56:獣王国の戦闘大会
ダブAダンジョンは王城からほぼ真南に1時間強進んだところにあった。
今更ながらダンジョンで戦闘してて魔物が出たりしないかと思ったが、魔道具で結界をはると同時に魔物が苦手な特殊な香を炊くらしく、ほとんど魔物が来ることは無いらしい。それに戦いに優れた者達が集まっているわけなので、魔物が出てきたとしてもほとんど問題なく討伐できるそうだ。浅い階層にはどのダンジョンでも弱い魔物しか出てこないことも安全性の保証になっているようだ。
「それでは、参加者の皆様は降りてください。トーナメント表の順番通りに進めていきます。控え室は1層の安置となっておりますので、まずはそちらにご移動ください。」
案内役らしい黒い服を着た若い猫耳の男が指示を飛ばしている。今回総参加組数は128組で、4ブロックにそれぞれ32組がいる。私たちはその最後の組なので、戦闘も最後になる。1回戦は全部の試合を見ることが出来るわけだ。
とりあえず1回戦は私たち以外全部終わった。
私たちの相手は全く知らない男2人のペア。だと思っていたのだが、この国に来た時に見かけて目をそらしたガチムチケモ耳おじさんの2人だった。体に似合わない爽やかな笑顔でマッスルポーズを決めながら動いている。言葉に表せないほど気持ち悪い。
「さあ英雄よ!私たちに勝てるかな!?」
「私たちのペアは、過去に決勝に残ったことのあるほどの実力があるのだぜ!」
「あの時の獣王様、くっそ強かったな!」
「だが私たちはしっかり1発入れてふっとばしたのだぜ!」
「そこから本気出されて瞬殺されたな!」
「清々しいほどに殺られたのだぜ!」
「あの、すみません、話すのはいいんですけどセリフの度にマッスルポーズ変えるのやめてくれません?吐きそうです。」
「…うぇぇ」
「あ。」
「ゆ、唯香…ごめん…私…吐いてくる…」
瑠璃香はそう言い残して去っていった。ルール上はペアで登録していてもソロで戦うのもありなので、別にいなくなってもいいのだが。こいつらを私1人に任せた罪は重いわよ瑠璃香…私だって吐きそうなのに…
「はい、時間です。シノミヤ・アマキペアはこの先頭に限りシノミヤのみの参加でよろしいですね?」
「はい…うっ、ぷ」
ちょっと喉元まで何かのぼってきた。やばいかもしれない。
「それでは、スタート!」
始まってしまった。
「「死ぬがいいー!!!!」」
なかなかのスピードで、斧と槍を持ったふたりの筋肉戦士は私を挟むように走ってきた。
とりあえずヒットする直前に高く飛び上がり、相棒よりも小さい投擲用ナイフ(木製)を真下に投げまくる。
筋肉は互いに武器を当てないよう急ブレーキをしていたので完全にナイフの餌食である
スコココココンッ!
「「い、いったい!いったい!!!」」
いくつかをのぞいてほとんどのナイフは頭と首、武器を持つ手首に当たった。
私は片方の筋肉の肩に一瞬着地してなるべく遠くに飛び退く。
「そこまで!勝者、シノミヤ!」
さっきのナイフが評価されたらしい。なんとか秒でやることが出来た。
「な、なんて強さだァ!」
「さすがは英雄なのだぜ!」
負けてもマッスルポーズの筋肉2人。私は返す言葉もなく走り去った。
吐き気が限界だったのだ…
粗相せずに間に合ったので良かった
吐いて復活した私たちは2回戦、タスギペアとの戦いに挑んだ。
「え、英雄と戦えて光栄です!思う存分ぶつからせていただきます!」
「え、ええ。それはいいのだけど、そちらの方はタスギくんの何なのかしら。」
私はタスギのすぐ側で控えている小さい女の子(狐耳)を示して尋ねる。
「この子はキルコっていう、僕の彼女です。ほら、キルコ。」
タスギが紹介すると、キルコはしずしずと前に出てきて深々とお辞儀した。
「キルコと申します。タスギくんがお世話になりました。本日はよろしくお願いします。…タスギくん狙ってるなら殺す」
礼儀正しい方だなぁと思ってたら最後のセリフで全てひっくり返された。最後だけめちゃくちゃ鋭い目で殺意に溢れていた。小声で言ったからかタスギには聞こえていないようだが、随分嫉妬深い子なのだろう。愛されてていいなぁと、私は思いました。はい。
「準備はよろしいですか?それでは、スタート!」
開始の声がかかっても、互いに動かない。タスギは大きい盾と片手剣、キルコは両手に短い剣を持っている。
「瑠璃香、ファイヤ」
「いえすっファイヤ!」
私の一声でとりあえずのロケランをブッパさせる
ドゴォッ!
一瞬上がる煙で前が見えなくなる。が、私には見えた。撃った瞬間にキルコがさっきの筋肉とは比にならないレベルのスピードでこっちに来ている。狙いは瑠璃香みたいだ。
私は防御手段がない瑠璃香のカバーに入る。
ガッ!
「!良く見えましたね。さすがは英雄。でもタスギくんは渡しません!」
カンッ!
「別にいらないわよ。」
カカンッ
「なんですか!タスギくんに魅力がないとでも!?」
カキンッ
「うっわめんどくさい人だ。瑠璃香やって。」
片方の剣をはじき飛ばし、一瞬止まったところを瑠璃香に拳銃で狙い撃ちさせる。タスギはスピードについて来れていないので実質一対二だ。
ドパンッ!
