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ブンドド!  作者: ぶらぼー
第一部
161/228

フィーンズ・バンケット―タヨコ・ソーラがつるはしを捨てた日―⑤



 ◆ ◆ ◆




「乗ったコトあるんだ、アレに」


 地上艦港を後にし、歩きながらタヨコが言った。


「そうだ。ファミリーの仕事でわけえ時にな。俺もチネツもフリクも、大人になりたてホヤホヤぐらいの時に初めて、ファミリー所有の量産機に乗った」

「難しかったの? 操縦」

「まさか。俺達三人は無敵もいいとこで、初出撃で一人十機ずつ、三十機ブチ殺してほぼ無傷で帰ってきたさ」


 前を歩くユデンが、背を向けたままタヨコに答える。相変わらず軽い口調だが、先ほどまでとは違い、冷たい何かを感じさせる声色だった。タヨコはそれを気にしながらも続けた。


「じゃあ……さっきのワンオフ機に乗ってる連中はアンタらより強いワケ?」

「どうだろうな。でも多分俺達の方が強いような気はする」

「そうなの……ってアンタらそれなのにビッグスーツに乗る仕事は任せられてないの? 生身での殺しと上納金の取り立てだけ? ますます謎だわ」




 ユデンの足が止まった。一緒に歩いていたチネツとフリクの足も止まる。


 足を止めたタヨコはハッとして周りを見渡す。彼女達が立っているのは、一切人の気配がない地下の駐車場。薄暗く、そこそこ広く、そこで〝何かが起こった〟としてもすぐに人には気づかれないだろう。


 ここに来るまで何も考えずに、のこのことユデン達に付いてきたタヨコは自分自身に怒りを覚えた。油断だ。この街で見知らぬ男達を少し信じすぎた。


 だが――




「何企んでいる? って思っているのか」


 ユデンがこちらを振り返る。口角は上がっているが、いつものようなだらしなく軽薄な笑みではない。


「……そうね。あーもう、こんなところに連れてかれるまで気づかないあーしのバカ。でも私を殺すなら他にもチャンスがあったワケなんだけど」

「まあな。ただ、最初から殺すと決めてたワケじゃねえってだけだ――この後はおまえの選択次第だタヨコ」


 ユデンは駐車場の車輪止めに腰を下ろすと、立ったままのタヨコを見上げた。その顔は変わらず、不敵で、しかし凄みのある笑みのままだ。


「お前が気になって仕方ねえ俺の企みを全て話してやる。それに乗るか乗らねえかはタヨコに決めてもらう。ただし乗らねえなら俺達とは一緒にいられねえ。上の連中にチクられる前に死んでもらう」




 ◆ ◆ ◆




 

 大通り。


 塗装とそうの傷んだワゴン車やトラックが、次々と砂埃すなぼこりを上げて走っていく。道の片隅に横たわる幾つもの死体には目もくれず。人に見捨てられた死体に群がる黒いカラスは、さながらあの世からの使いだ。その場所の支配者の寵愛ちょうあいを受けられなかった者達が、毎日飢え、撃たれ、切り刻まれて死んでいく。




 タヨコ・ソーラがユデンの管理下に加わってから一年近い時間が経った。エナルゲ・ファミリーは更に二つの街を支配下に置くことに成功していた。


 そのとある整備施設。ラピチンシティへの襲撃で華々しくデビューを飾ったワンオフ機四機が、エナルゲ・ファミリーが雇った闇メカニック達によって整備を受けていた。


 飛行能力に優れた青いボディの「ユト」。チェーンソーとガトリングガンという大型武装の扱いに長けたミドリのボディの「レギュラ」。日本のシミターを装備した近接戦仕様の桃色のボディの「ゼルディ」。そしてパワーとスピードを高次元で兼ね備えた金色のボディの「ハオク」。いずれも闇メカニックであるヤミー・タークの傑作けっさくである。


 格納庫のキャットウォークを黒髪オールバックの男が歩く。「ハオク」のパイロットであるテンネ・ガスだ。


(出撃の予定は今のところナシか……確かに今はこれ以上土地を盗っても手が回らんだろうが。目立って攻撃を仕掛けてくる勢力もいないのか)


 ハオクの目の前で足を止めて、テンネはその金色の機体を見上げる。


「なんだワーカーホリックか? しばらく手伝ってもらうようなこともねえぞ」


 声がした方をテンネは見る。キャットウォークの反対側からヤミーが歩いてきた。


「不意に時間が空いて暇だったもんでね」

「それで愛機を眺めにか」

「愛機か。そこまで入れ込んではないが大事な仕事道具だしな」

「おい俺の作った機体だぞ。ちゃんとれろよ」


 ヤミーは左手に持ったビール缶に口を付け、一口飲んだ。


「街の方がピリピリしてやがる。テンネは何か知ってるのか?」

「知らん。知ってても話さん」

「声かけたのは失敗だったぜ。なんて雑談のしがいがない奴なんだ」




 ヤミーは残りのビールを飲み干してしまうと、その空き缶をテンネに無理やり押し付けた。


「俺は別の機体の作業しに行くから、それは外のゴミ箱に捨てておいてくれ」


 そう言って立ち去ろうとしたヤミーの足が、数歩進んだところで止まる。ヤミーは振り返らずにテンネに聞いた。


「おまえのハオクにもうちょいオマケしたら《《教えてくれるか》》?」

「……何も知らないと言った」


 ヤミーは背を向けたまま、右手を上げてだらしなく手を振る。


「そうかい。じゃあゴミ頼むぜ」


 キャットウォークを降りていくヤミーの背中を、テンネはしばらく見つめていた。




 ◆ ◆ ◆




「さてと」


 ガラワルシティのとある倉庫。四十人以上もの人間が集まるその前で、ユデン・イオールが腰かけていたソファから立ち上がり、両腕を突き上げながら不敵に笑った。


「祭りの時間だ! 派手に暴れて盛大に船出と行こうじゃねえか!」


 その言葉をきっかけに倉庫の中に雄叫びが響いた。




(レイダー・キング・リターン 前編 フィーンズ・パーティー⑥ へ続く)





 



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