転生したらロボットになってて無双&ハーレムが以下略②
◇ ◇ ◇
「目覚めるのですブンタよ……目覚めなさい……」
女性の声が聞こえてきて、ブンタ・H・ナイトウは目を開けて体を起こした。何もない真っ暗闇の空間。ブンタの周囲にだけ光が降り注いでいる。
そのブンタの真正面。大きな椅子に女性が腰かけている。白い装束に美しい金色の髪、宝石が散りばめられたサークレットに、その宝石に負けないくらいの輝きを持つ碧色の瞳。
その美しい女性を目の当たりにしたブンタは思わず口にする。
「貴方は……さては女神様!」
女神と呼ばれた女性はブンタに優しい笑みを浮かべる。
「ブンタよ……貴方の命は失われました。輪廻転生の理に則り、私は女神として貴方に新たなる生を与えます」
その言葉を聞いたブンタは目を見開く。
(こ……これはまさか! 異世界転生という奴では!?)
異世界転生――死んだ人間が別の世界の住民として蘇る事である。
遥か昔、人類がかつて暮らしていた地球という星では、「異世界転生モノ」というジャンルの小説がちょっとしたブームとなっていた。異世界転生モノと呼ばれる作品は、落ちぶれていたり辛い境遇にあった主人公が死亡し、異世界にて生まれ直したあと、強力な能力を得たり前の世界での経験を活かし、周囲が驚く活躍を見せ、前世での扱いが嘘だったかのように称賛を受ける……といった展開のものが多い。
現在のテエリク大陸でもこのジャンルの読み物は存在しており、その痛快な逆転劇を見せる展開の虜になるファンも一定数存在する、ブンタもその一人であった。
(ぼ、ぼくは確かにさっき……交通事故にあって……あれは死んだと思う、多分。そこでこの女神様! これは異世界転生でよくある、〝チートスキル〟をもらえる奴では!? で、でも――)
そう、これがもし本当によくある「異世界転生モノ」でよくあるパターンならば、この女神様から何らかの強力な特殊能力を与えられ、転生後の人生が薔薇色になる可能性が高いのだ!
「手を差し出すのですブンタよ。貴方に恩寵を与えます」
ブンタはごくりと唾を飲み込み、恐る恐る右手を伸ばしていく。その手に女神の左手が触れると、眩い光が辺りを包み込んだ――
――――……!
「うおおおおお!! すごい眩しい!!」
勢いよく起き上がったブンタはベッドから転げ落ちた。
「痛い! ……あれ? 女神様は?」
ブンタは顔を上げて辺りを見回す。何か空調が回っているようなノイズ音が響く、無機質な部屋。かなり暗く、詳細な部屋の様子まではすぐにわからない。
「なんだ……夢か……そりゃそうだよな、異世界転生チートハーレムものなんて都合のいい展開……ん?」
ブンタはふと考える。さっきの女神との邂逅が夢だとして……その前の交通事故は?
女神の夢を見る前――仕事を終えて、ミチぽんのフィギュアを買ってからの帰り道、猛スピードで走る武装大型トラックに轢かれたはずだった。あの時の地面の冷たい感触と血が広がる景色は覚えている。アレも夢だったのだろうか?
現にあれだけ派手に轢かれて体のどこにも痛みはない。ブンタは怪我がないか自分の身体を触ってみた。
カキン
「ふぇ……?」
ブンタは奇妙な感触に戸惑った。鍛えておらず、そんなに固くないはずの自分の腹を触ると、金属音のような甲高い音が返ってきたのである。
ブンタは思わず自分の腹を見た。暗くてよくわからない。だが明らかに普通じゃない。ブンタの腹は人間の体にしては明らかに美しすぎる曲面を見せつけていた。
(待って、何かが、何かおかしい)
慌ててブンタは暗がりの中を歩きだす。そう大きくない部屋だ。近くに灯りを付けるスイッチがあるはず。ブンタは壁を手であちこち探り、目当てのスイッチを探し当てて押した。
パチン
不自然なほど真っ白な照明の光が部屋を明るくする。すぐ近くの壁に鏡がありブンタはそれを覗いた。
「……」
鏡には茶筒のような円柱型のボディに、マジックハンドの様な両腕、細い足が生えた銀色の機械が映っていた。頭部に付いている丸いカメラがキュルキュルと音を立てている――これは間違いなく二足歩行ロボットである。
「……」
ブンタは右手を上げてみる。鏡の中のロボットが右手を上げた。今度は首を回してみる。茶筒型のボディの上側、頭部に当たる部分が水平にキュルキュルと回転した。
「……」
ブンタは鏡の中をじっと見つめる。
「……嘘ぉおおおおお!?」
ブンタ・H・ナイトウは何故かロボットになっていた。
◇ ◇ ◇
とある格納庫。
薄暗く、広く、高さのある空間。二人の白衣の科学者が数台のモニターを前にして会話をしている。
「ふーむ、ブンタ・H・ナイトウもダメでしたか。オーツカシティから調達した生体ユニット候補についてはこれで全部ですかねェ」
「ええ、適当な作業ロボに脳を移植して、奴隷として活用する予定です。移植の方はもうそろそろ終わる頃かと」
二人の科学者の内、背が低い小太りの男性がキーボードを叩き、モニターの画面を切り替える。
「ところでアライシティから調達した候補はですね、これを見てください! 全ての機能について理想性能値の九十パーセント以上を達成しているんですよ!」
もう一人の背が高く、痩せぎすの男性が顎を手で擦り、画面を見つめる。
「ほォー……! これはすごいですねェ! 想像以上です!」
「意外でしたよォ! これがこの候補のデータです。タクオ・ナード。まさかこんな冴えない人間の脳がここまでのパフォーマンスを出せるとは驚きですゥ!」
ディスプレイには太ったメガネの青年――タクオ・ナードの写真が映っていた。そしてそのモニターのはるか後方で、三十メートル近い巨大な機動兵器の装甲が僅かな光を反射して怪しく光っていた。
(転生したらロボットになってて無双&ハーレムが以下略③ へ続く)




