超人激突! 古代遺物防衛戦!④
「よし、全検査異常なし。すぐ出れるぞカリオ」
レトリバーⅡの格納庫。ハンガーで立たせた状態で出撃前検査を行っていた、ブンドドマルのコックピットから顔を出すタックの言葉を聞いて、カリオはクレーンのバスケットに乗り、コックピットへと上昇していく。
「しかし忘れがちだけどよ、お前らって有名人なんだよな。リンコとニッケルもピエン・ピエールの前じゃ霞むが、反乱軍にいた連中で名前知らねえ奴の方が少ねえだろうし」
「なんか複雑な気分だぜ。あんまり嬉しくねえ……」
「なんでだよ」
「有名人にしかわからない悩みがあるというか」
「ぶん殴るぞテメエ……」
カリオがコックピットに乗り込むと、タックは思いっきりしかめっ面になって不満を表した。
「ああそうだ。新しい機体には『シンロク』っていう新しい脳波コントロールインタフェースを積んでる」
「お、そこも新しくなってんのか」
「以前まで搭載してたものよりダメージフィードバックがかなり低減されててな。少なくとも手足をもがれたぐらいじゃパイロットは死ななくなる。重傷にはなるだろうが……。というわけで前より死ににくくはなるが、だからと言って無茶しないでくれよ」
「結構大事なことなんじゃねえのかそれ、言い忘れてたな?」
カリオの指摘に、タックは頬をかいて苦笑いし、誤魔化した。
「おいタック。カリオの準備は出来たか?」
タックの胸元に付けられた無線機からニッケルの声が聞こえてくる。
「ああ、大丈夫だ。よし、じゃあがんばれよ! 今回はオウウ連合側で司令艦を用意してまとめて指揮するんだってな。レトリバーはその司令艦と後方で待機か。あとでマヨや俺らにも土産話聞かせてくれ」
タックはニカッと笑ってクレーンのバスケットに乗り、コックピットから離れていく。
「あのバカ、とても遊びに行くようなテンションじゃねえっての」
「味方さんが戦中のエースから凄腕傭兵まで有名どころ勢揃いだもんね。でもこれで敵さんビビッてくれたら仕事楽になるかもよ~?」
「だといいけどよ。オウウ連合がこれだけ揃えるのになんかワケあったら嫌だしなぁ」
リンコと通信で他愛ない話をしながら、カリオはピエン・ピエールと初めて会った日――内戦でのある戦いを思い出していた。
◆ ◆ ◆
二年半前――
ズギュン!
深紫色のビッグスーツが、弓状の形をしたビーム兵器――アローフォームライフルのグリップを放すと、その円筒状の銃身から太い金色のビームが放たれる! その先にはビームソード一本を両手で構えた、白いクロジ。
ギュルル!
白いクロジは身体を捻らせてビームを避けると、そのまま前進しながら一回転、右から左へ横薙ぎの鋭い一閃を放つ!
逆水平!
ビキィ!
深紫色の機体はその斬撃を、アローフォームライフルのリムの端で受け、弾き返す。そしてすぐに体勢を低くし、再びアローフォームライフルのグリップを弦のように引いて、白いクロジに狙いを定める。一方、斬撃を弾かれたクロジの方も、弾かれた勢いそのままに逆回転、今度は左から右へ超高速の一撃を放つ!
横一文字――!
――両者の放った一撃が交差し、二体のビッグスーツは動きを止めた。辺りを静寂が包む。二機の周囲では傷ついた複数のビッグスーツが、その場から動かずその様子を固唾を呑んで見守っている。
ザシュッ……
弓から放たれたビームが抉った大腿部を片手で押さえながら、白いクロジが膝を付いた。その眼前では深紫色の機体が見下ろすように立っている。
ナルミシティ近郊。その街へ侵攻しようとしたケーワコグ共和国軍と、防衛にあたる反乱軍とで戦闘へ突入。その決着が今着かんとしていた。
「カリオ!」
「准尉!」
白いクロジのコックピットでパイロット――カリオ・ボーズは、スピーカーから次々に漏れてくる仲間の心配する声を聞きながら、自分の死を覚悟した。
だが目の前に立っていた深紫色の機体は、アローフォームライフルを背中にしまうと、背をカリオに向けてその場を去ろうと歩きだした。
「――トドメを刺さねえのか」
カリオは思わず、深紫色の機体に尋ねた。スピーカーから、聞きなれぬ若い男の声――深紫の機体のパイロットの声が聞こえてくる。
「……あからさまに勝負ついてから、無闇に殺すのは僕の趣味じゃないんだよね。もっとも、また攻めてくるつもりならここで息の根を止めとかなきゃ仕方ないんだけどさ」
「……ああ、多分俺達はまた来るぜ」
カリオの返答に、深紫色の機体のパイロットも、二人の周りで見守る他の機体――共和国軍の兵士達と反乱軍の兵士達も驚いた。カリオは淡々と話し続ける。
「理由は知らねえが〝ダークエルフの街を攻め落とせ〟って上官がうるさくてね」
「おいおい、君の上官はレイシストか何かかい?」
「あり得るな。それか別の誰かから何か頼まれてるんじゃねえの」
「……で、君はワケもなくそんな話をして死に急ぐのか。変な人だね」
深紫色の機体は腰からビームダガーを抜くと、ビーム刃を展開する。そしてその切っ先をカリオの白いクロジに向けた。
「カリオ! じっとしてんじゃねえ! 退くぞ!」
「准尉! ひとまず撤退だ!」
深紫色の機体のパイロットは、刃を向けられてなお、ピクリとも動かない白いビッグスーツを見て、目を細めた。
「こんな状態で、反撃する気はあるのかい?」
「……死に急いでいるわけじゃねえ。帰りを待っている女性もいる。ただ……」
カリオはそこまで言って言葉を詰まらせた。答えに迷う彼の様子を見て、深紫色の機体のパイロットはため息をついた。
「やっぱり趣味じゃないね」
深紫色の機体がダガーのビーム刃を消し、腰に戻した。その様子を見たカリオは目を丸くする。またスピーカーから、若い男の声が飛んできた。
「君がカリオ・ボーズであってるかい?」
戦場に似つかわしくない、気さくな声色に戸惑いながらもカリオは答えた。
「そうだが、なぜ知っている?」
「有名人なんだよ君。ついでに僕も有名人なんだけどな。その様子じゃ知らないか」
深紫色の機体は再び、カリオに背を向けて歩き始めた。
「僕の名前はピエン・ピエール。名前と一緒に君の上官に伝えといて。次来るときは今日の三倍の兵力で来なよって。大歓迎するよ。派手に皆殺しにしてやるから」
(超人激突! 古代遺物防衛戦!⑤ へ続く)




