37:二つ目の国
日がかげってきた。
まだ草原は続いており、国らしきものは見えない。
乃愛の遠隔感覚ではもう見えているようだが、如何せん魔法に慣れていないので正確な距離は言葉で示しづらいらしい。
「そろそろ野宿の準備しましょうか。」
「「はーい」」
乃愛と瑠璃香が返事をして、キャンプ用の道具を道の脇に広げ始める。
マリナは無言で調理の準備に取り掛かる。
私は念の為周囲を警戒しつつ、テントや寝袋など必要なものをポンポン出していく。
それらの準備が終われば、狩りの時間だ。
草原ではあるが、近くに綺麗な川があるため魚や、魚を取りに来た獣を狩ることが出来る。獣は魔物と違って柔らかくて美味しい肉が手に入るので、この環境は素晴らしいと思う。
私が留守番としてキャンプ地に陣取り、3人はそれぞれの武器をもって川の方へ向かう。猫目でなんとなく見える姿は多分熊だろう。三体もいる。群れている様子はないが、三体とも近くにまとまっているようだ。
乃愛が隠密を駆使して一番大きい熊の後ろに忍び寄った。そのまま注射器を指して一気に血を吸い取った。
血抜きも狩りもできる一石二鳥の攻撃だ。ほかの二体は音もなく殺された一体に気づいていないようで特に特別な行動はとっていない。
拳銃組が息をついて体をリラックスさせた。抜き打ちの準備だろう。別にこうする必要は無いが、瑠璃香によると、「私はこの方が精度が高いの!」ということらしい。
弟子のマリナはその教えを忠実に守っているということだろう。
ドパン!
猛烈な早さで同時に行われた抜き打ちは、完全に音が重なって一発の銃声にしか聞こえなかった。残った二体の熊は、頭から血を流して同時に倒れた。
ここで熊を三体も狩れたのは嬉しい誤算だ。しばらくは熊だけでなんとかなる。
銃で倒した二体も乃愛が血抜きしてアイテムに入れて持って帰ってきた。
これをうまく調理するなんて私たちにはできないが、マリナは魔法のように完璧な料理を作り上げてくれる。
食事も大切にしたい私にとって、マリナは本当に必要不可欠な存在だ。かわいいし。
そんなこんなで今日の夕食の準備も整った。
熊肉のバター焼きだ。ドリス王国から持ってきた野菜も添えてあるし、ご飯もある。
「「「「いただきます」」」」
四人で声を揃えて食べ始める。
めちゃくちゃうまい。グルメリポーターみたいなコメントは出来ないが、めちゃくちゃうまい。まだ確かにシノの方がうまく味を引き出せるだろうとは思うが、これでも十分に美味しくできている。
みんなの顔を見てもハッキリわかる。これは美味だと。
作った本人も幸せそうな表情を浮かべている。
やはり食事の時間がこうして幸せにすぎていくと、マリナが料理出来る子で良かったとおもう。
食事のあとは全員で片付け、テントの中で体を綺麗に拭きあったらすぐに寝る。暗くて動きづらい夜中に行動するのは、たとえスキルで見えていたとしても少々面倒だ。その代わり、朝は日の出とともに動き始める。電気のない時代の生活が理想だ。
このような生活で歩くこと3日、ついに国の壁が見えてきた。正直、出てきた魔物はほぼスライム、たまに熊の魔物。食料は持ってきた野菜類と米と狩った熊や猪の肉。たった3日ではあるが代わり映えしない景色に飽き飽きしていたのだ。北の森のような魔物が多い場所もなく、みんな口数が少なくなっていた。一言で言ってしまうと、既に飽きていた。
「よぉぉぉ〜やくとうちゃくかぁ〜…」
乃愛が溜息をつきながら呟く。
「ここまで変わり映えしないと辛いわね…」
「ほんとだよ…マリナちゃん昨日あたりからご飯時以外ほとんど寝てるし…」
多少忍耐力がある私たちでさえ嫌になったのだ、マリナからしたらつまらなさが天元突破していたことだろう。その証拠に睡眠時間が昨日今日で24時間をゆうに超えている。
逆にここまで寝られるのもすごいと思うのだけど…
「さぁあともうひと踏ん張りよ。頑張って国にたどり着きましょう。」
見えてきたのが夕方ということもあり、少しスピードをあげて日が落ちる前に国を囲む壁にある門にたどり着いた。
「ようこそバサラ獣王国へ…ってノーマルか…何の用だ」
私たちがケモ耳のようなものをひとつも付けていないのを見た門番の男は急に態度を変えた。
