表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/15

6話「細工は流々仕上げを御覧じろ」


 

「でも問題はアデル様がミランダをホテルに連れ込むか、よね?

 お菓子とか買って無駄遣いされたら困るわ」


アデルなら「食べきれないほどのショートケーキとマカロンに囲まれるのが夢だったんだ!」とか言ってケーキ屋を貸し切りにしかねない。


「それもちゃんと考えてあるわ。

 ゲルラッハ子爵令息がホテルに泊まりたくなるように誘導するのよ。

 ミランダを使ってね」


「ミランダを使う?

 どうやって?」


「ミランダのあなたへの対抗意識は相当な物よ。

 それを利用するの。

 ミランダに高級ホテルのパンフレットを見せて、

『婚前旅行でアデル様と泊まるホテルよ。

 平民のあなたじゃ逆立ちしたってこんな高級ホテルには泊まれないでしょうね』

 と言ってミランダをあざ笑い、彼女のプライドを傷つけるのよ」


「なるほど、それはいい作戦ね!

 でもそれだけじゃ……」


あの子を動かすにはまだ弱い気がする。


「さらに、

『アデル様と結婚したらあなたにはこの家を出て行って貰うわ。

 愛人と同じ家で暮らすなんて真っ平だもの。

 学生の間の火遊びは仕方ないと思って見逃して来たけど、これ以上は容認できないわ。

 子爵夫妻もアデル様の卒業後は、彼の行動に責任をもたせると言っていたし、あなたをこの屋敷から追い出すことに賛成してくれるわ』

 と言って彼女の危機感とプライドを煽るのよ」


「うわっ、凄い! なんか私悪女っぽい!」


アデルと縁が切れるなら悪女の振りでもなんでもするわ!


「最後にこう言うのよ!

『でも……結婚は家と家との結びつき。

 私との結婚前にあなたとアデル様との間に子供ができたら……もしかしたら子爵夫妻も考えを改めるかもしれないわね』

 こう言えばミランダはゲルラッハ子爵令息との既成事実を作ろうと躍起になるはずよ!」


「凄い! 完璧だわ!」


私の悩みが一瞬にして解決した!


さっすが親友! 頼りになる!


「でも、子爵夫妻が伯爵家の問題に口出しできるの?

 伯爵家に誰を住まわせるかはうちの問題で、いくらアデル様の親とはいえ介入できないんじゃ?」


「言い方は悪いけど、ミランダはアホだからそんなに深く考えないわ」


「なるほど」


確かにミランダにそこまで回る頭はない。


「確かにこの作戦は使えるわね。

 問題は高級ホテルの予約が取れるかと、ホテルのシーツなどを証拠として押さえられるかね」


街の安宿なら、宿屋ごと買い取って証拠のシーツを回収できるけど、高級ホテルとなると難しい。


「それなら大丈夫よ。

 公爵家が経営してるホテルが郊外にあるの。

 大きな湖があって星がとても綺麗に見えるのよ。

 ゲルラッハ子爵令息もしくは彼の使いの者がホテルを予約したとき、ロイヤルスイートルームにキャンセルが出た事にして、格安で泊まらせるわ。

 ロイヤルスイートルームに格安で泊まれる機会なんてめったにないから、絶対に宿泊するはずよ。

 うちが経営しているホテルだから、ゲルラッハ子爵令息の恥ずかしい液のついたシーツも、証拠として押さえられるわ」


持つべきものは金と権力を持ってて賢い親友!


「ありがとうクロリス!

 これでアデルとの婚約を彼の有責で破棄できそうだわ!」


「どういたしまして」


私がクロリスに手を差し出すと、彼女も握手に応じてくれた。


クロリスは病弱なので季節を問わず白い手袋をしている。


手袋越しに触れたクロリスの手は、思っていたよりもがっしりとしていた。


もしかしたらクロリスは、手がゴツゴツしていることにコンプレックスを持っているのかも?


だから一年中手袋をして隠している?


うん、そうとしか考えられない。


「カトリーナ、どうかした?」


「なんでもないわ、クロリス」


彼女の手がゴツかったことは、墓場まで秘密にしよう。


「それならよかった。

 今日はクッキーとカヌレを焼いてきたの、召し上がれ」


「ありがとう、クロリス!」


クロリスの作ってくるお菓子はどれも美味しい。


彼女の作ってくれたアップルパイもパウンドケーキもマドレーヌもクッキーもシュークリームも大好き!!


