その5
今年の樹布中学校の文化祭の目玉は、創設以来初めて『プロレス』を開催する事になった。もちろん教育の一環としての意味合いで。この開催に向けて尽力したのが見城であった。そもそも見城はその昔、大学時代にプロレスサークルに所属し、学生レスラーとして活動していた事がある。その繋がりで今回、その仲間たちやレスラーを招聘する事ができたのである。
高実と上杉は未だ、トラックの傍で佇んでいた。すると高実のスマホに連絡が入った。すぐ様高実はその連絡を見た。
高実「・・・お、早めに来てくれるってよ。」
上杉「・・・どのくらいで?」
高実「・・・それでも三十分から一時間はかかりそうだ。・・・仕方がない。それまで俺たちだけで
運べる物は運ぼうか?」
上杉「・・・そうですね。」
そして二人はトラックの荷台に移動した。
高実「・・・マットやロープくらいなら・・・一人でもだろ。」
上杉「・・・俺、第一試合ですよね?」
上杉が怪訝な表情で聞いてきたので、高実は不思議そうに答えた。
高実「・・・ああ、そうだ。が?」
上杉「同じく試合するあいつらは、何やってんっすか?」
上杉は第一試合のタッグマッチで、集うレスラーは上杉よりも後輩であった。
高実「・・・しょうがねぇじゃん。あいつら講義中だろ?でお前はダブって、でヒマしてる
訳なんだからよ。」
そう言われると上杉は空を見上げて、グダグダ愚痴った。
上杉「ああ、・・・他にもいなかったんっすか?」
高実「愚痴言うな!さっさとやれよ!」
と高実は上杉に向かって、強く言い放った。
高実は今現在とある会社で働いている。けど未だにこの大学の、このプロレスサークルにスタッフとして、そしてレフリーとして活動を続けている。昔は当然レスラーとして活動していた。が、その試合中に怪我で身体を壊してしまった。けど一応今の生活に支障がないくらいに回復はしたが、やはり試合はもうできなくなってしまっている。上杉も同じくプロレスサークルの一レスラーだが、今年大学を卒業する事ができなくなって、結果留年している身だ。そうした中ОBである見城が、高実やサークルに依頼してきた訳だ。上杉はサークルのメンバーを集めて協議した結果、依頼を受けて開催を決断したのである。
上杉「・・・しかしまぁ、よくあの立浪選手を呼べましたね。」
リング設営に必要な器具を運びながら、上杉は高実に言った。
高実「・・・ああ。聞けばあの人、この学校の、校長先生の知り合いらしいぜ。だからその関係で、
呼ぶ事ができたそうだ。」
もちろん高実も、器具を運びながら上杉に答えた。
上杉「・・・へぇ~、知らなかった。・・・でも自分、本当に嬉しいですよ。立浪選手のファンです
から。昔から。」
高実「そりゃ俺だって。・・・きっと先輩もそうだろうな。」
すると上杉の表情が少し曇った。
上杉「・・・でも、良いんですか?あのカードで。何か逆に失礼じゃないかなって?」
そう言われて高実も、少し戸惑いの表情をした。
高実「・・・けどメインは始めから、決まっていたんだ。先輩の案で。」
と上杉に伝えたものの、高実は心の中で一抹の不安を抱えていた。
高実『・・・大丈夫なのか?本当にできるんだろうか?』