55:続 獣王国のお祭り
日付変わってだいぶ経ちましたが書けたので出します。おやすみなさい。
明日は戦闘大会。朝9時までに王城に集合だそうだ。開会式の後、各所に国から馬車が出るのでそれぞれに乗り込み、各ブロックでまずベスト4を目指してトーナメント形式で戦う。準決勝はアシュリンAの2層、決勝はそれまで使われないアシュリンAの1層で行われる。
今私は夕食を終え、明日のために寝る準備を進めていた。今日までほぼ休み無しで訓練を重ねてきているので、体がしっかり動くように、乃愛と2人で体をほぐす。私も乃愛も体はかなり柔らかいので伸ばす時は体がほぼ限界まで平たくなる。乃愛の場合、前に体を倒す時はあるものが邪魔をして私よりも平たくなれないわけだが。
先天的な運動能力で言うと私よりも乃愛の方が恵まれた体つきをしている。胸に余計なものがついていなければ、元の世界でも陸上の全国大会で歴史を塗り替えるくらいしていたんじゃないかと思う。私も十分運動能力はあるのだが、全国大会で優勝こそすれ歴史を塗り替えられる程の能力はない。
「ふぁぁ…きもちー…」
体を伸ばす乃愛が気の抜けた声をだす。
「乃愛、明日は絶対決勝まで負けないでね?」
「もっちろん!っていいたいところだけど…じゅんけっしょうまでかなぁ…さすがに、のあとまりなであのばけものをたおすのはむりがあるよぉ…」
既にトーナメント表は発表されている。私たちはダブAというダンジョンで戦うグループにわけられている。同じグループに、解析を持っていた狸耳の冒険者、タスギや、私が瞬殺した、ゼンなんかがいるみたいだ。乃愛はバサラAのグループで、準決勝でアシュリンAの獣王様に当たることになっている。
「そこは乃愛の力でなんとかならない?魅了最大レベルまで上がってたじゃない。」
「あがってるけど、からだがうごきづらいくらいしかこうかないみたい…やっぱりあれはばけものだよ…」
「こーら。化け物とかあれとか言っちゃダメよ?王様なんだから。…うーん、でも、あなた達だけでも行けそうな感じもするけど…不意をつければきっと勝てるわよ。」
「できるかぎりはやるよ…まりなもがんばってるもん!」
体を起こし、笑顔で両の拳を上に上げる乃愛。揺れる山。眼福。
「まぁ、たとえあなた達が負けても絶対に私達が獣王様はぶっ倒すわ。本気で、負ける気なんてしないの。」
この1週間の集中特訓で私たち4人ともレベルが上がり、スキルレベルも上がった。さらに新しいスキルを習得したりもしているので、ボコボコにされた最初と比べたらかなり成長しているのだ。実際、最後の訓練の日、私は獣王様の攻撃を受けていない。代わりに私の攻撃はほとんど当てられていないが、それはあまり問題ではない。今回は2人で獣王様と戦うわけで、隙の作り方なんていくらでもある。攻撃を通すのはそこまで難しいことじゃない。
「ま、1番は私達が優勝争いすることよね。なんとか頑張って獣王様をぶちのめしなさい。」
「ん!がんばる!」
翌朝、いつも通り起き、食べてから、いつもの私服ではない戦闘用に改良を施した制服を身につけて王城に向かった。王城の前にある大きな庭には、たくさんのごつい男達の姿があった。近寄っただけで喧嘩売られそうな人相の悪い男達ばかりだ。何人か女性もいるようだが、女性らしからぬゴツゴツと発達した筋肉と何かを射抜くような鋭い視線は話しかける気すら起こさせない。物騒なお祭りだ…
現在時刻は8:55を指している。私たちが来てからも何人かごつい人達が来たが、時間が迫ってくると参加者より観客が増えてきた。可愛いケモ耳さんたちがわんさか集まってきて、明るくペチャクチャおしゃべりしている。目の保養だ。
