その16
見城「・・・あいつ、忙しいのか?」
高実「そうらしいですよ。一昨日も試合してたんで。」
見城「・・・インディーでフリーなのに?」
高実「でもオファーされる団体からは重宝されていて、この間後楽園ホールでやってましたから。」
これを聞いて見城は驚いた。
見城「へぇー!?そりゃ凄いな!」
高実「ええ、自分たちの中では、一番の出世じゃないですかね。まさかですけど。」
見城「・・・確かにな。あの受け身が取れなくて、万年前座のコミカルレスラーがな。」
するとここで見城のスマホが鳴った。相手は秋山からであった。電話を受け取り、秋山と少し会話した後、見城は高実にこう言った。
見城「あ、すまん。ちょっと用事が出来たんで、一旦出ていくから。キムが来たら教えてくれ。」
高実「あ、はい。わかりました。」
そして見城は体育館から出て行った。
リングアナ「・・・それでは大変お待たせしました!試合を開始致します!!」
これを聞いて特に男子生徒たちが、大きな歓声を上げた。
リングアナ「まずは第一試合!タッグマッチ三十分一本勝負を行います!青コーナーから、
アミーゴタツキ、トランザムモード上杉の入場です!!」
見城は秋山がいる、学校の裏門へとやって来た。ここだと生徒や他の来賓客とか、あんまり人目につかない場所なので、二人を呼ぶにはここだろうと秋山が指定したのである。そしてそこには秋山と、現在登校拒否をしている馬場と、そして馬場の母親が来ていた。ここでまず秋山が見城の格好を見て言った。
秋山「え?あ?うふ、・・・ふふふ、先生なんですか?その恰好。」
と秋山は笑いながら見城に言った。見城はこの時もうすでに、リングに登場する時の衣装、タイツやシューズのコスチュームを着ていたのだ。
見城「・・・あ!・・・あの、これはあの、・・・。」
と見城はふと我に返って、少し照れ出した感じで言葉を発しようとした。するとこの時馬場が見城に言った。
馬場「やっぱり先生やるんだね!私、窓から走ってるの見てたよ!」
と明るく笑顔の表情で馬場は見城に伝えた。それを聞いて見城も笑顔で返した。
見城「あ、ああ、そうか、そうだったのか。よし、うん、わかった。
とにかく来てくれてありがとうな!」
そう言い終わると見城は、目線を馬場の母親に向けた。そして見城はまず母親に一礼した。
見城「この度は本当にご迷惑お掛けしました。なのにこうして来て下さるとは思わなくて・・・。」
と見城は母親に伝えると、馬場の母親はまず一礼して、そしてふと馬場の方に合図をした。それを察して馬場が口を開いた。
馬場「・・・あの、先生、実はね、私・・・引っ越しする事になったの。」
見城「・・・え?」
当然初耳だったので見城は驚いた。そして馬場の母親も声を発した。
母親「あれから私たち、家族で話し合って、この場所を離れる事にしたんです。もうこの学校には
通えないってなって、だったらいっその事遠く離れた九州辺りにでもってなって、だから
今回こうしてきたのは最後のあいさつをする為なんです。そして先生がこの文化祭で、
全力で頑張るって事なので、ええ、最後に良い思い出として、やって来た次第です。」
馬場「先生、ごめんね。・・・だから私、本当は来たくなかったけど、先生の気持ちを思って、
そしてやって来たんだ。」
と言って馬場は涙を流しながら、母親も申し訳ない表情をして、見城に告げた。秋山も話を聞いてやるせない、残念な表情をしていた。
見城「・・・わかったよ。けど気にすんな!最後だろうとこうして勇気を出して来てくれた、
それが一番大事じゃないか?最後だろうが離れるだろうが、生きてりゃまたいつかどこかで、
きっと会えるかもしれないからな!だから気持ちの持ちようだ。勇気を出して来てくれた分、
俺も勇気を出して、全てを出し尽くすから!だから最後まで見てくれよな!」
そう見城は朗らかに言い放った。決して悲しい切ない思いはさせないように。
秋山「・・・そうよ、そう。またここから新たに始まっていくんだから!頑張ってね!」
秋山も馬場を励ますように、なおかつ自身にも元気づけた。二人の言葉を聞いて、馬場は再び笑顔になった。もちろん母親も笑って見せた。