友達は自分が化け物になったと認識した
宇宙船に戻ると、タロウが目を覚ましていた。身動きの取れない体に苛立ちを隠せないのか、はたまた傷の痛みが疼くのか、唸り声をあげている。私はタロウについているチューブに鎮痛剤を投与した。私は鎮痛剤が効いてくるまでの間、話しかけることにした
”やあ、気分はどうだい?”
”私は、今どうなっているのだ?体が全く動かない。このまま動けなくなってしまうのか?”
”今動けないのは、傷口を塞ぐため、しばらくじっとしててもらう必要があるから。まえにも説明しただろう?”
タロウは、ああそうか、といって身じろぐのを止めた。そして、大きくため息をつくと私に尋ねてきた。
”あなたは、外に出られたか?できれば群れの様子を見てきてほしいのだが・・・”
”そういうだろうと思って、もう外出済みさ。君の群れは、あんまり狩りがうまくいってないようだ。走る速さがだいぶ落ちてたよ。あんまり食べれてないようなのでちょっとだけ狩りを手伝ってきた”
タロウは目をつぶり、もうひとつ深いため息をつくと、私に向かって言い放った。
”手伝ってくれたことには礼を言う。ありがとう。だが、あまり狩りに関わらないで欲しい”
”どうしてだい?”
ふくれっ面をする私に、タロウは幼子に諭すように言う。
”我らは自然のままに生き、自然のままに死んでいくのだ。狩りができなくなった群れは、死んでいくのが必然の事、当然の理なのだよ。私も本来なら死ぬべきだったのだ・・・”
”そんな!せっかく助けたのに!”
”いや、意識が戻った今、再び死ぬのは嫌だし、生きたいと思っている。だからあなたには感謝しているのだ。だが・・・”
”だが、どうしたの?”
”もう私は群れには戻れないだろう。死んだものとして扱われているはずだよ”
”そんな!せっかく生き返ったのに!これから動けるようになって群れへ戻って狩りをできるようになるのに?”
”私の足は、もうないのだろう?どうやって走れるようになるのだ?”
”君が今、乗っている物は戦車っていうんだ。脚の代わりにクローラーっていうものが付いている。それでどんな所でも走れるんだ。あ、崖とかは登れないけどさ”
タロウは目を閉じ、首を傾げた。やや間を取ってつぶやくように私に尋ねた。
”私の全身を見ることはできるか?水面には私の姿が映るのだが?”
”それくらいなら、お安い御用さ!”
私はタロウの目の前にスクリーンを広げ、タロウの全身を投影した。
”見て!これが今の君だよ。どうだい?かっこいいだろう?君の体の下にあるのが戦車で、輪っかみたいなのがクローラー。それが回転して前へ進むんだ!”
私の説明を聞いているのか聞いていないのか、よくわからない表情を浮かべた後で、タロウは感想を言った。みにくいな、と。
”これで私は化け物の仲間入りか・・・群れに帰れないな、確実に”
”何言ってるんだい?高々足がなくなっただけで、君は君じゃないか?群れの者も迎え入れてくれるよ”
”それはないな。なぜなら、私が自分自身を化け物だと思っているからだ。私達は皆同じ感覚を持っている。私が化け物だと思ったものは、他の者も化け物だと思うものだ”
”そんなことないって。傷がふさがったら群れへ帰れるよ”
タロウは何も言わず、ただ首を振った。そして、また目を瞑った。
私はタロウをそっとしておき、鉱物分析室へ入った。拾ってきた鉱石を調べると純度の高いものだった。よし、あそこを拠点にしよう。しばらくしたら、走竜達は南に向うからそれから発破をかけて崖を崩すか。それと北の方にある資源はどうやって採掘するかなあ?これからこの半球は冬になる。タロウ達、走竜ほか、動けるものは南へ移動する。開発に邪魔な生き物はいなくなるが、天候も荒れ、飛行艇だと調査がし難い状況になってきた。やはり地上からアクセスするルートをつくるか。タロウに手伝ってもらうか?でも、群れに帰ってももらいたいし。本当に群れには帰れないのだろうか?私は純度の高い鉱石を前にしても喜べなかった。