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とあるヒキコモリの独白

作者: 山田マイク
掲載日:2020/05/08


 俺は一日のほぼすべてを自分の家で過ごす。


 でもそれで満足だ。

 母親はときどき、思い出したように外に出てみたいかと聞いて来る。

 あなたの友達は外を自由に遊んでいるのに。

 あなたはこの家にこもりきり。

 ごめんねと、そう申し訳なさそうな目で呟く。


 あんたが悪いわけじゃねえよ、と俺はそのたびに思う。

 俺は自分の意志で家にいるんだ。

 外で遊ぶより家にいる方が楽だから家にいるだけだ。


 息子の俺が言うのもなんだが。

 母親たちは本当に頭が悪い。

 まず、言葉が通じない。

 まあ、世代が違うからしょうがないんだが、それにしたってちょっとひどい。

 俺の考えてることをちっとも理解していない。

 寄り添おうとしてくれるのは悪い気はしないんだが、正直、鬱陶しいこともよくある。


 家にずっといると言っても、俺だって忙しいんだ。

 俺には俺なりに生活サイクルってものがある。

 それなのに、寝ている俺を起こして「ごはんよ」「何してるの」とこう来る。

 今は要らねえと言っても強引に起こしてご飯を食べさせる。

 俺は渋々、飯を食う。

 本当は文句を言いまくりたいが仕方がない。

 何しろ彼らには言葉が通じないんだから。

 まったく、あんたも昔は子供だったんだから気持ちを汲んでくれよと思う。


 俺には一人、弟がいる。

 弟は俺の一つ下。

 俺と違って外で遊ぶのが大好きで、友達もたくさんいるようだ。

 あっという間に俺よりでかくなって、生意気なことを言って来る。

 でも、何か嫌なことがあったりすると、弟は親ではなく俺に相談する。

 今日はこんなことがあった、あんなことがあった。

 そう呟きながら、ときどき、泣いたりする。

 なんだかんだあっても可愛いやつだ。


 そういうとき、俺は大抵何も言わず、ただ傍にいてやる。

 それが一番だと知ってるからだ。


 父親は俺のことを少し怖がっている。

 口には出さないが、俺のことが苦手なんだろうと思う。

 俺も正直言って、親父は苦手だ。

 まず、年を取ったおっさんのあの臭いが好きじゃない。

 でも、歩み寄って仲良くやろうとする意志は感じる。

 ときどき、親父はお土産だと言ってご機嫌をとってくるんだ。

 けど、申し訳ないが、それで親父が俺の欲しいものを買ってきたことがない。

 おもちゃとか、子供が遊ぶようなしょうもないものしか買って来ない。

 母親とはまた別の意味で、父親も俺のことを分かっていない。


 俺たち家族はよく喧嘩をする。

 と言っても、他の家がどうなのかは知らないから、もしかしたらどこの家族もそんなものなのかもしれないが。


 そのたびに、俺が仲裁をする。

 俺はこの家族で一番頭がいい、という自負がある。

 どうすれば3人の機嫌が直るかを知っているんだ。


 繰り返すが、俺の家族は本当に馬鹿ばかりなんだ。

 俺がいないとろくにコミュニケーションもとれない奴ら。


 要するに、ウチは俺のおかげで成り立っているわけだ。

 恩着せがましく言うわけじゃないけど、ほんと、もうちょっと感謝して欲しいもんだ。


「コタロウ、ご飯よ」


 ああ、また母親が呼んでる。

 まだ眠いんだよと無視していると、部屋に入ってきた。


「んもう、こんなとこで何してるの? さ、一緒に食べましょ」


 母親は何か言いながら、俺をひょいと持ち上げ、頬ずりをした。

 こういう時、俺は母親の鼻先を舐めてやる。

 こうすると、こいつが喜ぶことを知っているからだ。


 母親は案の定、顔を綻ばせて、嬉しそうにこういった。


「今日はね、コタちゃん。実は、マグロのチュールもあるのよ」


 チュール!


 その言葉を聞いて、俺は思わず「ニャン!」と叫んでしまった。

 グルグルと喉が鳴る。


 ったく、チュールがあるんなら、それを早く言えよな。



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― 新着の感想 ―
 やっぱり猫なで声で応えてるんでしょうね。
[良い点] はじめまして。 落ちが秀逸でした。
[一言] チュールって人気らしいですね☆彡 楽しかったです (*´▽`*)
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