その7
校長「それにこの後立浪君が来るから、彼が来た時に一緒に挨拶してくれた方が、スムーズで、
煩わしくないと思うが、どうだろう?」
それを聞いて見城は大いに驚いた。そして声を震わせながら校長に伝えた。
見城「・・・え?あ、はい。だ、大丈夫だと思います。・・・で、え?立浪君?それは立浪選手が、
もうすぐ来るって事ですか!?」
見城は座ったままの体勢でも、身体を前のめりにしていた。反対に校長は背筋を伸ばしたまま、淡々とした口調で見城に答えた。
校長「ああ。さっき連絡があったんだよ。でもその時はまだ駅に到着してなかったけど、今はもう、
着いた頃なんじゃないかな。また連絡があるだろう。」
そう聞いて見城は、もう興奮気味に校長に再度尋ねた。
見城「それでは本当に!本当に来られるのですね!?」
校長「大丈夫、大丈夫だよ、落ち着いて。また連絡があったら呼ぶから。それまで他の準備を、
生徒たちの管理もよろしく頼むよ。」
校長はそう言って、熱くなった見城を諭した。
見城「わかりました!楽しみに待ってます。・・・ああ、良かった。」
と言って見城は心を落ち着かせ、安堵と喜びの表情を浮かべた。どうして見城がこんなに興奮したのか言うと、この後この学校にやって来る、『立浪富士美』と言うプロレスラーであったからだ。
あれは見城が小学三年生の時であった。その時見城が住んでいた町に、とあるプロレス団体が興行をしにやって来た。その団体の所属レスラーであり、かつ団体のエースとして、更には団体のトップの証である、チャンピオンベルトを巻いていた王者が、その立浪富士美であったのだ。見城はその興行を父親と一緒に観戦した。そして生まれて初めてプロレスというものを見て知って、プロレスの面白さや迫力、最後のメインイベントに登場した立浪選手の戦う姿、カッコ良さに心を惹かれて、今でもそのインパクトに魅了されてしまっている。だからこそ見城にとっては、立浪富士美は永遠の憧れの存在なのだ。
それから見城はプロレスが好きになり、もちろんプロレスラーになるべく体を鍛えて、やがて見城が大学生になった時、そこにプロレスサークルがあったので、迷う事無くそのサークルに飛び込んだ。そして四年間見城は大いに活動し、大活躍していたのであった。
見城『・・・まさか、こんな事があるなんて・・・』
それから時が流れて教師となった見城はもう、プロレスとは全く無縁の世界、疎遠になるなと思って暮らしていた。が、今こうして再び、少年の頃や青春時代に戻ったかのように、ましてや憧れのプロレスラーまで登場するなんて・・・。見城はもう、大感激と大興奮に包まれた気分になっていた。そんな悦に浸っていた見城の様子を、数秒ほど静かに見つめていた校長であったが、そぉっと優しい口調で見城に声をかけた。
校長「まぁ、気持ちはわかるが、・・・それよりも君の方が心配だ。大丈夫かね、本当に?」
その言葉で見城はやっと我に返った。そして笑顔で校長に答えた。
見城「ええ、はい!大丈夫です!任せて下さい!」
それを聞いて校長はやや納得した。
校長「・・・まぁ、だったらそれでいいけどね。じゃあ彼が、立浪君が来た時に、その、代表者?
スタッフを連れて来るといい。そこで話もまとまると思うよ。」
見城「はい、わかりました!よろしくお願いします!」
そして見城は校長室から出て行った。