9:三人目の転生者
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気がついたらそこは、自分の部屋ではなく、どこか分からない天井のない場所だった。
「こ、ここは…?」
「お嬢さん、こっちに来なさい。」
声の方に振り向くと、イケメンがいた。
まごうことなきイケメンだ。
イケメンがお茶を飲みながら呼んでいる。
私がイケメンの近くに来ると、目で座るように促された。
私が座布団に座ったところで、イケメンはお茶をちゃぶ台の上に置き、私の目を見てこういった。
「僕は神様です。あなたに転生してもらおうと思って呼び出しました。」
私は無言で立ち上がり、周りを見渡した。
…出口はないようだ。
頬をつねってみる
…痛い。
「夢じゃないよ?反応が面白いね。」
自称神は笑っている。
そしてこう続けた。
「君は篠宮唯香と城野乃愛を知っているね?」
私は神様に掴みかかる。
「どこ!二人はどこにいるの!?」
「ま、まぁまぁ落ち着いて。二人は今異世界で生きている。僕が転生させた。」
つまり私が学校で妄言だの精神異常者だの言われたのも全てこいつのせいか。殺してしまいたい。
「物騒なこと考えないで!?」
「私の心を読まないでよ。陽弥さんはなんでか知ってるみたいだったけどなんで?」
「彼にはしっかり説明したんだ。安全な世界になったあと、唯香ちゃんのところに転生させる約束もしたね。」
なるほど、あのシスコンならたしかにそれで納得しそうだ。
「それでなんで私転生させられるの?唯香や乃愛と合わせるためってわけじゃないんでしょ?」
「もちろんさ。君には唯香ちゃんたちと一緒に勇者として世界を救ってほしいんだ!」
勇者。いい響きだ。
「なるほどね。いいね、それ。」
「話が早くて助かるよ。じゃあ早速───」
「もちろんチートはあるよね?」
「あ、ああ。あるよあるよ。この世界ではLv上げに経験値が必要なんだけど取得経験値100倍にしてるからね。スキルもあるからそれにもチートしておいたよ。」
「重畳。異世界に持ち込めるものもあるでしょう?」
「え、えーと武器と装備とかはありだけど…」
「私、現代人だからスマホがないと生きていけないの。スマホ持ち込ませてね?あと二人の分のスマホも。そうだな、他には銃が欲しいな。私殺し屋やってたけどタゲ補足任務ばっかだから逃げる以外に脳がないの。知ってるでしょう?あとは銃を自由に思った通りに撃てるようなスキルもほしい。それと銃を思った通りに改造できるスキルも!他には…」
「ストーップ!!!!わかった!わかったからそれ以上はやめて!」
「えー?まだ欲しいものあるんだけど」
「それ以上は娯楽品でしょ!勇者道にそんなもの必要ありません!」
「えー?」
「今言ったのは全部準備するからお願いだからそれ以上無理させないでください…」
「しょーがないなぁ。」
「転生、させるよ?準備はいい?」
「いいよ」
答えると、神は私に手をかざす。
そして意識が刈り取られる。
目が覚めるとそこは、異世界であった。
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私は乃愛の胸に埋まりながら目を覚ました。
乃愛にがっちり捕まっている…
体格的に振りほどくことが出来ない。
体を少しずつ乃愛の足もとの方にずらして腕の自由を得る。そして最終的に捕まって解ききれない私の首元の枷を外すために乃愛の脇腹に攻撃を仕掛ける!
「乃愛起きろ!」
「あひゃあはぁははははは!」
私の容赦のないくすぐり攻撃で首の拘束が緩む
即座に脱出し、しかしくすぐり続ける
「あひゃひゃひゃひゃひゃ!ゆ、ゆるしてゆいかぁ〜あははははは!」
「これは罰よ!観念しなさい!」
私は乗りに乗ってくすぐり続け、シノが呼びに来るまで主導権を譲ることは無かった。
コンコン、ガチャリ
「おはよう二人と…も…?」
シノが見たのはくんずほぐれつくすぐり続ける私と乃愛の姿。
来ていた制服は乱れ、互いにいろんなところが見えている。
普通は見えちゃいけないところも丸出しだ。乃愛だけだけど。
「あ、朝から元気なのはいいけど張り切りすぎないでね!朝ごはんできたから落ち着いたら食べに来てね!じゃ!」
シノは超早口でそれだけいうと扉を閉めて走って下へ行ってしまった。
「しの、どうしたんだろ〜?」
乃愛があくびをしながら言う
「…何だったのかしらね。」
知らぬが仏、というやつである
とりあえず私と乃愛は朝食の準備を済ませて下に降りる
下にはパンと目玉焼き、そして野菜スープが用意されていた。
「んぁ〜おいしそ〜♪」
乃愛がだらしない顔を晒す。
シノは準備を終えて席につき、なにか本を読んでいるようだ。
「お待たせ、シノ」
「あ、大丈夫だよ唯香ちゃん!たいして待ってないよ!さ、食べよっか!」
3人手を合わせていただきますと唱和する。
私は行儀が悪いのは知っているが、食べながらシノに話しかけた。
「シノ、今日は昼の準備の時間に魔物狩りに行ってみたいの。いいかしら?」
「え、魔物狩り?うーん、私、今日は二人に生活用品買う場所とか案内しようと思ってたんだけど…二人ともそれしか服ないでしょ?」
「あー…失念してたわ…制服いつもは5セット持ってたから…」
昨日は濡れたタオルで体を拭いただけだった。
風呂は貴族や金持ちでないと入れないらしい。この国では、王様くらいしか所有していないらしいが、その王様は現在政策で壁にぶつかっており、「国民を安心して生活させられないのに一人で呑気に風呂に入っている場合ではない」と、寝る間を惜しんで考え込んでいるという。
「じゃあ、今日は二人の生活用品の購入が主な目的ということでいいかな?むしろ昼の営業は休みにしちゃうか!」
「え、そんな、悪いわよ。」
「いいのいいの!一緒に暮らすわけだし家族みたいなものでしょ?それにここでは年齢的にも経験的にも私がお姉さんなんだから、頼りにしてくれていいんだよ!」
「そ、それじゃあお言葉に甘えちゃおうかしらね。乃愛?話聞いてた?今日は買い物よ?」
「ん〜?ぱんもめだまやきもすーぷもおいしーよー?」
「完全に聞いてなかった反応だね…」
「のあ、ゆいかとおそろいのふくほしいなぁ〜」
「と見せかけてよく聞いてるのよこの子。出来るんだかできないんだか…」
こうして3人は店を閉め、買い物に馳せ参じるのであった。