友達は化け物の体を使いこなす
三日後。タロウの手術痕はすっかり塞がった。これが野生の回復力と言うものか。私はタロウの運動性能を調べるため、タロウをクレーンで宇宙船から外に出した。久しぶりの野外に、タロウは大きく伸びをし、しっぽをぶんぶん振りまわす。
”まずは、走行試験だ。さあ、走って見て。自分の想ったままにクローラーが回転するから”
タロウの体の下に付いている戦車のクローラーが、キリリリリという音を上げた。と、同時にタロウを乗せた戦車がゆっくりと前進する。
”OK。どんどん動いていって慣れて行こうか。すぐに君のしっぽのように自在に動かせるようになるから。それじゃあ、今度は少しスピードを上げてみようか?”
タロウは言われた通り、素直にクローラーの回転速度を上げる。全身の進むスピードが速くなる。最高速度に達したようだが、前の状態に比べるとその速度は3割減だ。
”ハイ、止まってー!”
私は飛行艇を飛ばしてタロウの進む先へ着くと大声を上げた。タロウの動くスピードは徐々に遅くなってやがて止まった。
”久しぶりに動いた気分はどうだい?”
”走った感じが全くしないね。それに遅すぎる。これじゃ狩りもできないよ”
”そういうだろうと思って次の手を考えてたよ。こっちへ来て”
私はタロウの頭に乗ると宇宙船の入り口を指差した。
”まっすぐ進んで、そう、ここでストップ。ちょっと待ってて”
私はタロウの頭からジャンプして降りた。そしてタロウを誘導してガソリンタンクまで連れてくると、戦車部分についている燃料タンクにガソリンを注いだ。
”さて、これでもう一度、走って見てくれ”
”何をしたのだ?”
”君が、狩った獲物を食べるように、下半身も栄養が必要なんだ。無論、補給しなくてもきみは動くことができる。だけど補給した時にどのくらい速くなるかと思ってね。そら、もう一度走って見せてよ”
タロウは体の向きを変えると、再びクローラーを回転させ動き始めた。クローラーの元気良く回転する音が響いたかと思ったら、あっという間にスピードが速くなっていき、最初に走った時より倍はやくなった。速く走れたのがよっぽどうれしかったのかタロウはどこまでも走っていく。私は慌てて飛行艇で後を追いかけタロウを制止させた。
”ちょっとちょっと!速く走れてうれしいのはわかるけど、はしゃぎすぎやないか?”
”これはすごい!いままでこんな速さで走ったことはなかった!”
”最高速度は今までの君の走る速さの2倍くらいだね。でもあんまり速く走ると燃料がなくなるから、ここぞっていう時にだけにしてね”
”燃料とは何か?”
”さっき君の下半身にいれた、下半身用のご飯の事さ”
”下半身用のご飯はどうすれば自分で食べられるようになるのだ?”
”一応この星では北の方に石油が取れるので、そこに行けば大丈夫だけど宇宙船にも石油はあるから当面は心配しなくていいよ”
”あなたはいつまでこの星に居るのだ?”
”うーん、それはわからないなあ・・この星で我々に必要な資源がある限りは、と言いたいところだけど、任期もあるし”
”任期?”
”この星にいられる期間さ。もし私の任期が終わって私が母星に帰ることになっても君の分の燃料は確保しておくから安心していいよ。それより、一旦群れに戻ったらどうだい?君がいないと食うものも食えないんだろ?”
タロウはやっぱり群れの事が気になるらしい。私の発言にタロウの体が反応した。
”私の群れが今どこに居るかわかるか?”
”ああ、ここからだいたい1000kmぐらいかな?君の足だと、君の群れがもっと南に移動してるとしても三日もあれば追いつくよ。燃料は満タンにしておいたから、さっきみたいなフルスピードで走らなきゃ半月は持つよ”
”では様子を見てくる”
タロウは私の忠告に従ってゆっくりと走り去った。後には砂煙がもうもうと立ち上がり、タロウの後ろ姿をかき消していた。さてと、巨大生物がいない間にこの辺りの鉄鉱石を採取していこう。