48:少年の救出
「え?おとこのこひとりが…が、がいこつ?みたいなのにおいかけられてるよ!」
乃愛の声で私の心は決まった。この下はランクB以下は入ってはいけない。だが、私は、私たちはつよい。骸骨程度、ぶっ壊せるはずだ。
「キースト!早くついてこい!」
私が一瞬考えた隙に、王子様はキーストを呼んで返事も待たずに階段を駆け下りていった。先程までの疲労した姿を微塵も感じさせない動きだ。
「王子様!ダメです!戻ってください!ここから下は私一人でも危険な…あぁもう!篠宮の孫!とその仲間も!着いてきてくれ!」
キーストは必死の形相で王子様を追っていく。もちろん、私たちもあとに続いた。
下りた先では、王子様が戦い始めたのか、硬いもの同士がぶつかり合う高い音が響き始めた所だった。キーストは既に走り始めている。私たちは少し急いでその横に並んだ。
音を聞いた限りだと、現場まではすぐだ。
まっすぐ進んで右左右と曲がった先に広がった空間に、王子様と少年はいた。王子様は3体の剣をもった骸骨を相手に奮闘しているようだ。
「ゆいか、あのこ、なんだっけ、さんくんだっけ。きたときにはなしかけてきたこだよね。」
「え?あらほんとね。それにしても…16層まできて無傷…?」
その少年は、私たちがこの国に来た時に話しかけてきた少年、サンだった。広間の角に膝をかかえてうずくまっている。パッと見た感じ無傷だ。
「王子様!一旦下がってください!」
「わかった!」
前で骸骨と戦っていた王子様がキーストの声と同時に素早くバックステップした。キーストは王子様が開けた間に入って骸骨に攻撃を続ける。
…だいぶ硬そうだ。キーストの剣の攻撃は全く効いていないように見える。
「ゆいか。これはのあたちもやろ?これはいらいとかじゃなくてひとだすけでしょ?」
「そうね。…それに、これ多分物理攻撃ほぼ通さないんじゃないかしら。王子様はともかく、あの獣王様に使える騎士団のトップと言えるはずのキーストさんの攻撃が通ってないのはおかしいわ。」
「あぉたしかに〜」
乃愛は少しの間骸骨を観察する。私は暗殺スキルで骸骨の殺し方をみた。
「ん〜、やっぱ頭蓋骨か…」
「これ、めんどくさそう…」
乃愛も同じように見ていたようだ。骸骨の頭蓋骨の中。そこに魔核がある。最短暗殺ルートは正面から叩き切るようなラインだ。つまり、絶対破壊できないという訳では無いのだろう。
私たちが見ているあいだに、このままだと手詰まりだと感じたのか、キーストさんが一旦後ろに下がり、剣をしまった。そして、剣と同じ左手腰に下げていた細剣を抜いた。そして、関節など人間なら骨よりは固くない部分への攻撃を開始した。
「王子様!骨はダメです!柔らかいところへの攻撃を!交代!」
「わかった!」
骸骨の動きが遅くなったところでキーストが王子様と交代する。
「キーストさん、私たちもいっていいですか?」
「あぁ…いや、それは少しもったいないな。これはアクシデントだが、ラッキーでもある。王子様に気づかないと倒せない敵がいるってことを、今の時点で教えられるのは、手間が省ける。だから、王子様が危険になるまでは手を出さないでくれ。」
キーストの表情には焦りや不安はない。
「もしかして、さっき骨ガンガン攻撃してたのわざとですか?」
キーストはニヤッとして答える。
「もちろんだ。王子様に私ほどの力で骨を叩いても意味が無いということを見せ、その対処法のひとつを見せる。それでも王子様では絶対に倒しきれない。そこで今まで学んできたことを思い出して、気づくことが出来れば、きっと王子様はもう私の手を借りる必要は無い1人前の冒険者だ。」
「なるほど、魔核について気づければ合格ですか。」
「ははっ、篠宮の孫は既に気づいていたか。」
「のあもきづいてたよ」
「そうかそうか。…やはりすごいな、きみたちは。いや、魔王を倒すのだ、それくらい普通か。すまない、この程度のことで驚いて。」
「いえいえ。」
こうして話しているうちに戦闘は進んでいき、ついにひとつの人影が膝をついた。
それは、王子様だった。
「!」
私が飛び出ようとするが、キーストが手を私の前に出して止める。
「危険じゃ───」
「いや、まだだ。ここでどう動くかだ。」
骸骨が上段で剣を振り下ろす。王子様はその剣に添わせるように自らの剣を差し出し、骸骨の剣は地面を捉えた。王子様の剣は差し出した勢いのまま骸骨の目の部分に吸い込まれた。
「まさか、気づいたか!?」
キーストが喜色を含んだ声を上げる。