私が目の保養にケモ耳さんたちを見ていると、急にマイクの音割れのような甲高い音が庭中に響いた。
おしゃべりしていた観衆も、参加者たちも静まり、その視線は1箇所に注目した。
それから数泊おき、王城のベランダ部分から獣王、ベオラント・バサラが堂々と、その風格を漂わせながら姿を現した。
「えー、諸君!本日はよく集まってくれた。今日はバサラ獣王国の伝統の祭り、戦闘大会の日だ。参加することを選んだ勇敢な戦士達よ。今日は存分に自らの全力を出し切り、すこしでも上に行くことを目標に頑張ってくれたまえ。」
獣王様の話す言葉は重く、体全体に響くようにきこえてくる。そこにあったのは戦闘狂ではない、一国の王としての彼の姿だった。
「また、今日のためにわざわざこの国を訪れてくれた他種族の者達よ。よく来てくれた。今日から数日は各宿、食事処は特別価格で安くしている。今日の戦闘が終わっても、しばらくはこの国で観光していくと良い。きっと満足させられるだろう。」
さすがは大国。よその国からきている人への待遇も厚いようだ。
「観客の皆よ!今日は各所に戦闘の実況映写機を置いてある。生観戦チケットを手に入れられなかった者もぜひそこで楽しんでいってくれ。譲り合いの心を持ち、観客どうしで争いにならないようにな。そういったことがあった場合、今後の観戦はちょっと悲しいことになるかもしれないからな…」
観客への対応も考えられているようだ。興奮した観客による暴走を抑えられるように釘をさしている。一般の観客にはそこまで気性が荒そうな人は見受けられないが、万一のことを想定した対策なのだろう。今気づいたが警備員のような格好の人達もいるみたいだ。しっかりしている。
「そして、今回の大会は4年前と同じように特別なものとなった。何故かわかる者はいるか?答えを言わずに手を挙げてみろ。」
今までの真剣な顔が砕け、すこしニヤけた顔で獣王様は問いかけた。参加者の殆どが手を挙げ、観客にもチラホラと手を上げる者がいるようだ。私は挙げていない。普通にわからない。
「うむ、やはり参加者は多くがわかっているようだな。では、聞こう。4年前、特別な者が参加し、ワシを抑え優勝した。はて、誰だったかな…。最前列左端の狸耳。わかるな?」
「篠宮梅男さんです!!!」
なんとなく分かってきた。嫌な予感がビンビンする。
「正解だ。彼は、本当に強かった。まさに英雄だ。今後、そんな人物はきっと現れないだろうと思っていたものも多いだろう。わしもそうだ。だがそれは間違いだった。英雄はまた、人族だ。紹介しよう。篠宮梅男の孫、篠宮唯香だ。」
その声と同時に後ろに気配を感じた。裏拳を決めようかと思ったが、色々察したので鋭く振り向くに止めると、その人物は焦った顔をしていた。
「っ…!…ふぅ、失礼します、転移させていただきます。」
かなり動揺した様子ではあったが、彼女は私に触れ、私の視界は一瞬ブラックアウトした。次の瞬間には、私の目の前にはたくさんの観衆がおり、参加者たちがいた。
「こちらの少女が篠宮唯香だ。見た目に騙されては行かんぞ?この子は恐ろしいほどつよい。とはいえ、この大会でわしを瞬殺したかの英雄と比べたらまだ未熟な英雄だ。ワシに負けることがあるくらいだからな。そんな英雄、篠宮唯香には3人の仲間がいる。正直4人揃ってわしと戦うなんてことになったらわしは手も足も出ずに敗北する。それくらい強い仲間だ。」
獣王様は私を横に立たせて熱弁を続ける。てかおじいちゃん獣王様を瞬殺って…
