転生したらロボットになってて無双&ハーレムが以下略①
――数か月前、アライシティ。
「んあー! 弁護士が来るまで話しません!」
薄暗く、アニメのポスターやフィギュアが大量に飾られ、七色に光るキーボードが目立つパソコンが置かれた部屋。そこで太ったメガネの青年、タクオ・ナードが複数の男達に押さえつけられ、裏返り気味の声を上げる。タクオを押さえつけているのはアライシティの治安部隊だ。
タクオは日頃の些細な鬱憤を晴らすために、遠隔操作で街中のドローンや作業ロボを暴走させて、民間人を襲撃する事件を起こしたのだ。騒ぎのすぐ後、治安部隊のハイテクな捜査によって犯人がタクオであると特定され、彼の住む部屋への突入が速やかに行われた。
「痛いです! 何なんですか! ハラスメントですよ!」
「ナマ言ってんじゃねぇー! 余罪滅茶苦茶あるじゃねえかてめェー!」
押さえつけていた治安部隊員達は一旦手を放し、警棒を持ってタクオを叩き始めた!
ガンガンガンガンガンガン!
アライシティ治安部隊の気性は荒い。街の定めたルールはちゃんと守り、横領・収賄などは殆どないが、ルールを破った人間に対しての攻撃性の高さはやりすぎと言われても仕方のないレベルである。ドローンと作業ロボの遠隔操作騒動だけでなく、通信ネットワークを利用しての侮辱罪・脅迫罪など、タクオには複数の余罪がある事も今回の捜査で発覚。それは治安部隊員達の怒りを爆発させるのに十分な事実であった。怒りのエネルギーは警棒を振る力に変換され、タクオを襲う。
ガ ン !
一撃。タクオの頭に、他とは違う重さと衝撃の一撃が、入った。
時間の流れが遅くなる。タクオはそれに気づくこともなく負の感情に呑まれ続ける。なんで、なんでだ、何もしていないのに、あいつらが悪いんじゃないか、どいつもこいつも、ミチぽん、なんで、なんでこんな目に。
愚かな青年の意識は暗い底へ落ちていく。何を間違えたのか、わからないまま。
◇ ◇ ◇
――その数日後、アライシティの近くの街、オーツカシティ。
ずどん、と鈍い振動が体中を走ったかと思うと、天地がぐるりと回り、もう一度ずどんと鈍い衝撃が頭を揺らした。
叫びたくなるほどの強い痛みが徐々に薄れるにつれ、意識は遠くなり、目の前では赤い血の海が広がっていく。
若くしてブンタ・H・ナイトウという男の命は今、終わりを迎えようとしていた。
ブンタは朦朧とする意識の中、手を伸ばす。その先にあるのは大人気アニメキャラクター、通称ミチぽんの新しいフィギュア。仕事をして貯めた金で買った最新の商品だ。
ミチぽんのプラスチックの瞳と目が合う。理不尽な事故にあったブンタの心は少しだけ癒された。彼は小さく笑みを浮かべて安らかに息を引き取った――
――はずだった。
◇ ◇ ◇
――現在。
今日も今日とて「ブラックトリオ」と呼ばれる傭兵達とその仲間達を乗せた、オレンジ色の地上艦「レトリバーⅡ」はとある荒野を走っていた。
「船が新しくなってからというもの、すっかり襲撃されることが減ったな」
食堂の端の方に置かれたソファで、ニッケル・ムデンカイがテレビを見ながらビールを飲む。
「そういう意味では機体とか船を替えたのはよかったねー。いやその情報がすぐ出回るほど有名人になっちゃってるっぽいのは嫌だけど……」
その後ろのテーブル席では、リンコ・リンゴがキャンディーを舐めながら爪をヤスリで削っていた。向かいの席ではカリオ・ボーズが漫画本を読んでいる。
「いいのかなトーグリのおっさん、俺のクロジも二人のコイカルも工場で保管しておいてくれるって。前のレトリバーも上手いこと工場に移動出来たらそっちも残しておいてくれるらしいし」
「それねー、私も長年乗ってたコイカルをすぐ廃棄はちょっと寂しい気もしたから嬉しいんだけどさぁ……あ、もうこんな時間か」
リンコがそう言うと同時に、カリオとニッケルは時計を見る。もうすぐ目的地――オーツカシティに到着だ。三人は立ち上がって食堂を出ていく。
三人が廊下を抜け格納庫に向かっていく様子を、その後方、廊下の曲がり角から顔を覗かせて見ている人物がいた。色々あってレトリバーⅡで暮らすことになった少女、マヨ・ポテトと、ショートボブで眼鏡にそばかすの女性メカニック、ミントン・バットの二人である。
「よし……そろそろ出撃でげすね」
「今度の任務どれくらいかかるのかな……バレたら私はともかく、マヨは滅茶苦茶怒られるよねぇ」
「ふん! 多くの修羅場を潜り抜けてきたこのマヨ・ポテト、あの三人の説教なんか怖くねえです……でもバレないに越したことはないです」
カリオ達三人の傭兵はこれからビッグスーツで任務に出撃する。艦で留守番をしているように言われたはずのマヨは、留守番クソくらえと言わんばかりにオーツカシティへのお出かけを企んでいた。
(転生したらロボットになってて無双&ハーレムが以下略② へ続く)




