転生したらロボットになってて無双&ハーレムが以下略⑥
「この死体が僕って……え、どういうこと? ロボ君」
もがくマヨの両目を手で押さえ続けながら、ミントンはブンタに問いかける。その時――
ズガァアアアン!
突然激しい爆音が鳴り響き、強い震動が建物を揺らす!
「!! ひえー! さっきの建物爆発したですかー!?」
「い、いや違う、これちょっと遠いよ!?」
マヨとミントンが慌てる中で、ブンタは未だ自分の死体から目を逸らせずにいた。
◇ ◇ ◇
ズガァアアアン!
「今度は何だ!?」
「あそこは……兵器実験棟!?」
ブンタ達の捜索をしていた武装警備員達が大きな爆音に反応し、そちらに顔を向ける。工場内でもひときわ大きな建物の外壁が崩れ落ち、煙が上がっている。
その中から長い手足が伸びてくる。手足に引っ張られて人型の巨大な胴体が建物の外に這い出てくる。全高三十メートル。四本の細長い腕を持つ、鈍色の装甲に覆われた巨躯の機体がゆらりと姿を現した。
「何だアレ……ウチの会社にあんなものが……」
「機動兵器の研究とは聞いていたが……やりすぎじゃないのかアレ……」
その機動兵器――ハトシー・ロムレに脳を移植されたタクオは、周囲をぐるりと見回す。周囲に見える建物は、どれも「今の自分」より小さい。下に目をやれば虫のように小さな人々が慌てふためいている。
その光景は、いつも劣等感に苛まれてきたタクオの自尊心を、歪んだ方向に高めた。
「お、俺は……」
タクオは長い腕を折り曲げ、金属製の手のひらを見つめる。赤い血がべっとりとついている。彼は先ほどの研究者を、その巨大な手で叩き潰していた。
あの日、アライシティで死ぬ前のタクオの人生は決して華々しいものではなく、むしろ惨めに思えるようなものだった。頭脳面でも肉体面でも平凡以下であった彼は、時に馬鹿にされ笑われ、時に激しい怒りを買い、時に愛想をつかされ――そんなことの繰り返しを経て、彼の心は酷く歪んでいった。
いつしか人や外の空気と直に接触することを避けるようになった。薄暗く汚い部屋に閉じこもり、コンピューターやテレビ、ラジオから流れる情報をひたすら食べては、そこに感情をぶつけ、一人傷つく。彼はそんな望んでもいなかった生活にしがみつくようになっていた。
そのように生きてきた彼に、機械の手のひらに付いた血が悪魔のように囁いた。タクオの心は、すぐに激しく昂った。
「ハ、ハハハハハ……! これはすげえやァ。そうだ、もう夢か現実かどうかはどうでもいいし。とにかく今無敵の内に楽しむし……!」
ハトシー・ロムレの外部スピーカーから、タクオの禍々《まがまが》しい感情のこもった声が響く。
「なんだあのデカいの……喋れるのか?」
タクオの足元に、ブンタ達を探していたのとは別グループの武装警備員達が集まって来る。彼らは少し距離を取り、ハトシー・ロムレに銃口を向ける。その様子を、タクオは冷たく見下ろす。
「おっ? おっ? アー、俺にそんなこと、するの? ……っらあぁー!」
奇声を上げながらタクオは、警備員達に向けて四本ある腕の一本を振り下ろす――!
ドォン!
◇ ◇ ◇
「ひぃっ!」
再び遠くから爆音が伝わって来るのを感じたミントンは思わず耳を体を震わせた。
「もーなんなのよ、今どうなってんの……とにかく早くここ離れた方がよさそう! ロボ男くん、動ける? あ、いや、その、事情はよくわからないんだけど……」
ミントンはマヨの両目を塞いだまま、立ち尽くしているブンタに声を掛ける。目の前にあるボロボロの男の死体。妙に生々しい感情の揺れを見せるロボット。尋常ならざる事態がそこに存在するのはわかっていた。それでも今、ここから動かなければ、三人全員が三途の川を渡る羽目になるかもしれない。
「い、い……行きます。すみません」
ミントンが再び声をかけるより先に、ブンタはか細く、小さい声を振り絞って返事をした。ミチぽんのフィギュアを強く握りしめたまま、くるりと死体に背を向けると、速足で部屋の外へと向かう。
ミントンとマヨもそれに続き、建物の外を目指す。彼女達を探していたはずの警備隊達の気配はもうない。むしろ建物の外から、先ほどの騒ぎの時より、さらに大きな衝撃音と発砲音が聞こえ、異常な事態が起きている事を予感させた。
パパパパパン!
ダダダダダ!
「出た! 外! ……ってうわぁ!?」
外に出たミントン達三人は慌てて足を止めた。見えたのは逃げ惑う警備隊員や研究者、作業員達と、小さな山のように巨大な暴れ回る四本腕の機動兵器。
「何よあのデカブツ! どこから出てきたのよ!」
「ひえええ! こっちに歩いてきますよ!」
逃れようと走り出す三人に、ハトシー・ロムレそのものと化したタクオが気づく。タクオはゆっくりと一歩踏み出して三人に近づくと、そのまま長い腕を振り下ろして三人を叩き潰そうとする!
「うううわあああー!!
「――ッ!?」
その時である。タクオの目にあるものが映った。
まさに今、叩き潰そうとした眼下の茶筒型のロボットの手に握られているモノ。鮮やかなピンクでフリフリのスカートが映える、先端にハートが付いた杖を持つ栗色の髪の美少女のフィギュア――
「それは……ミチぽんのフィギュア!?」
(転生したらロボットになってて無双&ハーレムが以下略⑦ へ続く)
 




