友達の心配事
今日もタロウのいる群れと遭遇。この群れは、長と呼ばれる雄と、それに従う雌一匹、それにタロウとタロウよりはるかに小さい雄と雌が一匹ずづ、合計五匹の群れだ。群れというより家族のようなものか。
この惑星のいたるところ見て回ったがそれほど繁栄しているわけではなく、せいぜい数百頭といったところか。無理もない、あまり餌となる小動物、小動物の餌となるモノ、たとえば植物などがあまり繁茂していないからだ。走竜達は、その自慢の足を使って群れで狩りをする。
タロウのいる群れは、タロウが獲物の追い立て役をやっている。タロウが獲物を追っていき、他の仲間がいるところに追い込んでいくのだ。この一番疲れる役回りはどうも若く元気な雄の役目らしい。他の群れでも同様だった。しかし、他の群れではなんか狩りの効率が悪い。追い立て役の若い竜の知能がタロウに比べるとだいぶ劣っているみたいだ。というより、タロウが他の若い奴、というかこの種族の中でもずば抜けて知能が高いようだ。追いたての仕方が他とは違って図抜けてうまい。タロウは辺りの地形をあらかじめ調べて、獲物の逃走進路を予測し、そこに待ち伏せ役を配置しておくのだ。おかげでタロウのいる群れは他の群れに比べて、狩りの時間が圧倒的に少ない。
タロウは知的水準が高く、空いた時間はあちこちと地形の調査をしているようだ。私と同じだ。そしてそれにあきると私と話をするためにあの水場にいくのだ。タロウは私の話を黙って聞く。そして疑問を持った点があれば問いただしていく。タロウの興味は我々の科学技術から社会体制、はたまた我らの遊興・娯楽と多岐にわたる。
ある時、色々話していると、タロウがふっ、とため息をついた。どうしたんだい?何か心配ごとでもあるのかね?と、尋ねると
”私は次の月がなくなる頃、試練を受けなければならない”
”何だい?試練って?”
”私が立派な大人になったかどうかを試す試練だ。ここから北の方に片側が崖になっている山をあなたはもう見たか?”
”ああ、見た見た。落ちたら助からなさそうな、切り立った崖のある、あそこね?”
”そう、我らはあそこを闇夜の晩に駆け下りていかないと一人前としてみなされないのだ”
”通過儀礼というやつだね。どこの星にもあるんだねえ、そういうの”
”あなたの星でもあるのか?”
”うーん、昔はやってたけど、今はもうやらなくなったね”
”どうして止めたのだ?”
”わが星では人口が増えすぎちゃって子供を少なく産んで大事に育てるっていう風潮になってね。
それで危ないことはやらせないようにしたんだ”
”それでは種族がどんどん弱くなっていくのではないか?
我らは強いモノだけが生き残る資格があるとして、この儀式を行うのだが?
弱いモノが生き残るようだと種族全体が弱くなり、
やがて滅亡してしまうのではないか?”
”深いところまで考えるねえ、君は。君らのやり方では半数は死んでしまうだろう?我々はひとりひとりに生きていく権利があってむやみに死なせるわけにはいけないのさ”
”ケンリ、とは何か?”
”ケンリっていうのは、自分の意思で決定できること、かな?社会を作って、
その中で行動していると色々な制約があるだろ?
それをどこまで自由にひとりひとりができるかを決めたものがケンリなんだ。
君達、ひとりひとりにも生きる権利があるのさ、他の仲間に比べて劣っていようと。
何か劣っている仲間は社会が支える、それでだれもが安心して暮らしていけるようになるんだ”
”そうか、すばらしいことだ・・・弱く劣っていても生きていられる社会か・・・”
”どうしたんだい?何か心配事でも?”
”私は、今度の試練で、生き残れるか、心配しているのだ。試練を受ける者のうち、
生き残れるのは半数に満たない・・・”
”別に君は何も劣っていないじゃないか?頭もいいし立派な一人前と思うけど?”
”私は走る力が他のモノに比べて弱い。だからあまり走らなくて済むように考えたのだ。
それが仇とならなければよいのだが・・・長もそのことを心配していた”
”その分君は頭を使うからねえ。僕らの社会だと立派に生きていけるのに”
”運が良ければ生き残れるかもしれぬ、悪ければあなたとはもう会えない”
”いつ、その儀式はやるんだっけ?”
”次の月がなくなる頃”
あと十日ほどか・・・
”私はこれから極の方へ調査に向かうから、それまで会えないけど。幸運を祈っているよ”
”生き残れてたらまた会ってくれ”
”ああ、もちろんさ”
そう言って私たちは別れた。