襲撃
クイナは暗い夜道を歩いていた。
すでに月は空高く浮かんでおり、周囲には人気が無い。
しかしクイナはおびえる様子はなく、真っ直ぐに帰り道を進む。
だが…。
ふと何かの気配を感じ、クイナは立ち止まった。
「…カウ」
呼ぶとクイナの影が動き、黒き犬となった。
カウは歯をむき出し、警戒した様子で目の前の闇を睨みつける。
クイナも思わず身構えた。
「―スゴイね。犬神使いになってから、そう月日は経っていないのに、もうそんなに力を身に付けたんだ」
暗闇の中から、1人の青年が出てきた。
黒づくめの服装、そしてフードの隙間から見える笑う口元。
「…あなたは?」
「う~ん…」
青年は苦笑し、肩を竦めて見せた。
「キミを喰らうモノ、かな?」
青年がそう言うのと同時に、青年の背後の闇がいきなりクイナに襲いかかった!
しかし同時にカウも巨大化し、闇に立ち向かう。
だが闇はムチのように動き、カウの体をからめ取ってしまう。
「ぐっ…!」
形勢は不利だ。
瞬時に悟ったクイナは、ポケットから橙色の折鶴を取り出し、『気』を込めて空に放った。
折鶴は光輝き、空の向こうへ飛んでいく。
「ん…? …また姉さんの入れ知恵か。相変わらず隙の無い人だな」
闇はその間にも、カウを締め上げる。
「カウっ!」
カウの体はムチによって変形し始め、顔は苦痛に歪んでいる。
クイナはカウに力をそそぎ込むも、その力さえも闇のムチから吸い取られてしまう。
「うっ…ぐっ!」
次第にクイナとカウの力が無くなっていく。
「諦めて、大人しくしてたほうが苦痛は少なくて済むよ?」
「誰がっ、諦めるものかっ…!」
カウと共に生きることを決めた。
例え寿命を削られようが、この身にどんな負担がかかろうが、カウと生きるからこそ受け入れられる。
「こんなっ所でっ…」
しかし膝から力が抜け、思わず膝をつきそうになる。
冬なのに、体中から汗がふき出す。
「はあはあっ…!」
視界も暗くなる。
このままではっ…!
「クイナさん、お待たせしました!」
少年の声が上から聞こえてきた。
顔を上げると、月の光を浴びて、大きな黒い鎌の刃が見えた。
白い髪に、金を含めた赤い両眼の少年が、鎌を振り上げ、カウを縛り上げる闇のムチを切り裂いた。
カウは自由になり、すぐにクイナの側に戻る。
「カウっ! 大丈夫?」
しかしカウは何度も足を折り、ついには道に倒れてしまう。
その様子を見て、カルマは顔をしかめた。
「遅くなって申し訳ありません」
「あなたは…?」
カルマは等身大もある大きな黒い鎌を持ち、黒い布で全身を覆っていた。
「カルマと申します。マカの同属です」
「ああ…」
クイナは数日前、マカに会っていた。
あの時、マカの言った言葉の意味が分かった。