プロローグ 4
あれから1年が経った、私は王宮にある王女タチアナの私室にいる
「ところで、ゲームの中では私ってどんな立ち位置だったのか知ってる?」
「う~ん…全ルートクリアしたわけじゃないんで
はっきりとは言えないんですけど確かにフランのルートには出てくるんですが
タチアナ様は正妃様のフランは側妃様の子供ってことで
なんかやたらとフランを見下すような発言はあったんですけど
ヒロインに対して何か嫌がらせをしたって描写はないんですよね
だから公式ページで『冷酷無比の悪辣姫』なんて書かれてるのが理解不能で」
事実、ゲームの中での彼女は何とか打ち解けようとしていたフランに
母親の身分の差などを理由に話しかけるなと…扇子で横っ面叩いてたっけ
けど、それだけなら意地悪な義姉程度でよいのでは?
「実はね、先日『転生者』との会見を行ったのよ…誰とは言えないけどね
その時にいきなり
「この冷血女!私がフランシス様と結ばれた時があんたたちの破滅の時よ!」
って言われたのよね…貴女から聞いてた子とは外見の特徴も名前も違ってたわね」
名前も見た目も違うってことはローゼリィとは別の子がフランと?
「あ、隠しルート!全キャラのトゥルーエンド解放したら出てくるやつ!
私は条件満たしてないんで無理でしたけど…解放されると別のヒロインで攻略できるんです」
このゲーム、ヒロインが何人かいてヒロインごとに攻略できる相手が違う
逆ハーレムなんてものは成立しない仕様だ
例えばフランのルートだとヒロインはレティシアという接点があるにも関わらず
お兄様…つまりディオンにはニアミスすらしないし
逆にお兄様ルートではそのルートのヒロインはフランに会うこともない
それは隠しルートにも受け継がれていて攻略キャラとヒロインが増えることに加え
本編の攻略対象を別のヒロインで進められるのだ
「それにしても『あなたたち』ってことは会った事もないけど私にも喧嘩売ってるんですね」
売られた喧嘩は高値買取がモットーなんで、来るなら来い!ってところだが
「違うわよ、彼女の口ぶりだと私とアデルのことだったみたいよ」
「はぁ?アデルさん?!ゲームの中でもタチアナ様の後ろに控えてる
ローブで顔を隠しててセリフもない『名前のあるモブ』扱いだったんですよ?
…あ…すみません悪気があったんじゃなくて」
「いいえ、お気になさらず」
王女の後ろにいるアデルさんが笑いをこらえるようにそう言った
(フランに様をつけないのに自分が様をつけられるのは…さすがに不敬とのこと)
「待って、アデルはローブで顔を隠してた?」
「ええ、そうですよ?だから顔を見たとき攻略対象じゃないのがおかしいくらいだって思いました」
「…彼女は「醜い?これのどこが?傷はどうなってるの!話が違うわ!」って叫んでたわ」
「ということは隠しルートでアデルさんの顔に言及する?でも…傷?」
それからまた一か月が経った、それは私たちにとって忘れようのない日になる
公爵家の別邸に王女とアデルさん、そしてフランがやってきた
「例の『転生者』から聞き出してきたわ…厄介な話ね」
苦い顔をして王女は報告書らしき冊子を開いた
「タチアナ様が17の時に狩場で野火が発生、その際に焼けた木が倒れて
庇おうとして顔の右半分に酷いやけどを負い片目を失明するのだそうです」
他人事のように淡々とした口ぶりでアデルさんが内容を教えてくれた
確かにゲームの王女は狩りが好きでよく遠乗りに出るようなことをフランがヒロインに話してた
しかし私たちの知る彼女はいわゆるインドア派でたいていは書庫か自室で本を読み漁っている
現在の彼女は17歳だけど…だとしたらその事故は起こらない…アデルさんの身も無事なはず
…いや…何かおかしい…何か、こう…嫌な臭い
「若様!お嬢様!皆様を屋敷の中へお連れ……」
違和感に気付いたと同時に駆け寄ってきた使用人が目の前て倒れこむ
それが臭いの正体だった…初老の彼の背中が何かの薬でもかけられたかのように爛れていた
「大丈夫、意識を失っただけです」
素早く治癒魔法をかけたアデルさんが彼の体を自分のローブに横たえ浮き上がらせると屋敷へと移動させる
「ここは私が食い止めます!お二人は王女と殿下を安全な場所へ!」
「いえ、アデル殿ほどではないが戦えます、私も手伝いましょう…レティお前は今のうちに!」
「わかりました!タチアナ様、失礼いたします!!」
魔導スキルを発動させ身体能力を増幅させると、すぐさま王女を抱き上げ走り出す
フランは…目配せしてたのに気付いたのかすぐ後ろをついてきている
とにかく二人を安全な所…屋敷の中まで送り届けてお兄様たちの支援に…
「公爵家のお嬢さんを巻き込みたくはなかったのだがな」
ゆらりと影が立ち上がるとそれが漆黒の軽装鎧の男に変わる
…なるほどどこのどいつかは知らないけど狙いは王位継承者の二人か
「人の家の庭で事を起こしておいて巻き込みたくないだなんて御冗談を
スレイク家としても貴方がたみたいなならず者に侵入を許したなんて失態、痛手すぎるわ
私、右の頬をぶたれたら夜明けまで往復ビンタで返すのがモットーなの」
とにかくここで弱みを見せちゃいけない、わざを笑顔を作りながら隙を伺おうとした
が…刹那に男の首が消えた…いや男の足元に転がって…体もゆっくり倒れた
そして目の前に立っているフランがいつの間にか剣を抜いている…まさか…
「二人とも怪我は?」
少し血の気の引いた顔で問いかけるフランに首を横に振ってこたえる
「このスキルって剣術が強化されるだけかと思ったら違うんだな
あの鎧に傷をつけてはいけないって剣から伝わってきた…多分アレに傷がつくと致死毒が溢れ出す」
剣についた血を振り落として鞘に納めながら独り言ちる手が少し震えている
「…それって…どういう…その技術はブローシ帝国独自の禁術…そういう事ね」
私に抱えられたままだった王女が軽い身のこなしで地面に降り首なし死体の鎧に目をやる
「ブローシュの手の者が?確かにあの国ならばやりかねないですけど…我が家も公爵家
王宮ほどではないにしても警備は怠っていません…このような事態に陥って言えることではありませんが」
ブローシュ帝国、歴史自体は浅いのだが
これまでに何度も侵略を繰り返してきた結果として、その勢力は脅威となっている
つまり、今回彼らが目をつけたのが我がジャルダンだったのだろう
今回でプロローグ終了と言っていましたが
思ったより長くなりそうなので二つに分けました