「今回は4人が2人ずつペアになって出場する。もしも彼女たちに勝つことが出来たら、特別賞として褒美をだす。ブロックは…バサラとダブだな。同じブロックの者達は是非褒美を意識して奮発してほしい。わしからはこんなものだ。さて、せっかくだから英雄にも話してもらおうか。」
そう言って獣王様はマイクのようなものを差し出し、小声で頼み込んできた
「すまんな、急に。悪いが軽く挨拶と、今日の抱負でも話してやってくれんか。これだけでも参加者たちのモチベーションになって良い祭りになるのだ。」
「まぁ、それくらいならいいですよ。」
承諾してマイクを受け取る。
「えー、皆さんこんにちは。篠宮唯香です。4年前は祖父がお世話になりました。もし祖父のせいで、不本意な結果になってしまった人がいるなら、代わりに謝ります。ごめんなさい」
ここで軽く一礼。まさか怒ってる人はいないとは思うけど、念の為の謝罪だ。
「今回、私たちはいろんな人達の技術、工夫、アイデアを盗むためにこの大会に参加させていただきます。私たちは獣王様の言った通りまだまだ未熟で、4人でやってもまだ獣王様に負けることがあるくらい弱いです。だから是非全力でご褒美狙いに来てください。」
私の言葉に観客も参加者も盛り上がる。
息をついて、次の言葉を紡ぎ出す。
「まだ私は未熟で、一人で獣王様を倒すなんてほとんど出来ません。だから、今回は私と、もう1人の大切な仲間で獣王様をぼっこぼこのギッタギタにしたいと思ってます。まぁ、もしかしたらその前に私の仲間が獣王様倒しちゃうかもですけど。」
笑いながら言うと、皆ザワザワし始める。
「そういうわけなので、本日はよろしくお願いします。頑張りまーす。」
最後をちょっと雑に締めてマイクを獣王様に返す。
「あー、まぁそういう事だ。各々気合い入れて戦っていこう。先程は言い忘れていたが、会場はもちろん映写機がある所にも屋台が出ているので食べたり飲んだりしながら感染してくれ。これで開会式は終了とする。参加者は皆それぞれの馬車に乗って会場に向かってくれ。以上だ。健闘を祈る。」
獣王様の声で観客も参加者も散っていく。
「いやぁ、急に連れ出してすまなかったな。盛り上げてくれてありがとう。すぐに送り返すよ。」
「いえ、ちょっと新鮮な体験で楽しかったですよ。お願いします。」
「では失礼します。」
来た時と同じように元の場所に戻る。
「そう言えばあなた、獣王様の側近の人よね?あの時はわからなかったけど、女性だったのね。」
「あ、はい。申し訳ありませんが、出来たらもっとちゃんと仕事するように言ってもらえますか…?戦ってばっかで仕事がたまるたまる…」
女性はものすごく嫌そうな顔をしてグチグチ言う。
「あはは、そうね、言っておくわ。」
「すみません。ありがとうございます。それでは、失礼します。」
そう言って彼女はふっと消えていった。
「おつかれ唯香〜」
「あら瑠璃香。いたのね。」
「朝からずっといっしょだったじゃんなんで!?」
「まぁそれはどうでもいいわ。乃愛達は先にいったのかしら」
「どうでもよく…なくないか…うん。乃愛達の馬車はもう行っちゃったよ。私たちの馬車1台だけ待ってもらってる。早く行こ。」
「ええ。…サクッと終わらせましょうね」
「…!うん!頑張ろ!」
久しぶりに呟いた瑠璃香をからかわない言葉に大し、嬉しそうな顔で返事をする瑠璃香は乃愛ほどでなくとも可愛い。元の世界では地味っ子として名高い瑠璃香は実はモデルレベルの可愛さを持っている。私でなけりゃ見逃しちゃうね。この世界に可愛い2人と一緒に生まれ落ちることが出来たことだけは、神様に感謝してもいいかなぁなんて思いながら、私はダブAダンジョンに向かうのだった。




