転生したらロボットになってて無双&ハーレムが以下略⑫
◆ ◆ ◆
「ブンタは連休どうすんだよ」
「家でのんびりします」
オーツカシティの大衆居酒屋。四人の男性サラリーマンが座敷席を囲み、酒をのみ料理をつついていた。
その中の一人、ブンタ・H・ナイトウはビールをチマチマと飲み進める。その隣で別の男性サラリーマンが、ぐびぐびとビールを一気に飲み干し、ジョッキを空にする。
「マジかよ。今週末はアレだぞ。この街でライブあるんだぞ。オニギリ・ゴブリンの」
「有名なんですか?」
「え!? 知らねーのか!? 連続ミリオン達成だぞ!?」
ブンタの隣のサラリーマン――ヨーキャは心底面食らった様子でジョッキをテーブルに置いた。
「クソッ、ダメだオメー。仙人かってんだ。よし決めた。おまえも来月のバーベキュー参加な」
「えー!? 嫌ですよ!」
「来いよ! 日の光を浴びないとよくねえだろうが」
「おいヨーキャ、あんまりブンタを困らせんなよ」
ブンタの対面に座るサラリーマン――リアジュが焼き鳥を噛みながらヨーキャを窘めた。
「人には人の充電方法ってもんがあるんだよ、なあブンタ。来月は俺とコムキョとカイジュウ・ハントⅢ買ってオンラインで遊ぶもんな」
リアジュの隣で別のサラリーマン――コムキョが煙草を吸いながら頷く。
「いや、それもまだ決まったわけじゃ」
「なんすか! リアジュさんもコムキョさんも俺のことハブるんすか!」
「四人パーティでプレイできるんだからお前も買えよヨーキャ」
とある月の給料日、ブンタは仕事仲間と飲みに来ていた。家でゆっくりしたい彼にとっては面倒な用事であった。この三人、ブンタが今まで出会って来た人間の中ではやたらと押しが強い。仕事はガンガン回してくるし、やたらと自販機で奢ってくるし、出張先ではトランプゲームに強制参加させてくる。
「ブンタ、さっきのマニアックな店で何受け取ってたんだよ」
コムキョはブンタの横の紙袋を指さす。ブンタは咄嗟に体で紙袋を庇ってしまった。
「いや、盗らねえって!」
「どうせ俺らには価値のわからん代物だろ」
「ひ、酷い言いぐさっすよ。見せはしないですけどコレのために今月働いたようなもんです」
「見せる気ねえくせになんでそんな妙なアピールするんだよ」
しばらくだらだらと居酒屋で雑談に興じていた四人は、日付が変わる前に居酒屋を後にした。千鳥足になるほど悪酔いはしていなかったが、四人とも頬が真っ赤になり、冷たい夜風がその温かみを強調させた。
「リアジュのところも子供が産まれるのかぁ」
「コムキョ、なんかお下がりねえのか。服とか玩具とか」
「コムキョさんとこはもう四歳でしたっけ?」
三人のよく喋る男達のすぐ後ろを、ブンタはついていくように歩く。子供か。生まれてこの方、女性と縁のない人生を送ってきた自分には無縁過ぎる話題だ。
「ブンタ、おまえはまだ結婚しないのか」
「セクハラだぞリアジュ」
「そうっすよ。というわけで明日からリアジュさんクビで俺が代わりにそのポジション入ります! ってね!」
――なんでこの人達、僕に構ってくるんだろう。
どう考えても自分はこのメンバーとはタイプが違うだろう。今までの人生経験から考えて僕のコトを避けるタイプの人間のはずだ。そう思ってそれをオブラートに何重にも包んだ感じでヨーキャさんに聞いてみたことがある。その返事がこれだ。
「はぁ? おまえなぁ、人に絡む時にどういうタイプとかどういう趣味とかいちいち考えてられっかっての。んなもん適当よ。その場のノリよ」
正直言うとドン引きした。この人達何も考えてねえ。僕がちょっと暗くて大人しい感じの人間だとか、ゲームや美少女アニメが好きなオタクだとか、見た目以上に体脂肪率があるとか、そんなこと一切気にせず、考えずに僕に缶コーヒーを賭けてじゃんけん挑んで来たり、飲みに誘ったり、変な髪形薦めて来たりしてるのか。信じられない人達だ。
ブンタは、前を歩きながら喋る三人の背中を、目を細くして見る。面倒くさい人達だ。今日この三人と飲んでなかったら、録画していたアニメを見ながらゆっくりできたのに。
――でも、昔と違ってひとりぼっちじゃない。
「おいブンタ! おまえも今度何か出産祝い買いに行こうぜ!」
ヨーキャが笑いながら振り返ってブンタに声を掛ける。
「ちゃんと日にち決まったらまた教えてください」
ブンタは笑顔で返事をした。
その次の信号。
横断歩道を渡るヨーキャの背中を、いきなりブンタは突き飛ばした。その次の瞬間。
ずどん、と鈍い振動が体中を走ったかと思うと、天地がぐるりと回り、もう一度ずどんと鈍い衝撃が頭を揺らした。
叫びたくなるほどの強い痛みが徐々に薄れるにつれ、意識は遠くなり、目の前では赤い血の海が広がっていった。
(転生したらロボットになってて無双&ハーレムが以下略⑬ へ続く)