「はぁ〜〜〜〜美味しい。

 疲れが取れるわ〜〜」


クロリスの作ってくれたカヌレを食べるのは初めてだ。


外はもっちり中はしっとりしていて、ほっぺが落ちそうになるほど美味しい。


カヌレを一口食べただけで、アデルと異母妹に与えられたストレスによる疲労が吹っ飛んでしまった。


「こんなに美味しいお菓子を作れるんですもの、クロリスは引く手あまたね。

 私がクロリスをお嫁にしたいくらいだわ」


私は冗談のつもりで呟いたつもりだった。


「……いいよ」


「えっ?」


「カトリーナのお嫁さんになら、なってもいいよ」


クロリスに手を掴まれ、真っ直ぐに見つめられた。


相手が同性だとわかっていても、美少女に見つめられると照れてしまう。


「やっ、クロリス……!

 い、今のは冗談だから!」


私はクロリスに掴まれた手を振りほどいた。


「わかってるわ。

 わたくしも冗談で言ったのよ」


クロリスがいたずらっぽくほほ笑む。


「だ、だよね〜〜!

 やだ、私本気にしちゃった!

 アハハハハ……!」


私は笑って気まずい雰囲気をごまかした。


はぁ〜〜〜〜やばかった。


親友に見つめられてときめくなんてどうかしてる!!


きっと疲れが溜まってるせいね!


今日は早めに休まなくては!


「冗談でしか言えないよ。

 今はね……」


少しだけ普段より低い声で発せられたクロリスの言葉は、私の耳には届かなかった。




☆☆☆☆☆






翌日。


私はクロリスから旅行のパンフレットを貰い、伯爵家の本邸に向かった。


「お義姉様、それなぁに?」


「旅行のパンフレットよ。

 卒業旅行で行こうと思っているの。

 もちろん相手はアデル様よ。

 美しい湖の周りにお花畑がある大きなホテルに泊まるのよ。

 食事も豪華だし、温泉やエステもあるの。

 平民のあなたでは逆立ちしたって泊まれないでしょうね」


私がわざと嫌味ったらしく言うと、ミランダは眉間にしわを寄せた。


「お義姉様って哀れね!

 アデル様に愛されていないのに結婚という形にしがみついて、あたしにマウントを取ってくるなんて!」


よしよし、食いついてきた!


私は心の中でガッツポーズをした。


「愛なんかいらないわ。

 彼とは政略結婚ですもの」


「そんなのアデル様が可哀想よ!

 結婚相手に愛されないなんて!」


そう思うなら、アデルと浮気するなアホ。


結婚前から異母妹と浮気するモラハラ男を愛せる女なんかいるか。


「アデル様の愛を得て私に勝ったつもり?

 あなたが勝ち誇っていられるのも今のうちよ。

 アデル様と結婚したらあなたにはこの家を出て行って貰うから」


「なんですって!」


「当然でしょう?

 愛人とひとつ屋根の下で暮らすなんて真っ平ですもの」


「そんなことアデル様が許さないわ……!」


「それはどうかしらね? 

 子爵夫妻は『学生の間の火遊びは仕方ない』とおっしゃっていたけど、アデル様の卒業後は『息子の行動に責任を持たせる』ともおっしゃっていたわ。

 子爵夫妻もあなたをこの屋敷から追い出すことにきっと賛成してくれるはず。

 アデル様はご両親のいいなり、当然あなたの処遇についても……ねぇ?」


私がわざと挑発するような言い方をすると、異母妹が桃色の瞳を吊り上げ鬼のような形相で睨んできた。


異母妹は感情表現がわかりやすくて助かる。


「でも……結婚は家と家との結びつき。

 私との結婚前にあなたとアデル様との間に子供ができたら……。

 子爵夫妻も考えを改めるかもしれないわね」


私は「子爵夫妻が考えを改める」とは言ったが、「ミランダに子供が出来たら、子爵夫妻がミランダとアデルの結婚を認める」とは一言も言ってない。


ミランダは伯爵家の血を引いてないただの平民。アデルをミランダと結婚させても子爵家の利益にはならない。


そんな旨味ゼロの結婚を子爵夫妻が許すはずがない。


「お義姉様、あたしに勝ったつもりでいるなら甘いわよ!

 あなたに目にものを見せてやるんだから!」


ミランダはテーブルの上に置いてあったパンフレットを持って、部屋を出ていった。


ミランダが部屋を出ていったのを確認し、私はホッと息をついた。


上手く行ったわ。


これで異母妹はアデルを旅行に誘うはず。


二人で仲良く破滅しなさい。





読んで下さりありがとうございます。

少しでも面白いと思っていただけたら、広告の下にある【☆☆☆☆☆】で評価してもらえると嬉しいです。執筆の励みになります。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