「いった!」
弾丸はキルコの眉間を完璧に捉えた。
「キルコ、死亡!壁際へ移動してください。」
審判の声にガッカリした顔でキルコは壁際へ歩いていく。
タスギの方を見ると、ロケランは盾で防いだようで、キルコがやられたタイミングで大きい盾を再び構えそこから動こうとしていない。
「あら、じゃあこっちから行くわよ!」
私は姿勢を低くして正面から走りよる。
瑠璃香はそのすぐ後ろだ。
「今!」
タスギが急に盾を少しずらして剣を突き出してきた。良い突きだ。だが私からしたら遅い。ずらしたぶん見えた体にナイフを叩きつける。
「ぐっ」
「とどめっ!」
瑠璃香は盾を踏み台にして高く飛び上がり、両手に拳銃を構え連射した
ドパパパパパパン!
タスギは体中に弾丸を受け、勝者は決まった。
「勝者、シノミヤ・アマキペア!」
タスギが尻もちをついてため息をつく
「はぁ〜やっぱり英雄はレベルが違う…」
「タッちゃん、それは仕方ないよ。生まれ持ったものから違うんだから。私たちは私たちらしく成長しよ?あと、英雄さんに浮気とか絶対しちゃダメだから!」
「わ、分かってるさ!僕には君しかいないよ」
すっごいイチャイチャしていてあの周りだけかなりピンク色になっている感じがする。これが俗に言う試合に勝って勝負に負けたということなんだろうか…
「唯香…これは私達もイチャつくべきかな…?」
私は瑠璃香の方を向かないまま手に持ったナイフを瑠璃香の顔面めがけて振り抜く。
しかしかわされてしまった。
「無言でナイフは流石に心にくるね…」
「自業自得。反省しなさい」
「ご、ごめんなさい…」
その後、3戦目4戦目と、筋骨隆々な男達を秒でぶちのめし、このブロック内での決勝、全体で言うベスト4をかけた戦いにまできた。相手は、私の知らない顔の獣人だった。だが私は知っている。決勝に上がってきたのは顔見知りで、私がぶちのめした男、ゼンのはず。トーナメント表にはそう書いてあった。たしかに相手の男はゼンと同じように体格の良い筋肉質な男たちだ。だがこんなに殺気や闘気のない男達は知らない。
「だいたい一週間と少しぶりですね、シノミヤさん。」
「あの…ゼ、ゼンさん…?」
「そうです!私はあの時あなたに猛省させられたゼンです!その説はどうもありがとうございました。」
「え、ああ。はい。」
「私はあなたの助言に従い、女遊びをやめ心の底から妻と子を愛し、働いています。まだ大きな変化は得られていませんが、充実しています!」
「いやいやいやいや、あなたそんないい笑顔する人じゃなかったわよね?それに口調も違うし雰囲気も全然違う!何がどうしてそうなったのよ…?」
「え、そんなに違っていますか?私としては嬉しい限りですが…私はまだまだ鍛錬が足りていません。ですから、この戦闘で少しでもなにか掴みたいと思います。本日はよろしくお願いします!」
「な、なんでそんなに礼儀正しいのよ…めちゃくちゃやりづらいわ…」
やっぱり、知っているはずのゼンだった。ちょっとどころじゃなく気持ち悪い。あの男がこうなるとは思わなかったし、この短期間での変化が心の底から不気味だったのだ。私は殺ることにした。多分ゼンに悪気はないのだろうが知ったこっちゃない。
「準備はよろしいでしょうか?それでは、スタート!」
「瑠璃香。」
「なに?唯香。」
「ゼンさんのペアの人やって。私はゼンさんを殺す。」
「わかった!…唯香。ほんとに殺しちゃダメだよ?」
私の殺気を感じたのか瑠璃香が注意してくれた。
「…できる限り頑張る」
相手は2人して斧を構え、前回のように闇雲に突っ込んできたりはしない。なのでとりあえず瑠璃香の狙撃で無理やり動かせる。
ドパンドパンドパン
ちょうど二人の間を狙った狙撃で二人の距離を開かせることに成功した。私はその瞬間ゼンに接近し投擲用ナイフを狙いをつけずにいくつも投げつける。
「くっ!」
ゼンは体に当たりそうなものは斧で弾き、後ろに少しずつ交代していく。私は適当なタイミングで投擲をやめ、あるスキルを使ってさらに近づいた。
「なっ!?」
「さよなら」
驚くゼンの首元にちょっと強めにナイフを叩きつける。
「ぐはっ…」
「ゼン、死亡!壁際に移動してください。」
ゼンが膝をつく。
ドパンドパンドパンドパンドパン
連射音に続いて人が膝をつく音が聞こえた。ふむ、これは。
「勝者、シノミヤ・アマキペア!」
観客の完成を聞きながらゼンに手を差し出す。
「お疲れ様。ほんと、前と随分変わったわね…正直気持ち悪いレベルだったわ。」
ゼンは体を起こしながら苦笑いする。
「あの時の私はおかしかったんです。あなたに目を覚ませてもらいましたよ。心から感謝しています。優勝、してくださいね!」
「そうね。できる限り頑張るわ。」
こうしてダブAブロックでの勝者は私たちに決まり、私たちはアシュリンAに戻る馬車に乗ったのだった。




