髭のハイブリに向けていた。
(まさか!? 体勢を崩したかに見えたのはフェイク――)
ガガガガガガ!
顎髭が気づいた時には遅かった。何十発もの実弾がハイブリの胸部を貫通していく! コックピットで顎髭の身体は粉々になり、ハイブリは仰向けに倒れていった。
(フィーンズ・バンケット―タヨコ・ソーラがつるはしを捨てた日―⑪ へ続く)




