友達の嘆きの訳を知り、私は、、、
麻酔が効いたのは十分後。私はタロウが動かなくなったのを確認すると、戦車部分の前面へ周りハッチを開いた。とりあえず、タロウの意思で動かなくなったときに備えて戦車部を動かせるようにしてあるのだ。私はクローラーを逆回転させ宇宙船まで戦車を運び、生体システム機能室まで連れてきた。まずは額の傷の止血をし、壊れた意思送信機を直して再び取りつけた。これでまたタロウと話ができる。
あとは・・・そうだ、戦車部分に画像録画する機能があったな、あれオンの状態になってたっけ?私はもう一度戦車内に入り込み内部でモニターを見やった。
10日ほど前からの画像が残されている。私は、タロウと別れた後の日からずっと見て行った。
6日前、5日前、4日前、3日前。まだ他の走竜とは会ってない。腹が空いたのか、いつもは群れで狩りをするがその日は一人で獲物を追って捕えている。一人で食べる分より多く捕っているようだ。取った獲物をその辺の岩場に隠した。
2日前の夕刻、ようやくタロウより幼い方の走竜と出会う。だが、距離は大分離れている。音は届くが姿は見せない。音が聞こえないのは仕方がない。幼い走竜のために、タロウは一人で狩りをしていたのか。タロウは夕闇に紛れ幼い走竜二匹を連れ、昼間に取った獲物の所へ案内していた。獲物の所へ着くと、二匹は争うように肉を貪ってた。私が狩りの手伝いをした後、餌が取れていなかったのか?餌に食らいついている二匹がじょじょに遠ざかっているように見える。これはタロウがその場をそっと立ち去っているのだろう。暗闇に紛れてあっという間に見えなくなってしまった。
夜中も目が効くのかタロウは動きまわっているようだがやがて落ち着く場所を見つけたのか、動かなくなった。赤外線画像に切り替えるとそこは岩場で、タロウの体もきちんと隠れるような大きさの岩がごろごろしていた。
そして、昨日。朝が明けた。タロウは動かない。タロウの群れに戻るのを躊躇っているのだろか。いつもなら狩りをする時間にも動かない。何か考えがあるのか?昼ごろになってようやく動き出した。いつもなら、獲物が取れていれば、狩りを終えて獲物を喰らい食事休憩をしているころだ。タロウはゆっくりと高い方へ向かっているようだ。何をする気だろう?高いところに行って下を見下ろしている。群れの狩りの様子を見ているようだ。わずかに走竜の群れが動いているのが画面で確認される。この様子だとまだ狩りを続けているようだ。餌が取れていないと思ったのか、タロウは動き出した。そして、群れの行く先を先回りして、タロウ達の元居た群れへと走らせた。突然の獲物に群れの長達は驚いたが、獲物をすぐに仕留めた。
そして。ここから、タロウの悲劇が始まった。姿を見せたタロウに対し群れの長が敵意をむき出しにし、近寄ってきたタロウに対して尾で打撃を与えたのだ。タロウの表情は見えないが、タロウの声は聞こえないが、驚きの表情をし、苦痛の声をあげていたに違いない。
長はタロウをしばらく打ち据えていたが、やがてくたびれたのか、それとも尾が痛くなったからなのか、尾での懲打を止めた。そして、敵意むき出しの顔を見せた。早くこの場から立ち去れ、去らなければ噛み殺すぞ!と言わんばかりの表情だ。
以前のタロウなら体力負けしただろうが、今は下半身が戦車だ。殺し合い、縄張り争い、餌の奪い合い、どれをやってもタロウは負けないと思うのだが、タロウにその気はないらしい。ゆっくり後ずさりしながら遠ざかると急に反転し全速でその場を離れたようだ。
タロウはかなり動揺している様子で、画面が右に左にぶれている。夕刻から宵闇に代わってもタロウの進む速さは変わらない。闇夜で砂嵐の中、画像にも何も映っていがおそらく徹夜で、夜が明けても変わらずにここへ向かったのだろう。そうでなければここまで、一昼夜で来れるような距離ではないはずだ。
私は画像を見終わるとため息をついた。やはりタロウの言う通りだったか。群れを追放された走竜はどうなるのであろうか?この星でははぐれ走竜は見た事がない。やはり一匹では生きていけないのか。だが、私はタロウを生かし、改造した。その責任を取らなければならない。なにより、群れから離れたタロウには生きる目的が必要だ。そうしないと今回のように崖に頭をぶつけて死んでしまうかもしれない。私はハッチを開き、戦車部分から降りた。麻酔が効いているのか、生きるのに疲れ果ててしまったのか?タロウは身じろぎもせず、泥のように眠っていた。私は前回の手術の時と同様にタロウを固定し栄養源をチューブで差しこんだ。疲れた体で朝を迎えてもろくなことを考えないからなあ。これで目覚めたらすっきりしているはずだ。私もひと眠りするか。