その4
何だか段々、当初聞いていた話と違う展開になっていて、野外もそうだし、その場所もあの端っこだし、リングの設営についても二人が想像していた風にはならなかった。
上杉「・・・てっきり、体育館でやると思ってましたよ。」
と上杉がポツリと呟いた。高実も同じく思っていた事を吐露した。
高実「・・・そうだな。俺だって先輩や、生徒たちとか、みんなでするのかなって思ってたよ。」
そして上杉はトラックと、リングを設営する場所を今一度確認した。
上杉「・・・荷台からあそこまで、二人ではちょっとひと苦労っすよ。」
高実「・・・ああ、わかってる。今からみんなに連絡して、早めに来てもらうよう頼むから。
ついでに野外だって事も知らせないとな。」
そう言うと高実はポケットからスマホを取り出して、そそくさと指先を動かした。
上杉「あ、ところで・・・、もうカードは出来ているんですか?」
上杉の質問に高実は、スマホを弄りながら答えた。
高実「当然だろ。お前はタカシと組んで、後輩たちと第一試合のタッグだ。」
上杉「・・・え?あ?そう、そうなんですか?・・・一試合目か、・・・了解です。」
上杉は少し戸惑いながら承諾した。
高実「・・・何だ?不満か?」
そう言われて上杉は慌てて取り繕った。
上杉「い、いや。・・・ただ、もう緊張してきました。」
高実「ふ~ん、まぁ、良いけど。・・・あ、もしもし?ニシ?俺、高実だけど・・・。」
二人と別れた見城は、校舎へと入って足早に、職員室へと向かっていた。するとこの時、見城が担任として受け持つクラスの、生徒の何人かと出くわした。
見城「お?どうした?当番じゃないのか?」
生徒A「はい、そうなんですけど、ちょっと展示物の搬入で・・・。」
それを聞いて見城は、何かを思い出した表情を見せた。
見城「あ、そうか、そうだったな。確かちょっと大きなヤツがあったもんな。
わかった、気をつけてな。」
生徒A「はい、わかりました。」
そんな会話を交わした後、見城と生徒たちはすれ違って行こうとした時、生徒の一人が見城に問い掛けてきた。
生徒B「あ、先生!」
見城はすぐ様立ち止った。そして声をかけた生徒に目をやった。
見城「ん?・・・どうした?」
生徒B「今さっき、先生と話していた人たち、もしかしてプロレスラーですか?」
その生徒はどうやら、見城とあの二人の、先程の様子をどこかで見ていたようだ。それを察して見城は隠す事無く伝えた。
見城「ああ、そうだ。結構イカついだろ?とにかく頑張って、凄い試合を見せてくれるようだから、
みんなも盛り上がってくれってさ。」
と見城はこの生徒だけでなく、他の生徒たちの顔も見ながら熱く答えた。それを聞いて生徒たちは、何か期待するような、そんな笑顔を見せた。これを見て見城も嬉しくなって笑顔になった。
見城「そしたら、またな。気をつけろよ!」
生徒たち「はい!」
そして見城と生徒たちは分かれて行った。