その24
最後の試合メインイベントが始まった。先発はタノムサクとウメネで、これまたプロレスのプロレスらしい、序盤の攻防であった。この後タノムサクは静かに青コーナーの、自身のコーナーに引き下がって、方向はウメネを見つめながら、見城に小声で言葉をかけた。
タノムサク「・・・行けます?」
見城「・・・ああ、もちろん。大丈夫だ。」
その言葉を聞いてタノムサクはクルリと身体を返して、キフチュー仮面である見城にタッチをした。ここでキフチュー仮面がリング内に登場した。
生徒N「おおっ!!!」
生徒R「行けーぇ!!キフチュー!!!」
こんな大歓声が、大コールが巻き起こった。しかし見城としては、試合後この事すら覚えていなかった。ただ本当にこの試合、戦いだけに集中していたというのが、後日談として語られた。そして痛みと、技の激しい衝撃で試合中に記憶も吹っ飛んだと言う。
ウメネ「・・・。」
ウメネはこの大歓声の中、チラッと自身の、赤コーナーの方を見た。すると立浪がコクリと無言で頷いたのが見えた。そしてウメネも静かに赤コーナーに戻って立浪と交代した。ウメネもこの大会の意図、見城の気持ちを知っていた。ここでようやくロープの間をぬって、立浪がゆっくりとリングに出てきた。
見城「・・・・・・。」
本当に割れんばかりの大歓声なのにも見城は、まるで時が止まったかのような静かな時間の中にいた。そして目の前に立ちはだかる立浪を見て、心の中は鼓動だけが響き、再び緊張に包まれていた。
高実・タノムサク・校長・秋山・馬場・山本「・・・・・・・。」
これらは全員固唾を飲んで見つめていた。すると見城はレフリーと立浪を交互に見て、気を落ち着かせる仕草をして、一歩下がって距離を開けた。
立浪・レフリー「?」
この行為に当然二人は不思議な表情をした。見城はクルリと身体を回転させて、なんと青コーナーに戻ったのである。
高実「・・・ええっ!?ちょっ、ちょっと、・・・えええ!!!」
これを見ていた高実はもちろん、立浪もウメネも、パートナーのタノムサクも驚きの表情をした。何故なら見城は今被っているマスクを、マスクの後ろにある紐を両手で持って、何やらしているのであった。
高実「えええ!!!?ちょっ、何を!!!!?」
それを見て高実は驚かずにはいられない。そう、見城は今自分でマスクを脱ごうとしているのだ。脱いで素顔を晒そうとしている状況であった。横にいるタノムサクは別に止めようとはしてなく、レフリーもどうしたらいいのか困惑している。立浪・ウメネは傍観しているだけ。生徒たちや他の全員が大いにどよめく中、とうとう見城はマスクを脱いで素顔を晒した。
観客全員「おおおおおおおおーっ!!!!!」
たちまち『キフチュー仮面』のコールから、大『見城』コールに変わった。
生徒P「あははははは、やっぱりじゃん!やっぱりだよ!」
生徒О「うっそーっ!!マジかよ!!」
生徒X「へぇ~、なかなか良い身体してるわ!」
生徒W「キャー!!カッコイイ!!先生、頑張ってぇ!!」
もちろん他の先生たちも驚かずにはいられなかった。
先生A「・・・そうだったんですか。」
原田「・・・実はそうだったんですよ。」
先生D「それにしても、凄いな!」
先生C「・・・いや、明日がきっと大変になるよ。」
そんな会話を先生たちがしている中、とあるもう一人の先生がふと意を決した。
先生G「・・・よし、後で立浪のサインをお願いしよう!」
この展開に当然秋山も馬場も驚いていた。そしてリングの歓声がここまで聞こえる程、凄い状況なんだと認識できた。