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ブンドド!  作者: ぶらぼー
第一部
162/226

フィーンズ・バンケット―タヨコ・ソーラがつるはしを捨てた日―⑥




 ◆ ◆ ◆




 ――時間は地下駐車場の場面へと巻き戻る。




「例の黒い地上艦と四機のワンオフ機を奪ってこの街を出る。勿論厄介な『幹部様』に〝永遠におねんね〟してもらってからな」


 人気ひとけのない駐車場で、ユデンはタヨコに思惑の全てを打ち明けた。自分達がエナルゲ・ファミリーからの離脱を考えていること。ある程度ファミリーの内情を知っている自分達がそうするためには、ファミリーの幹部級を殺害して実質壊滅させなければならないこと。ファミリーとの戦い、その後の暮らしのために十全な「戦力」が必要であること。


「……断ったら殺されるんでしょ、あーし。乗るしかないじゃないバカなの?」


 タヨコは横に視線を流しながらため息をついた。


「……なんであーしなの?」

「最初に俺につるはしで襲い掛かってきた時に第六感がピーンと来てな! あの鋭い振りとその速さと来たら! コイツしかいねえぜってよ!」

「……バカなの?」


 ユデンとタヨコの会話にチネツが入ってくる。


「実際のところ声を掛けてるのはタヨコ一人だけじゃない。地上艦とビッグスーツを運用して〝稼ぐ〟ためにはそれなりの人数がいる」

「そっか。じゃああーし以外にもいっぱいいるんだ」

「最もおまえはビッグスーツのパイロット候補、という点で特別扱いかもしれんな」

「あーしが? ビッグスーツを?」


 チネツが「そうだ」と頷くのを見て、タヨコは眉間みけんしわを寄せて「ハァ?」と口を開けて言った。


「操縦したことないっつーの」

「大丈夫だおめーなら一分で覚えられる。アレはやりゃあわかるが自分の身体からだと同じように動かせるんだ……って言い方で合ってっか?」


 ユデンが上手く説明出来ずにいるところで、タヨコはもう一度ため息をついた。


「よくわかんないけど流石に無茶なんじゃないの? ……じゃあそれはさておき、その話、私に打ち明けたからにはこれから何かやるワケ?」

「おうよ、まだまだ人数が足りねえからよ。似たような感じでスカウト祭りだ」


 ユデンは勢いよくチネツの方を振り返った。


「あとどんな奴がいるんだっけ?」

「ビッグスーツのメカニックは数人確保できているがまだ足りない。地上艦の運用に備えて操縦士や通信士、整備士がいるし、資金繰りに闇市場に通じている者、あとは――」

「なんだ!? 全然まだまだいるのか!?」


 タヨコはユデンを指さしてフリクに聞いた。


「ねえユデンがリーダーなんでしょ?」

「頭脳労働はチネツ担当だ」

「にしてもなさすぎるでしょ知能」


 二人が後ろでそう言うのを流してユデンはあごに手をやった。


「作戦を始める前に相当な規模になっちまうな。バレねえようにするのが難しいぞ……」

「なので本格的に動くまでは連絡も顔合わせも最小限にする必要がある。まずファミリーで使っているのとは別の通信機器を」

「任せる、チネツ」

「……」

「任せる、俺には難しすぎる」




 ◆ ◆ ◆




 ――時は戻り、再びガラワルシティの倉庫。


 一年前、駐車場での一幕の後、ユデンはゆっくりと味方を増やしていった。マフィアによる冷酷な統治がかれている街には、そのファミリーに恨みを持つ者が十分すぎるぐらいいる。そしてガラワルシティで飢えず、撃たれず、病まずに生をつなぐことはそう容易ではない。その過程で知識・技術といった様々な〝武器〟を手にした人間を、ユデン達は見抜き、新たな家族へと迎え入れた。


「おっほー! 俺にこんな人望があるとは思ってもみなかったぜ」


 ユデンが得意気に言う横で、フリクが拳銃を抜いて――




 バァン! バァン! バァン!




 ――その場に集まった人間のうち、三人の眉間を正確に撃ち抜いた。撃たれた者が倒れるのを見て、歓声が上がっていた場が一気に静まり返る。ユデンはひゅー、と口笛を吹いて、言った。


「お仕置きご苦労フリク! その三人は俺達の動きをエナルゲ・ファミリーにチクったついでにさらにヤクを受け取った罪で今死んだ、ハイ死んだ! 大丈夫、そういうことしない限り俺とお前らはズッ友だ。な? もう喧嘩はナシナシ……さて、こうなると早く動かねえとな」 

「そうだな」


 ユデンの後ろで、チネツがデスクに座り複数の液晶ディスプレイを眺めている。その画面には街の地図や何者かの電子メールなどが表示されている。それを目で追いながらチネツは話し始めた。


「今そいつらを殺したところで、元々九カ月ぐらい前から上にはバレていたワケだが」

「ほうほう……え、マジかよ」

「恐ろしいくらい自由に泳がされたな。ユデンや俺だけじゃなく、ファミリーの不穏分子をこの機会にまとめて処分するつもりか。それとも別の何か」

「それはそれで不気味だぜ。でも全部ぶっ倒せばいいよな?」


 チネツはノートパソコンを取り出すと、その画面をユデンに見せた。


「この前話した作戦は覚えているか? この地図で説明した話だ」

「ああ! 流石チネツだぜ。このルートならファミリーも把握している奴は少ねえだろうし覚えやすくて――」

「このルートは使わない。わざとファミリーに漏らしておいた」

「ほうほう……え、マジかよ」


 ユデンの表情が驚きのあまり無表情で固まる。チネツは続けた。


「ユデンとタヨコ、他の一部の人員に伝えていたこのルートとは別のルートで本番はやる。俺とフリクだけで共有していたルートだ。外へ重大な漏洩ろうえいはしていないはず。今から説明する」

「待てい! なんで俺とタヨコをハブったんだよ!」

「そーよそーよ!」


 ユデンとタヨコが仲良く抗議すると、チネツはため息交じりに答えた。


「この一年で街のハングレ詐欺師に二桁引っかかりかけたお前らにこんな大事な情報渡せるわけがないだろ」




(レイダー・キング・リターン 前編 フィーンズ・パーティー⑦ へ続く)





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