超人激突! 古代遺物防衛戦!③
講堂に集まっていた傭兵達の視線が、一斉に銀髪の男の方へ集まる。銀髪の男はきょとんとした様子で、講堂の中を見渡す。
不意に、彼の目がある一点を向いて止まる。その先には、およそ傭兵を生業にしているとは思えない、栗毛の可憐な女性がいた。
「おお……!」
ピョーン!
銀髪の男は飛び上がり、空中で前方に三回転しながら栗毛の女性の前に着地した。酷く透き通った瞳が、栗毛の女性の目と合う。
「なんと……このような場に出会いなど期待しておりませんでしが、あなたのような美しい方に出会えるとは」
男は一番右端の座席に座る女性の横で、片膝を立てて跪き、胸に手を当てた。
「まるで一輪のウツボカズラ! このような任務にあなたのような可憐な女性が参加するとは……あまりにも危険すぎる! どうです私とバディを組みませんか? 命にかけてお守――」
ゴッ
次の瞬間、栗毛の女性の拳が銀髪の男の顔面にめり込んだ。銀髪の男は吹き飛び、壁に叩きつけられ、そのまま前のめりに倒れた。
「またやってる……」
「ってかアイツ、傭兵だったのかよ」
リンコとニッケルが呆れてため息をつくと、他の傭兵達も苦笑いした。
「〝栗毛の剛拳〟、モンシロ・ホワイトにナンパするたぁ、命知らずにもほどがあるぜ」
一人の傭兵がそういうと、講堂内にどっと、他の傭兵達の大きな笑い声が響いた。
「あ、あの人がモンシロなんだ! この前マフィア一つ潰したって噂の……アレ、カリオ? どしたの?」
リンコが微動だにしないカリオに気づいた。この空気の中、カリオは無表情で銀髪の男をじっと見つめたままだ。
「? あのナンパ男君がどうかしたの?」
「……」
カリオは不意に立ち上がって歩き出した。リンコが不思議そうに見つめてる横で、ニッケルが「どうした? カリオ」と呼びかける。だがカリオは歩みを止めず、真っ直ぐにうつ伏せに倒れる銀髪の男に近づいていく。
「?」
「?」
リンコとニッケルは不思議そうにその様子を見つめる。馬鹿笑いしていた他の傭兵達もカリオの様子に気づいて、そちらの方へ視線を向けた。
カリオは銀髪の男のすぐ傍まで寄ると屈みこんで、うつ伏せのままの銀髪に声をかけた。
「その……間違ってるかもしれねえんだが……もしかして、〝ピエン・ピエール〟か?」
講堂が静まり返った。
一拍置いて、のそりと銀髪の男が顔を上げて答えた。
「ぐすっ……そうだけど……って、おや!? 君の方こそもしかして……カリオ・ボーズ!?」
静まり返っていた講堂がどよめき始める。
「い、今、カリオの奴ピエン・ピエールって言ったか!?」
ニッケルが驚きで目と口を丸くする。その横のリンコも同じ表情で固まっている
「ピ、ピエン・ピエール!? 反乱軍に雇われた傭兵の中で最も多くの共和国軍機を撃破したトップガン……! あのナンパ男が!?」
リンコの声に反応して、銀髪の男――ピエン・ピエールはむすっとした表情でそちらを向いた。
「失礼なコト言うモヒカンのお姉さんだな! む? 髪型はイカついけど結構可愛い人では? あのモヒカンさんはカリオ君の友達かね?」
「……ああ、今アイツと横のアフロの奴と同じチームで傭兵して生計立ててる」
どよめく講堂。周囲に座る傭兵達は口々に話し始める。
「アレがピエン・ピエール? ホントかよ。確かに〝ダークエルフ〟と聞いていた通りの外見だが……偽物じゃないのか」
「もう片方はカリオ・ボーズってマジか。共和国軍のエースじゃねえか」
カリオはピエンに手を差し伸べる。ピエンはその手を取って立ち上がった。
「マジか!? 反乱軍にいた俺らでもピエン・ピエールとは直接顔を合わせたことないぞ」
「なんでなんで? カリオがなんで知り合いなワケ?」
ピエンは服に付いた埃を払うとカリオに向き直った。
「君とはアレだ、ナルミシティで戦った時以来だね」
「ああ、つってもあの戦いしか俺らは接点無いが……アンタの体の動きと発する気の流れとニオイは忘れちゃいねえ」
「カリオ君、変態って言われない?」
「そっちだって俺の顔も知らないくせに気づいたんだから、お互い様だろ」
ピエンは再びむすっとする。だがすぐに何かに気がついて、先ほど自分が入ってきた講堂後方の扉へ目を向けた。
「ああ、もう一人来るみたいだね。僕も君も知っている人……いやニオイで気づいたんじゃないよ?」
「もう一人?」
ガチャ……
カリオがその扉へ目を向けてすぐに、黄色いフード付きのスポーツウェアに身を包んだ男が、静かに講堂へと入ってきた。その顔はフードにすっぽり隠されて、無精ひげの生えた口元しか見えない。
がたり、と音がした。先ほどピエンを殴って吹きとばした、モンシロ・ホワイトが突然立ち上がったのだ。そしてこう言った。
「オコジ・イタチ! あなたもここへ!?」
モンシロの言葉を受けて、男はその黄色いフードを後ろにやって、顔を出した。白髪交じりの黒の短髪に、明るい茶色の瞳がギラギラと輝く。
「息災だなあ〝栗毛の剛拳〟。あまり危ない仕事はしたくないんだがクライアントさんの押しが強くてね」
ニッケル、リンコを含む講堂内の傭兵、そしてカリオもまた驚きの表情を見せた。先に気づいたピエンは「やっぱりね」と呟いて不敵な笑みを浮かべる。
黄色いスポーツウェアの男――オコジ・イタチは、カリオとピエンに気づくと、ニカッと笑って手を振った。
「おいおい、元共和国軍随一の剣客、カリオ・ボーズと元反乱軍エースのピエン・ピエールが並んでるたぁ、戦中には想像もできなかった光景だな!」
三人の様子を見ているニッケルとリンコは、体が固まったまま口だけを動かしていた。その横でカソックも目を丸く見開いたまま固まっている。
「おいおい、オコジ・イタチまで出てきやがった……! カリオと同じ、共和国軍の三人のエースに数えられた内の一人……!」
「ちょっと待って……もしかしなくても今、この空間に大陸最強の戦力が集まってたりする……?」
うぉっほん、と大きな咳払いが講堂内に響き渡る。皆が一斉にそちらを向いた。咳払いの主はムツボシだ。
「少し遅れたが全員揃ったようだな。これより任務の詳細を説明する」
(超人激突! 古代遺物防衛戦!④ へ続く)




