超人激突! 古代遺物防衛戦!②
◇ ◇ ◇
「地上艦港からです。レトリバーⅡ、到着しました」
「うむ」
オウウ連合・イチノヘシティ。オウウ連合治安部隊所属のムツボシ・テントウは、隊長室で部下からの報告を受け、手元の紙に書かれたリストを確認する。
「残りの傭兵もすぐに到着しそうか……予定通り、今日の俺のランチは遅めだな」
◇ ◇ ◇
カリオ・ニッケル・リンコの三人は、イチノヘシティの港を出て、商業エリアを歩いていた。艦長のカソックとは後ほど合流予定だ。様々な店舗に挟まれた大通りは、歩行者で賑わっており、時々その波をかき分けるように、輸送用のトラックがゆっくりと走っていく。
「お土産先に買っといてもいいかな?」
「ああ、まだ時間はある。俺もなんか見に行くか……カリオ、どうした?」
道を歩きながら話していたリンコとニッケルのすぐ後ろで、腰に刀を帯びたカリオが、立ち止まって大通りの向かい側を見ていた。
その視線の先では、銀髪のセミロングヘアに褐色の肌、とんがった耳をした若い男が、ブロンドヘアーの女性に話しかけていた。
「そう……この無駄に広い大陸で君のような素敵な女性に出会えた奇跡に感謝! まるでアマゾンの野獣の群れの中に咲く一輪のラフレシア! ぜひ一緒にお茶でも」
「す、すみません。私……そういうのは……」
カリオ達三人はその様子を冷たい目で眺める
(ナンパか)
(ナンパだな)
(平和ねぇこの街……ラフレシア?)
銀髪褐色の男は急に女性の手を両手で握り、真っ直ぐに彼女の目を見つめた。次の瞬間、彼女は男の手を振り払い――
――パァン!
電光石火のビンタが銀髪男の左頬に炸裂した。ビンタを放った女性はツカツカと反対方向へと歩き去っていった。
(おいたわしや……)
(すごーい初めて見たこんなコメディドラマみたいな光景)
事の顛末を見届けたニッケルとリンコは、左頬を抑え絶望する男を憐みつつ、再び歩き出そうとした。
ふとニッケルが、その場を動こうとしないカリオに気づいて二歩目を踏み出すのを止めた。
「どうしたカリオ? 確かに面白い光景だったけどよ。当事者には悪いがな、ハハハ!」
「うーん、どうもどこかで見たような……」
「ん?」
カリオは一拍置いて、「気のせいかも」とニッケルに返すと、歩き出した。
◇ ◇ ◇
ダァン!
身長二メートルを優に超える、筋骨隆々の大男が壁に叩きつけられ、その壁がクレーターのように抉れた。大男は曲がった鼻から血を噴き出して気絶する。
「ひぃ!?」
小さなダブルモヒカン男がナイフを前に突き出すが、恐怖で手がカタカタと震える。ナイフの向く先には、一人の男がいた。黄色いフード付きのスポーツウェアに身を包み、赤いオープンフィンガーグローブを手に嵌めた男。大男を壁に叩きつけた張本人である。
「やめときな。刃物なんてのは、冷や汗かきながら無理してまで構えるもんじゃねえ」
目深にフードを被った男がダブルモヒカン男にそう告げた瞬間、突如彼が持っていたナイフがピキピキと音を立ててひび割れ、砕け散った。
「ひ、ひぃい!!」
攻撃などまるで見えなかった。驚いたダブルモヒカン男は壊れたナイフを投げ捨て、一目散に逃げ去っていった。
「やれやれ、仲間置いていきやがった。大丈夫かい? おじさん」
イチノヘシティのとある裏路地。気絶した大男から少し離れた位置で、痩せた壮年の男性が震えながら壁によりかかっていた。
「ええ、ええ、大丈夫です……! ありがとうございます、助かりました」
「こんな原始的なカツアゲに逢うたあ、災難だったな。こういう入り組んだところはどの街も危ないから気を付けな」
壮年の男性は近道をしようと狭い裏道を通っていたところ、ならず者に金品の類を脅し盗られかけたのだ。そこを通りがかったフードの男に助けられた。
「さ、コイツらにまだ仲間がいると危ない。そこを抜ければ大通りに戻れる。このデカいのは俺が治安部隊に引き渡しておくからさっさと行きな」
「何から何まで助かります……そ、そうだ。よければ御礼をしたいので連絡先を教えていただけませんか?」
壮年の男性はデジタル端末を懐から取り出そうとしたが、フードの男は片手を前に出して、それを制止した。
「気持ちだけで十分さ。俺は流れ者で同じところには三日といねえことが殆どだからよ」
「そうなんですか? でも――」
「十分さ、アンタが無事でいればそれで」
フードの男は壮年の男性に背を向け、片手で手を振って別れを告げると歩き出した。
「流れの格闘家にとっちゃ贅沢はかえって重荷さ」
◇ ◇ ◇
イチノヘシティ治安部隊基地。
カソックと合流し正門を通されたカリオ達は、広い講堂へと案内された。中には彼らと同じように、オウウ連合に雇われた何人もの傭兵達が待機していた。
「うわー、二十人くらいいる? オウウ連合さん、これだけ雇うなんて本気だねぇ」
「リンコは一体どれだけ土産買ったんだ……この後すぐ任務だぞ」
「あースマン、オヤジ……ほどほどにしておけって言ったんだが」
大量の買い物袋で両手が塞がれているリンコに、講堂内の傭兵達の視線が一斉に注がれる。リンコは舌を出して苦笑いで答えた。
「恥ずかしい」
カリオがそうぼやきながら椅子に座ると、リンコが荷物をテーブルに置いて横に座り、突っかかった。
「いーじゃんちょっとぐらい! ホラ、アレよ、さっきのナンパ男より恥ずかしさはマシだって!」
「下と比べるなよ! クソッ、あの雑貨屋とコスメブランド店に入っちまったばっかりに……」
「すごい品揃えよかったもんだからつい……」
二人が話していると、部屋前方の扉が開き、腕に腕章を付けた口髭の男性が入ってきて、講演台に立った。オウウ連合治安部隊のムツボシ・テントウだ。
(そろそろミーティングを始めたいが……《《肝心の二人》》がまだ来ていない、か)
ムツボシは手元のバインダーを開いて、傭兵達の方を向いた。
「まだ到着していない者がいる。申し訳ないがしばし――」
バァン!
ムツボシの言葉を遮るように、音を立てて勢いよく講堂後方の扉が開いた。
そこに姿を現したのは――先ほどの銀髪のセミロングヘアに褐色の肌、とんがった耳をした男。
「ま、間に合っ……た!」
(超人激突! 古代遺物防衛戦!③ へ続く)




