38:獣人達の国
バサラ獣王国は活気に溢れていた。まず、ドリス王国と違って人口密度が高い。もしかしたら国内でもここが集中して人がいるのかもしれないが、それでもドリス王国の国民全員集めてここに住まわせているくらいには人が多い。
それに加えて見る人見る人皆笑顔だ。誰もが幸せな生活をしているのだろうと簡単に想像出来る。
そして、何よりも私の目を引くのは、色々な種類のケモ耳だ。犬や猫はもちろん、正直なんの耳かわからないものもある。とにかく、ケモ耳かわいい。乃愛に犬耳を付けてもらったことはあるが、それと遜色ないレベルでケモ耳の獣人達はかわいい。…たまに見かけるガチムチケモ耳おじさんは流石に目をそらさずにはいられなかった。
私たちがキョロキョロケモ耳を見ている一方、獣人達は不思議そうな顔で私たちを見ていた。獣人でない人がこの街を歩いているのは珍しいのかもしれない。
ふと、犬耳の5歳くらいの少年がとてててとかけてきた。
「ねーおねーさん。なんでおねーさんたちにはみみがないの?しっぽもないけど。」
「えーっとね、種族が違うのよ。私たちはただの人で、あなた達は獣人族っていう、人間の力に獣の力が加わった種族なの。…私もよくわからないけど」
私は最後だけ目をそらして言った。
少年は小首を傾げ、
「じゃあおねーさんたちはままがいつもいってるのーまるのくず、ってやつなの?」
と、ごく自然に問いかけてきた
流石にクズ呼ばわりされると表情も引きつってしまう。ついでに言えば、瑠璃香が抑えていなかったら乃愛が爆発していたところだ。
どう答えたものかと考えていると、少年の母親らしき人が走ってきた。この人も犬耳だ。とても可愛い。尻尾もふさふさしている。もふもふしたい。
「サン!何してるの!ノーマルに近寄っちゃダメでしょ!」
セリフがトゲトゲだった。彼女は私たちには目もくれず、少年、サンをかつぎあげ、去っていった。
「あっ、あの…!ごめんなさい…この国ではこれが普通の反応なので…出来たら子爵様に文句を言われたりするのだけは御遠慮ください…」
案内の門番が怯えている。乃愛の殺気に当てられたのだろうか。
「はぁ…これが普通…ねぇ…」
私はこれからここで生活したとしておこるであろうトラブルを想像して、心からめんどくさいと思った。
◇
それからゴルド子爵の家までは特に何も起こらなかった。ただ、周囲からの視線は相当集め、マリナが少しプレッシャーに感じてしまったらしく、家につく前に瑠璃香の背中で眠ってしまった。プレッシャーの回避にはなっただろう。
子爵の家は、やはり相当大きかった。流石にドリス王国の城ほどではないが、その半分くらいの面積の二階建てだ。庭付きで2頭の犬が鎖に繋がれている。毛並みの様子からは、よく手入れされていることが見て取れた。
「おお、ようこそいらっしゃった!さあさあ、上がってくれたまえ!」
恰幅の良い、人好きのする笑顔でゴルド子爵が出てきた。
「いつくるかも伝えていないのに、待っていてくださってありがとうございます。」
玄関に入りながら代表して礼を言う。これからだいぶお世話になる気がするので、しっかりと丁寧な対応をしていかなければならない。貴族でもあることだし。
「それぐらいお安い御用さ。息子が本っ当に迷惑をかけたからね…」
ゴルド子爵は溜息をつきつつ目を伏せる。
「息子さんは今どこに…?」
案内された食堂らしい大きいテーブルのある部屋の席に座る。
「学校だよ。独学でなんとかなる!と思って育ててきたが、君たちも知っての通りだからね。常識や貴族として必要なこと、そのほか色々なことが学べる成人学校に行かせているんだ。バルドもまだ若い。今からしっかり勉強しても、まだ間に合うだろうからね。」
「学校…」
学校と聞いて元の世界の高校を思い出した。友達は乃愛と瑠璃香くらいしかいなかったが、楽しい毎日を過ごしていた。この世界に飛ばされたのは乃愛の誕生日が過ぎてからだったな…誕生会楽しかったなぁ…
物思いにふけっていると使用人がお菓子と飲み物を出してくれた。使用人…?いや、メイドだ。ケモ耳メイドだった。あれは狐耳だ。尻尾もふさふさしている。もふもふしたい。
「そうだ、君たちは転生者だったね。どうだい、獣人族の、人にはない耳や尻尾は。触ってみたくないかい?」
「「はい!!!!」」
私と瑠璃香が勢いよく立ち上がった。
提案したゴルド子爵が目を白黒させている
「そ、そこまで反応されるとは思わなかったよ…」
「の、のあもいちおうさわる…」
乃愛も私たちの勢いにのまれたように、控えめに手を挙げた。
マリナはまだ寝ている。
ゴルド子爵は先程の狐耳メイドと、犬耳とリス耳のメイドを呼び出した。全員かわいい。お持ち帰りしたい。
「女の子同士だから大丈夫だとは思うけど、あまりデリケートな所をいじってはダメだよ?」
ゴルド子爵から注意が入る。私の興奮度合いに忠告したくなったのだろうか。まぁそんなものは知らない。
私は狐耳、瑠璃香はリス耳、乃愛は犬耳をもふもふし始める。
触った瞬間、私の頭に衝撃が走った。柔らかさ、触り心地ほのかな温かさ、触る場所によってピクッピクッと反応する尻尾と耳。その全てが私の興奮ゲージをあげていく。
