転生したらロボットになってて無双&ハーレムが以下略⑤
(何言ってんだこのハゲ……)
寝起きで頭が回らない中、タクオは小さな白衣の男を蔑むように見下ろす。
「覚えていると思うが君はアライシティで犯罪を起こし、君を捕えようとした治安部隊に殺されたのだ。そこで我々リンネ・リンネ社が裏から手を回して君の死体を回収し、脳など体の一部をその大型機動兵器『ハトシー・ロムレ』の生体ユニットとして移植したというわけだ」
(何言ってんだこのハゲ……え?)
「生体ユニット」という単語を聞いたタクオは周囲を見回す。自分の腕があるはずの場所には、細く、しかし長大な金属の腕が生えている。
(何だコレ……)
再びタクオは前方の小さな研究者に視線を戻した。すると不思議なことが起こる。とても小さく見える研究者の顔に突如視界がズームしていき、その研究者の目や口など、顔のパーツから表情まではっきりと読み取れる位置でズームが止まったのだ。まるで高機能カメラだ。人間の目ではこんな事――
「まるで高機能カメラだ、とか思うだろう。今『ハトシー・ロムレ』の機能をモニタリングしているが、君の新しい目は正常に動いているようだね」
タクオは少し混乱し、思わず腕を動かそうとする。ハンガーに繋がれている細長いハトシー・ロムレの腕が動こうとし、引っ張られたハンガーがガシャンと大きな音を立てる。それを見て眼下の研究者は少し慌てる。
「おい、腕の制御はこっちにあるはずだろう? 危ないから確認しろ」
(何? 何だコレって……)
タクオはまた腕を動かそうとする。再びガシャンと大きな音が鳴る。タクオは自分の体を見ようとする。思ったより首が動かず、少し見えた程度だったが――鈍色の金属の装甲が見えた時、タクオの頭にある可能性が浮かんだ。
「も、もしかして……お、俺ロボットになってるゥ?」
《《どこかのスピーカーから》》発せられたタクオの声を聞いて、眼下の研究者がタクオを見上げて話しかける。
「おお、理解してくれたかね。もう少し現状を受け入れてもらうのに時間がかかると思っていたが。君は今ロボット、それもそこらの盗賊やマフィア、治安部隊の連中が束になってかかっても敵わないほど高性能な機動兵器になったのだ」
「機動……兵器……?」
「ああ、死ぬ前は冴えない無力な青年だった君は、今や向かうところ敵なしの超兵器だ。これからは我々の指示の下、大いにその力を振るってもらうことになる……おい君、腕の制御権はどうだった? まだわからんのかね」
研究者は得意気にそうタクオに話すと、パソコンのようなものを操作している部下の方へ向き直り、何やら指示を出し始めた。
「アー、ンー……これマ……つまりマジ?」
タクオは少し考えた。アライシティでの出来事、今の自分の現状、金属の体、研究者の言葉――夢の中で見た女神様。
「あ、あの、その、あなた方の指示ってゆーのわ……」
「ん? ああ、競合他社・犯罪組織・邪魔な自治コミュニティへの襲撃といったところか。私の試算では君を活用すればビッグスーツ一個小隊の半分程度のコストで一・五倍の戦果を挙げられる……」
「は、働くってコト……?」
「んむ、実に名誉なことだろう!」
タクオはそこで黙り込み、視線を横にして、機械の腕を見る。まだ現在の状況を完璧には飲み込めていない。だが目の前の小人のような研究者、彼が発した言葉。タクオの直感が、このままジッとしていれば自分によくないことが起きるのではと告げる。
「腕の制御権、あと二十秒で復帰します」
別の研究員の声が聞こえた。タクオに考えている時間はなかった。
タクオは腕――自分の新しい腕に力を込める。
バキバキバキバキ!
「リーダー! ひ、被検体が!」
「あ、暴れ始めた! 制御権……いや鎮静プログラムを早く――」
◇ ◇ ◇
「思いの外、広くてややこしい作りね、この建物」
ミントン、マヨ、そしてブンタの三人は慎重に、忍び足で建物の中を歩いていた。どこで武装した警備隊と鉢合わせするかわからない。さっきとは真逆の静けさが不安と緊張を煽った。
「ん? ちょ、そこのロボ、ロボ助。どこにいくつもりよ? その部屋がどうしたの?」
ミントンが呼びかける先には、近くの部屋のドアを開けるブンタの姿があった。ブンタは吸い込まれるように部屋に入っていく。
「何してんですかあのロボさん。まさかこのピンチを打開できるアイテムを発見したでげすか?」
「マヨ、漫画の読み過ぎとビデオゲームのし過ぎで……え、マジ? 部屋の中に何かあるの?」
ブンタの後ろをマヨとミントンがついて行く。ブンタは部屋の隅の箱に入れられているあるものをマジックハンドの様な手を使って取り出した。
マヨとミントンはその手が掴んだものを見る。鮮やかなピンクでフリフリのスカートが映える、先端にハートが付いた杖を持つ栗色の髪の美少女のフィギュア――
「ミチぽん!! こんなところに!!」
ブンタが歓喜の叫びをあげる。マヨとミントンはその光景を見て少しばかり背筋が冷える感覚を味わう。
「ロボさんってオタクだったですー!?」
「この状況で美少女フィギュア見つけてデカい声上げてんじゃねぇー!!」
マヨとミントンが向ける冷たい視線をよそに、ブンタは周囲を見回す。
「でもぼくの買ったフィギュアがなんでこんなところに……ん?」
ブンタは自分の斜め後方、大きなテーブルの上でこれまた大きなシートを被せられた何かを見つけた。ちょうど大人一人分ぐらいの大きさである。
「……」
ブンタの直感が嫌な予感を告げる。これは、このテーブルの上にあるのは。
ブンタはゆっくりとシートをめくる……
「……あ……」
「!! わっ、わわっ、マヨは見ちゃダメ!!」
様子をうかがっていたミントンが慌ててマヨの両目を手で塞ぐ。
シートの下から出てきたのは、上半身に激しい損傷を受けた男性の死体だった。頭にいたっては、眉毛の上の辺りから綺麗に切断され、脳みそを取り除かれた頭蓋骨が剝き出しになっている。
だが顔の損傷は少なく、誰であるか判別は出来た。ブンタはその顔を見て呟いた。
「――これ……僕だ」
ブンタはアイカメラの視線を、その死体の顔に向けたまま動かなくなる。その少し大人しそうな印象を与える童顔は、毎日鏡で見ていた自分の顔に間違いなかった。
「――本当に、死んだのか。僕」
ブンタのミチぽんのフィギュアを握る手に、ギュッと少しだけ力がこもった。
(転生したらロボットになってて無双&ハーレムが以下略⑥ へ続く)