だが、多分たまたまだろう。王子様は目の奥に差し出した剣を抜いて、骸骨の目のところから魔核が破壊されたエフェクトが出てきて驚いている。骨ではないところを狙った結果、あそこから攻撃出来るのが目の部分だけだったということだろう。
キーストもそれに気づいたようで、肩を落としている。
だが、一旦骸骨の弱点に気づいた王子様の攻撃は早かった。
すぐに残り2体に接敵し、目を鋭くついて絶命させた。果たして骸骨に命はあるのかと言われたらなんとも言えないが…
王子様が角で丸くなっているサンの所に歩み寄り、声をかける。
「少年よ、大丈夫か?立てるか?」
「ひっく…ママ…ひっく…」
「…無理そうだな…キースト!おぶってやってくれないか?」
「承知しました。」
キーストがサンを抱き上げて、こちらに戻ってくる。
「さぁさっさと帰るぞ。」
「ひっく…あ、のーまるのおねーちゃん!」
「お、おい少年!暴れるな危ない…うおっ!?」
サンは私の顔を見るやいなやキーストの腕から抜け出し、飛び混んできた。
私はサンを優しく抱きとめる。いくら私が小さいと言っても、5歳程度の少年は今のスペックなら余裕で受け止められるのだ。だっこして前が見えないなんてこともない。
「サンくん、だったわね。大丈夫?怪我はない?」
「…うん…ひっく」
「とりあえずダンジョンから出て、話を聞きましょうか。」
私たちは15層に戻り、転移陣で入口に戻った。
初めての転移陣である、私と乃愛は少し気持ち悪くなってしまった。そしてサン少年も目を回している。
「だ、大丈夫か?そこまで転移酔いするとは思わなかったのだが…」
「ごめんなさい、慣れてないから…」
「のあもさっきのいらいではつかってなかったから…」
「それにしてももう真っ暗だな。少年を親に引き渡したいところだが…」
キーストが呟くが、サン少年は完全に酔ってダウンしている。この状態の少年に聞くのはむずかしいだろう。
「篠宮の孫よ。先程の様子を見るに君に懐いているようだし、一旦預かってくれないか?そして出来たら話も聞いておいてほしい。明日の朝迎えに行く。」
「いいですよ。ゴルド子爵の屋敷に泊まってますし、部屋も余ってるって言ってたので大丈夫です。」
そういうことで、私たちは別れ、ゴルド子爵の屋敷に帰った。帰った時には11時を超えており、サンは完全におやすみしていた。狐耳メイドに事情を説明したところ、「こんな小さい子を1人にするのはいけません。お二人の間で寝かせてあげてください。」と言われた。それもそうだ。さらに、「こんな遅くまで連絡もなしに外にいないでください!ご主人様も瑠璃香様もマリナ様も心配しておられましたよ!」と怒られてしまった。申し訳ない。
先にサンをベッドに寝かせ、私と乃愛は軽く食事をして、シャワーで汗を流してから部屋に戻った。
そう、この屋敷にはシャワールームがあるのだ。流石に湯船は客には貸せない、とのことでシャワーを借りている。だが十分だ。拭くだけより圧倒的に清潔だ。マリナの魔法は便利だが、MP消費が激しいのでレベルが上がってMPが高くなるまでは我慢だ。仕方ない。
サンはお行儀よく寝息を立てている。
「かわいいかおしてるね〜♪」
乃愛が破顔させて言う。
ショタにはあまり触手は動かない私でも、可愛いと感じるくらいに整った顔立ちだ。
「そういえば、16層まで来たのに全くの無傷だったわね…なんでなのかしらね…?」
「こんなときこそかいせきだよゆいか!」
「まぁ、そうよねぇ…」
人畜無害な少年の解析など意味無いとは思いつつ、確認する
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名前:サン
性別:♂
年齢:5歳
Lv:1
経験値:0%
体力:30
MP:15
物攻:27
魔攻:14
物防:20
魔防:13
器用さ:24
速さ:30
幸運:100
所持スキル
魔物対話術Lv2
魅了Lv1
魔法
なし
装備:子供用洋服
武器:なし
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5歳でもLv1でかなり高い能力だ。特に目を引くのが幸運100とスキルの魔物対話術Lv2。無傷だった理由は多分これだろう。
「すごいね〜こううん100!」
「果たしてダンジョンの奥深くまで行ってしまうことが幸運なのかと言われたらどうかと思うけどね。」
私たちは軽く笑いあったあと、サンを挟んでベッドに潜り、1日を終えた。