隣を見ると、瑠璃香もひどい表情をしていた。乃愛は、触っていると言うより抱きしめて頬ずりしている。枕にでもする気だろうか。
引きつった顔のゴルド子爵が「も、もう終わりにしようか!」と制止しにくるまで、私たちはケモ耳尻尾を堪能した。
ケモ耳メイドたちは、顔を赤らめながら下がっていった。
「その…なんだ。あの子達の仕事に支障が出るかもしれないから、次はもう少し手を抜いてくれるとありがたい…」
ゴルド子爵は苦笑いだ。それもそうだろう、乃愛は抱きついたままうつらうつらし始め、瑠璃香は「踏んでください!」とか言い始めて踏んでもらっていたし、私は尻尾や耳のどこが感度がいいかを探して、そこを的確に触っていったのだ。彼女たちは精神的にも肉体的にもだいぶ疲労が溜まったと思う。私たちはだいぶ回復した。
「ありがとうございます。堪能しました。」
「喜んでもらえたなら何よりだけど…ね。」
「それで、今日はこのために招いてくれたんですか?」
ゴルド子爵は私の言葉に慌てたように首を振る。
「いやいや、いまのは私の気分で提案したことだよ。本題は冒険者ギルドについてのことだ。冒険者ギルドは運良く私の領地にある。私が君たちを紹介すれば、あまりほかの冒険者に絡まれずに済むからそうしようかと思ってね。」
「そうです、この国の人の立場ってどうなってるんですか?なんか差別的な絡まれ方を入口でも道中でもしたんですけど…」
私の言葉に、ゴルド子爵は眉をひそめた。
「私としては能力の強弱で立場や関わり方を変えるのはよくないと思うのだが…。まぁ、簡単に言えば我々獣人族は生まれ持った身体能力があるから、そういったものが無い君たち人族を見下している所があるのだ。それがもう国中に蔓延しているから、皆君たちのことを見下している。」
なるほど、先程の女性が言っていた「ノーマル」というのは蔑称だったわけだな。嫌な国だな。
「嫌な国だと思うかもしれないが、それは今までの教育がしてきたもので、人としての心は優しいものばかりなのだ。どうか許して欲しい。」
ゴルド子爵は軽く頭を下げた。
「頭下げないでください!むしろゴルドさんはどうして私たちに偏見がないんですか?」
「私は君たちが強いのを知っているし、何より…おい、呼んできてくれ」
ゴルド子爵が使用人に声をかけると、使用人が外に出ていき、一人の女性を連れてきた。その人は…
「ケモ耳が…ない…!?」
「そうだ。紹介しよう。妻のユリネだ。お察しの通り、人族だ。」
「皆さん、息子がご迷惑をおかけしました。バルドの母、ゴルドの妻のユリネです。私はドリス王国出身なんですよ?」
ユリネはかなり綺麗な女性だった。
「そういうことですか。」
「あぁ。そういう事だ。ユリネの種族を間違っても見下すなんてできないし、したくもない。」
ユリネのことを話すゴルド子爵の表情は真剣そのものだ。強く愛していることが伺える。
「安心しました。もしかしたら騙されてるんじゃないかと思うこともあったので…」
「ちょっと唯香!?私がちゃんと読心で見たでしょ!?なんで信用しないの!?」
「だって瑠璃香じゃない。」
「ひどい!」
夫妻は急に漫才を始めた私たちを見て少し笑っていた。
「まぁ瑠璃香のことはいいのよ。それでゴルドさん。冒険者ギルドの件ですけど、口利き話でいいです。私たちは冒険者を仕事とするんですから、就職にコネを使うのはフェアに思えないので。」
「そうか?だが、面倒だと思うぞ?」
「それも含めて冒険者という職業じゃないですか。」
「そうか…だが、少しは手助けさせてくれ。私は君たちに少しくらいは施しを与えたいのだ。せめてこの街にいる間は…ね。」
「それじゃ、たまにここにこさせてもらっていいですか?け、ケモ耳を触らせてもらいたくて…」
顔を赤らめながら言う私にゴルド子爵は笑いながら頷いた。
「それくらいお安い御用だ。それだけじゃなく、冒険の話も聞かせてくれると嬉しいよ。いや、それなら…ユイカちゃん、今日の寝床はもう決まっているかい?決まっていないなら、この街にいる間はここに泊まって行って欲しいんだが…」
「いいんですか!?ぜひ!」
私だけでなく、乃愛と瑠璃香も立ち上がった。
「ありがとう。泊まるついでにユリネとも話してくれないか?ここ数年ユリネは人族と話せていないんだ。国の話を聞かせてやってほしい。」
こうして話はまとまり、日が落ちていることもあってギルドは明日にして、夕食をご馳走になることになった。料理はユリネが作るらしく、話しているあいだずっと寝ていたマリナを起こしてユリネの補助をさせた。
肉をメインにした野性味の溢れる料理が、ゴルド子爵の前に運ばれ、私たちの前には肉メインだが食べやすく煮込まれた料理が出てきた。
マリナは「あたらしいちょうりほうをみた…!」と少し感動を覚えているようだった。
食事のあとはユリネとドリス王国のことをたくさん話し、ついでに私たちのことまで話して驚かせた。
こうしてバサラ獣王国入国一日目は、嫌なことは少ないまま柔らかいベッドで乃愛に包まれながら終わることが出来た。




