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「さて、マノンさん、ですよね? ボクと同じ、死にながらも生まれ直したモノ」
カルマは青年こと、マノンと向き合った。
「マカから事情は聞いています。大人しく、無へ還る気は無いんですよね?」
「…カルマ、か。キミならボクの気持ちが分かると思うんだけどね」
マノンはフードを取り、真っ直ぐに笑顔でカルマを見つめた。
「っ!?」
「…マカさんと、同じ顔」
カルマとクイナは言葉を失った。
あまりにそっくりなマカの顔。
そして両眼の強い赤に、意識を持ってかれる。
しかしカルマは唇を噛み、意識を戻す。
「…分からなくはありません。しかし、ボクはあなたのように表の世に危害を加える存在ではありませんから」
「こうなったのはボクのせいじゃなく、母さんのせいなんだけどね」
「よく言いますね。何とかしようと思ったら、マカに相談したはずでしょう? でもあなたは逃げた。自分の好き勝手を邪魔されたくなくて、去ったのはあなたでしょう?」
「それは否定できないけどね」
わざとらしく肩を竦めるマノンを見て、カルマの眼がつり上がる。
「マカには強く言われているんですよ。マノンを見つけ次第、すぐに消せ、と」
「ヒドイ姉さんだな。この世にたった2人っきりの双子だって言うのに」
「そんな命令を出させたあなたの方が、ボクは悪いと思いますけどね!」
カルマは地を強く蹴り、マノンに向かって鎌を振り上げた!
しかし!
「なっ…!」
マノンは闇となり、鎌は虚しく闇を切り裂いただけ。
―まだ同属とやり合うには、こちらの分が悪い。引かせてもらうよ―
「マノンッ!」
カルマは闇に向かって叫ぶも、そこにマノンの気配は無かった。
「…まったく。流石はマカの双子の弟ですね。厄介な存在だ」
カルマは深くため息をつくと、クイナの元へ向かった。
「クイナさん、大丈夫ですか?」
「力をいくらか吸い取られたけど、何とか…。でもカウが…!」
カウはその姿を薄くさせ、すでに犬の形も保っていられない。
「コレは少々危ないですね。クイナさん、カウを影に戻してください」
「分かった」
クイナは頷き、カウを自分の影に戻した。
「うっ…!」
しかしすぐにクイナの表情が歪み、その体が傾いた。
「クイナさん!」
慌ててクイナの体を支えたカルマは、彼女の様子に気付いた。
犬神のダメージを、その身に受けたのだ。
「…今はこうするしかないんです」
犬神はそのままでは存在していられない。
寄生する人間がいれば、何とか生きていられる。
意識を失ったクイナを抱き上げ、カルマは夜空に浮かぶ満月を睨み付けた。
「マカ、マノン…」
カルマの声は、冷たい風にさらわれた。