「入国しに来ました。」
「はぁ?何のためにだよ。もしかして、ただの人間の分際で戦闘大会にでも出るって言うのか?はっはっはっ、そいつァ傑作だ!せいぜい足掻くといいや!ま、結果は見えてるけどなぁ!」
男が笑い出すと、反対にいた男も「やめろって!可愛そうだろ!」とか言いながら大笑いし始めた。実に腹が立つ。だが私は大人の対応をする。もちろん冒険者となる上で嫌な評判は受けたくない。
「戦闘大会というのには出場しません。ですが、冒険者ギルドで冒険者の登録をするためにここに来たので、入国したいのですが?」
男はニヤニヤしながら「それぞれ金貨2枚だ」と手を出した
私が先頭にいるため後ろの3人がどんな顔をしているかわからないが、乃愛も瑠璃香も相当我慢しているだろうな。マリナは多分寝てる。
金貨2枚を4人分、金貨8枚だ。日本円にして80万円。普通なら払えないし、払えても手痛い出費となっただろう。だが、魔物を殺し続けてきた私たちの懐事情はすごい。
私は
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所持金 銀貨4352枚
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乃愛は
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所持金 銀貨3681枚
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瑠璃香は
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所持金 銀貨4011枚
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マリナは
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所持金 銀貨364枚
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これだけ持っているのだ。全部合わせたら1000万以上である。金持ちと言えるだろう。
一番立場的に大変なマリナですら30万円分銀貨を持っているのだから、ここで払うのは何も痛くない。
「銀貨でごめんなさいね。」
と言いつつ、私は彼の手に800枚銀貨を置いた。
「んなっ…!?」
門番が驚いているが、まさか出せないと思ったからふっかけた、なんてことは無いだろう。そんなのは仕事が悪すぎるぞ?
「おい…」
反対側にいた男が門番を呼び小声でなにかを伝えると、門番は少し焦った顔で訪ねてきた。
「も、もしかして、篠宮唯香さん御一行で…?」
「え、ええ、そうですけど、何故それを…?」
私の問いには答えず、門番は土下座を敢行した。反対側にいた男もだ。
「申し訳ありません!知らなかったとはいえ嫌なことばかり…!お許しください!」
そんなことを言われた私たちは、この態度の豹変ぶりに動揺を隠せない。
「えっ、いやあの、どうゆうこと…?」
「実はゴルド子爵様から、『女の子だけの人間のパーティーが来たら多分私のお客様だから追い返したりしないこと。嫌がらせして相手が嫌な思いでもしたら、どうなるか分かってるね?ちなみに名前は篠宮唯香さん。それとほか何人かだから。よろしく』というふうに伺っておりまして…」
なるほど、あの子爵の仕業か。
「わかったわ。まぁ、私はいいけど後ろの三人がどう感じるかは知らないから、あなた達の処分は子爵とこの子達次第よ?」
「ははーっ!」
土下座が止まらない。少し視線を集めてしまうか…?とも思ったが門は閉められているので安心だった。
「じゃ、入るけど文句ないわよね?後できたら案内もお願いしたいのだけれど。」
「もちろんでございます!お金も返却させていただきます!」
こうして無銭でバサラ獣王国に入ることが出来た。しかも案内までしてもらえる。
面倒がなくていいわね。
私たちはのんびりと歩きながらゴルド子爵の屋敷へと歩いていった。




