mission:『鏡(mirror)』
「mission:雪だるま」からの連作になりますが、前作との繋がりはあまり有りません。
「アリー!貴女との婚約を破棄させていただく!」
どうもこんにちは、俺はこの国の暗部に所属しているSmithという者だ。たった今、舞踏会のど真ん中で婚約破棄の寸劇をしている。
どうしてそんな馬鹿なことしてるのかって?
任務だよ、任務。じゃなきゃ誰がこんな馬鹿なことやるか。
あ、お相手のアリーとやらも同僚だからよそ様に迷惑は掛けてないぞ?安心してくれ。
こんな馬鹿な事やってるのは、この舞踏会で第二王子が婚約破棄をやらかそうとしてるって情報が入ったからだ。
第二王子が婚約破棄やらかす前に妨害してくれって国王が指示を出したんだ。自分達がやろうとしてた事を客観的に見たら反省するだろって事でこうなった。
「何だあいつら、非常識な」
「そうですね、殿下。こんな衆人環視の中で」
お前のせいだよお前の!
何常識人ぶってんだよあの野郎!
遠くで婚約者がゴミを見る目で王子を見ている。こりゃ公爵家は王子を見捨てたな。
そうこうしていると「仕事終わりだぞー」と貴族に扮したボスが目線を送ってきたので、さっさと退出した。
◇
「あー、やっと終わった!アホらし……」
「お疲れ様、Smith」
「君もな、Jenny」
社交場を出て本部へと戻る道中、令嬢役だった同僚に答える。Jennyは俺の後輩に当たる女性で、ハニトラのスペシャリストだ。最近はあまり会えていなかった。
「それにしても……久しぶりの共同任務がこれって、お互いついてないな」
「そうねー。……でもSmith、ちょっと不思議に思わなかった?」
「ん?何がだ?」
フフフ……といきなりイタズラっぽい顔をした同僚に問う。急に可愛らしい表情になって、ドキッとしたのは内緒だ。
「Smithの専門からちょっとズレてるでしょ?この仕事」
「あー。まぁ、確かに」
俺の専門は潜入と諜報なので、ちょっとズレてるのは間違いない。
「実は私が頼んだのよ、相方はSmithが良いって」
「そりゃまた何で?」
演技には自信があるが、もっと上手い奴もいるだろうに。そう問い返すと、彼女はちょっと拗ねたように唇を尖らせ小声で言った。
「だって、Smith以外と婚約者なんてヤダもん……」
「は?」
あぁ……どんな物音でも聞き取れるよう鍛えた己の聴力が恨めしい。
完全にフリーズした俺を見てクスリと笑い、Jennyは俺の耳元で小さく告げる。
「絶対オトしてやるんだから!」
え?まさか、そういう事?
Jennyが走り去る音にハッとした時には既に、彼女の姿はどこにも無かった。
流石の技術だが………そんなに恥ずかしがるくらいなら、こんな場所で言わなきゃいいのに……と思うのは無粋だろうか?
まぁ、何にせよ……。
「ここに鏡が無くて良かったよ」
今はちょっと……自分の顔を、直視できそうにない。
千字以下にどうしてもならなくて、なろうラジオ大賞3への参加を諦めた作品でした。
ここで供養出来て良かったです。