その6
その頃見城は職員室にいて、一人の先生から声をかけられた。
先生A「見城先生、どうですか?うまくいきそうですか?」
この質問に見城は笑顔で、はっきりと答えた。
見城「はい、大丈夫です!絶対にうまくいくと思います!」
この見城の自信に満ちた答えに、他の周りの先生たちも期待が膨らんでいた。
先生B「へぇ~、そうですか。それは楽しみだな。」
先生C「実は僕もね、昔はよく見ていたんだよ。今じゃすっかりだけど、久々で嬉しいよ。」
先生D「僕は初めて見るんだよ。結構凄いんでしょ?」
先生C「そりゃもう!きっとハマるかも知れませんよ。」
そんな会話をしている先生たちに、今度は見城が問い掛けた。
見城「あ、あの、校長先生はどこに?」
先生A「ああ。ええっと、・・・校長室にいると思うよ。」
見城「そうですか、ありがとうございます。」
見城はそう言って、先生Aに軽く頭を下げた後、校長室へと向かった。この職員室から廊下へと外に出なくても、校長室へはドア一枚隔てて職員室と通じている。なので見城はそのドアの前に立った後、一呼吸してドアを軽くノックした。すると向こうから穏やかな返事が聞こえてきた。
校長「はい、何でしょう?」
それを聞いて見城はもう一度、一呼吸してゆっくりとドアを少し開けた。
見城「お忙しいところ失礼します。見城です。お知らせしたい事があるのですが、
よろしいでしょうか?」
見城はやや緊張しながら言葉を発した。逆に校長は平穏な表情と口調で答えた。校長の容姿は見城よりも背は格段に低く、年齢も五十歳代半ばだ。しかしその分経験と風格がにじみ出てる感じで、まだ新米の見城からすれば、その圧にどうしてもたじろいでしまう事もある。
校長「ええ、はい。中へどうぞ。」
見城「ありがとうございます。では、失礼します。」
了解を得て見城は、ゆっくりとドアを大きく開けて、そして一礼した後校長室へと入った。その時の校長は椅子に座って、そして大きな机の上にて、何かしらの書類に目を通しているようだった。その後校長はゆっくりを立ち上がって、見城に近づいてこう指示した。
校長「・・・じゃまぁ、そこに座って。」
校長は来客用のソファーに見城を促した。そのソファーは校長席の前にあって、反対に職員室に繋がるドアの前にもなる。だから見城は室内に入った時すでに、そのソファーの前で立っていた形になる。長机を真ん中にして、両サイドに二人が並んで座れる代物だ。
見城「はい、失礼します。」
見城は恐縮しつつもそう言って、ドアを静かに閉めた後そのソファーに座った。やがて校長も席から離れて、見城の対面になる形で、ゆっくりとソファーに座った。校長は深くずっしりと、背中を付けた格好で座り、見城はその逆で、やや前のめりの状態で浅く座っていた。その状態でしばらく二人は話し始めた。
校長「で、何かね?あの件についてかな?」
見城「はい。そうなんですけど、たった今その関係者、スタッフが到着しましたので・・・。」
校長「そうですか。わかりました。」
見城「それで今、リングの設営をさせているんですが、それよりもまず挨拶を先にさせた方が、
その方が良かったですか?」
この言葉を発した時、見城の緊張はピークに達していた。これを聞いて校長は少し間を開けたが、特に口調を乱す事なくこう見城に返した。
校長「・・・いいや、構わんよ。それが終わった後でも。」
すると見城は安堵の表情を思わず見せた。
見城「ああ、そうですか。ありがとうございます。それを聞いてホッとしました。」
そして笑顔になった見城を見て、それに釣られて校長もふと笑顔になった。