その1
二○一九年十月某日、割とよく晴れた日の土曜日、午前十一時頃、一台のトラックがとある中学校に向かっていた。そのトラックには二人の男が乗っている。
上杉「それにしても、中学校で興行するなんて初めてじゃないんですか?今まで聞いた事が
ありませんよ。」
高実「・・・いや、実はあるんだよ。どこだったか忘れたけど、確か高校でやってたとこはある。」
上杉が運転していて、隣の助手席に高実が座っている。
高実「・・・どこでもいいじゃないか、高校だろうが中学だろうが。それに俺たちが勝手に
やるんじゃなくて、依頼されたからやるんだ。」
上杉「・・・まぁそうですけど、大丈夫ですかね?教育委員会とかはアレでも、ほら、PTA
とか?」
高実「・・・お前、勘違いしてないか?プロレスはケンカじゃない。スポーツであり格闘技
なんだぞ。」
上杉「ええ、わかってますけど・・・。」
もうすぐ目的地に着く。二人ともジャージ姿でがっしりとした体型で、お互い百七十五センチメートルある。
高実「とにかくだ。そういう考えを持ってる人たちにこそ、キチンとルールに基づいたこの・・・
あ、学校が見えた!着くぞ!」
上杉「・・・正門からがいいですか?」
高実「ああ、そうだな。」
上杉「じゃあここを曲がって・・・。」
上杉はそう言って、トラックの進行を右に変えた。そして学校の正門に向かうところで、一人の男性が正門の前でじっと佇んでいるのが、二人には見えた。ジャージ姿のその男も、がっしりとした身体つきであった。
上杉「・・・あ!誰かいる。」
高実「・・・先輩だ、間違いない。」
その男、見城もトラックがこっちに向かって来ている事に気が付いた。乗っている二人の顔を確認すると、見城は笑顔で二人に大きく手を振った。
見城「お~い!お~い!こっちだこっち!!」
それに気づいた上杉は、まずトラックを見城の傍に着け停めた。この後高実が、トラックから降りて見城に近づいた。
高実「先輩!おはようございます!どうもお久しぶりです!」
高実はハキハキと、まさしく部活のような感じの雰囲気で、頭を下げて、見城に挨拶した。そして上杉もトラックから降りて、高実までとはいかないものの、見城に失礼のない挨拶をした。
見城「いやいやこちらこそ。そして本当にありがとう。わざわざよく来てくれたよ。」
と言って見城は二人の労った。そう言われて高実と上杉は若干恐縮した。
見城「そうかしこまるなよ。本当何度でも言ってしまうだろうけど、本当によく来てくれた。
本当にありがとうな。」
と言って見城はまた深々と頭を下げて、言葉を発した。高実と上杉はお互い照れ臭くなって、そしてつい二人ともはにかんだ。見城は百八十センチメートルほどあるので、高実と上杉は少し見上げながら、見城と会話していた。
高実「・・・で、トラックは?搬入はどこからですか?」
見城「ああ、あっちから入って体育館のところに駐車場があるから、そこに。」
高実の質問に見城は手を動かして答えた。この間に上杉は再びトラックに戻って運転席に着いた。高実は見城の話を聞いて、それを上杉に伝えた。
高実「じゃあトラックをあっちの方から!入ったら体育館のところに停めてくれ!」
上杉「了解!」
上杉はそう言って高実をこの場に残して、トラックを学校の中に入れようと走らせた。そして高実は、見城と話しながら徒歩で学校内へと入り、この後二人は体育館へと向かった。