マヨ・ポテトの災難EX⑳
◇ ◇ ◇
「外の警備は……三十六機? 多いな。見慣れない大型の機体もいる。だが例の『シトド』は一機も見当たらない。この距離だと流石に敵のレーダーに引っかかってそうだが……どうするか」
「例のナントカ・サンデは、まだ動いてないんだよね?」
ニッケルとリンコがお互いに言葉を交わし、頷く。
「陽動する組と速攻を仕掛ける組に分けよう。トロンの言った通りならデカブツが起動した場合、周囲のエメトが何かしら反応すると思うが、今はそれらしいことは起こってない。基地周りの警備を手早く捌けば、プルツ・サンデとシトドを起動前に叩けるかも……カリオ、陽動任せていいか? 治安部隊さんも何人か手伝ってくれ」
「……ああ」
カリオは実体剣の納められた鞘を軽く握り、崖上から飛び出す。
崖からコレスの基地を挟んで反対側、基地後方では彼の部下が仲間と通信で会話をしている。
「レーダーに影? わーったって見に行くよ……やれやれ管制室はうるせえな」
「例のガキで起動成功したら、カメラ回さねえとな」
「あん?」
「映像をデータで売るんだよ。いやそのまま売るのは勿体ねえな。先に街のネットワークで公開して……」
「その話、ニコチの前ではしない方がいいぞ。あいつはコレスさんの言うこと真に受けてる政治オタクのデブだから、おまえみたいにバカを釣って稼ぐのは敵だと思ってるんだよ。この前の地上艦事故も陰謀とか言って……」
ビー! ビー!
二人のコックピットで警報音が鳴る。続いて別の仲間からの叫び声が響いた。
「敵襲! ビッグスーツ一機、いや二……ぐあああ!」
スピーカーから聞こえてくる断末魔の叫びを聞いて、二人は下卑た雑談を止め、すぐにライフル銃を両手で持ち、レーダーを確認する。
レーダー上に最初に目に入った点が消え、すぐに自分達の目前で再出現する。
逆袈裟!
「え――」
二人の機体のうち一機の、腰から肩にかけて斜めに神速の斬り上げが入る。断末魔を上げる間もなく、機体は真っ二つに分かれ、火花を散らしながら地面に崩れ落ちる。
「なっ、この――」
もう一人のコレスの部下が、ライフルの銃口を襲撃者の機体へ向ける。だが――
ズバァン!
トリガーが引かれるより早く、ライフルの銃身が斬り落とされ――
逆真っ向!
股下から頭の上まで一直線の切り上げ。もう一人のコレスの部下の機体も真っ二つにされ、沈黙する。
「……よし、いつもと違う武器でもなんとかなりそうだ」
二人を襲撃した機体――実体剣を持つ黒いクロジのコックピットで、カリオは一つ呼吸を入れ、残心する。
「よし、いい感じの派手さだ、カリオ!」
レーダーの動きを注視していたニッケルは、その視線を崖下前方の基地へ移す。
「私もいけるよ」
リンコもコックピットの専用スコープを覗き込み、準備万端だ。
「オーケー、リンコは援護頼む。 俺達も突っ込むぞ!」
ニッケルと治安部隊員が崖上から飛び出していく。
ガァン!
その隙間を独特の発射音と共に、リンコの実弾狙撃銃から放たれた弾丸が走る。弾丸は基地の門前に立つ、警備に当たっている白いクロジの頭部を弾き飛ばした。
「敵!?」
「味方が襲われたのは裏じゃなかったか!?」
ニ十機近くいる警備の白クロジ達は、シールドとライフルを構えて周囲を見回す。
(こちらの方が速い。よし、決められる!)
レトリバーの襲撃の際、練度の高い連携を見せていたコレスの部下達であったが、
あくまで並みの盗賊連中や治安部隊と比べてだ。激戦を潜り抜けてきたブラックトリオに対抗できるほどではない。
ニッケルは機体背部の無線操作ドローン「チョーク」を切り離し、敵機の方へ向かわせる。
「浮遊砲台! そんな見せかけだけの武器で――」
バシュゥ!
ニッケルはまず実弾ライフルを敵集団の内の一機に向けて撃つ。敵機はシールドを前に出して銃弾を防ぐ。その一瞬で二基のチョークが敵の上方から後ろへ回り込むように飛行する。
「チッ! 傭兵風情が――」
バシュゥ! バシュゥ!
二基のチョークから二発のビームがタイミングをずらして放たれる。敵機は一発目のビームをステップで回避するも、後から来たビームがその胸部を貫いた。
(よし、コイツ等にはビームが通じる!)
ガァン!
続けざま、ニッケルに撃破された機体に気を取られた別の敵機の胸を、リンコの狙撃が射抜く。一連の流れでブラックトリオと治安部隊はペースに乗った――
――かと思われたその時である。
ビキキキキ!!
「!?」
「何!?」
突如強い地響きがコレスの基地周辺を襲う。大地はひび割れ、いくつもの裂け目からオーロラのように緑や青の光が溢れ出てくる。
コォーン!!
その光は独特の風切り音を響かせながら、勢いよく上空まで昇っていく! 光の壁がいくつも辺り一帯に出現する。
「……」
ニッケルと、彼と前進していた治安部隊はその光景に目を奪われ、立ち尽くす。
「ニッケル、逃げて!!」
リンコの叫び声でニッケルは我に返った。上空へとひたすら上っていた光は、やがてその向きを変え、地上に戻るように降り注いでくる!
「まずい! 一旦後退だ!」
ニッケルは叫び、無我夢中で基地から離れるように飛行し始める。治安部隊も全速力でその場から離脱を始め、コレスの部下達も予想外の出来事に、散り散りになって必死に逃げようとする。
コォオオオ……
やがて地上にぶつかった光はまた向きを変え、渦を巻くように上昇して、辺りを包み込むように広がっていく。その光景はまるで――
「――光の竜巻……」
リンコはスコープから目を離し、メインモニターに映るその現象に圧倒されていた。
一瞬にして巨大な光の嵐は、そこにいた全ての人間の言葉と思考を吹き飛ばした。
◇ ◇ ◇
「フハ、ハハハハ……」
基地の中、管制室のモニターでその光を見たコレスは、思わず口角を吊り上がらせ、笑う。
「圧倒的すぎる……これがプルツ・サンデか!」
コレスは自身の腕を抱くようにして鳥肌をさする。別のモニターには格納庫内で、カメラアイや各所の装甲の隙間から、緑色の光を漏らして稼働するプルツ・サンデが映っている。
そのコックピット。
いくつものケーブルが繋がったヘッドギアを被せられたマヨ・ポテトが、眠るようにシートにもたれかかっていた。
彼女に今見えているのは闇。真っ暗な闇。
彼女はそこで一人孤独に叫んでいた。
レトリバーの仲間達の名を。
カリオとルースの名を。
(マヨ・ポテトの災難EX㉑ へ続く)
 




