34:ドリス王国での活動終了
「王様。王族は、この国の王族は、滅んでいませんでした。」
真剣な表情で言うダニエル。王様は目を見開いていた。
「詳しく、頼むよ。」
「はい。まず、王家の生き残りはここにいる、カリナ・ドリス様です。」
ダニエルが手でカリナを指し示しながら言い、カリナが軽く頭を下げる。
「彼女は奴隷としてこの4年間各国を回っていました。幸運なことに、王家だと悟られぬまま4年間売れ残り、成長してきました。そして前日、ユイカさんによって買い取られ、私の解呪によりハッキリと王家であることがわかったのです…」
ダニエルはところどころ端折りながらカリナが王家であることを説明する。王は真剣な表情で1度も止めることなく話を聞いていた。
「…そういうわけで、彼女には王家としてこの場にやってきて頂いたのです。」
ダニエルが話し終わると王は顔を伏せ、黙り込んだ。
「なにか、不備や不満な点がありましたか…?」
ダニエルが声をかけるが、反応はない。
しばらく沈黙が支配したあと、王は急に顔を上げて立ち上がった。
「王様…?」
「考えたんだ。この事実を知らされた僕は、どう行動するのが正解なのか。王家が生きているという事実は、つまり王家の人間が王とならなければならないという事実だ。弱冠16歳の少女に、国王は重すぎはしないか?僕が16の時、国王をやれなどと言われたら間違いなく断っていただろう。4年前は既に23歳。優秀な宰相達と、僕のスキルがあれば行けると思える年だった。…カリナ様。あなたはどうしようと思っているのですか?あなたが国王になると言うなら僕はその言葉に従い、国王をやめてあなたに席を譲りましょう。ですが、背負うものは大きい。国という責任を負わされるのです。それでもあなたは国王となり、国を支えられますか?国民のために務められますか?」
誰かの言葉を挟ませることなく、王は言い切った。
真剣な表情でカリナに問いかける王は、カリナの目をしっかり見てそらさない。
一方のカリナも真剣な表情で王を見つめる。
しばらく見つめあったあと、カリナは静かに目を閉じた。
「私は誇り高き王家の人間です。そして私の家族、あの時生きていた王家の全員から信頼された人間なのです。その信頼を裏切るような、その誇りを捨てるような、そんな無責任な選択はしません。私はこの国の王となり、国民の幸せを支え、生きていくことを誓いましょう。」
カリナは、胸を張って答えた。
王はその答えを聞いて、ため息をつき、再び顔を伏せた。
そして今度はすぐに顔を上げて、笑顔を見せた。
「素晴らしいお覚悟だと、僕は思いました。それでは明日、新国王の戴冠式を行いましょう。こういうことは早い方がいいでしょうし、僕が呼びかければすぐに人は集まるでしょう。そして、私はまたただの一般人に逆戻りです。王として国民のことを考えるのも良かったですが、責任がない分、こっちの方がいいかもしれませんね。」
彼が見せた笑顔は少し寂しそうなものだった。責任感のある立場で国民のことを思う仕事は、大変でも充実したものだったのかもしれない。カリナもそう感じたのだろう、王にひとつの提案をした。
「王様。ひとつ提案があります。」
「…何でしょうか?」
「私と一緒に、この国のこと、国民のことを考えてくれませんか?」
「…え?」
予想だにしなかったであろう提案に王は固まった。
「私にいろんな意見をして欲しいんです。王家で、政治スキルがあっても、その実態はただの16歳の女子。こんなものでは威厳も信頼もありません。しかも、王家の生き残りなんて話、私の口からいくら説明しても信じてもらえません。初手詰みなんですよ、私だけだと。でも、あなたのそのスキルなら、国民は信じてくれるでしょう。私が国王になるには、あなたの力が必要なんです!どうか、一緒に、戦ってくれませんか?」
王は動揺している。口をぱくぱくさせて、なにか話そうとして失敗しているように見える。
「ダメでしょうか…?」
カリナが上目遣いで王を見る。胸元に両手を当て、眉をひそめて目をうるませて、だ。こんなの誰に教わったのか。
「わっ、わかりました!分かりましたからその目はやめてください!こんなの…かわいすぎて…反則です…。」
王は顔を真っ赤にして逸らしてしまった。かわいすぎての部分を小さな声で言ったが、私には聞こえた。
これは、落ちたな…。
そう思ってカリナを見ると、カリナも顔を真っ赤にしていた。私に聞こえたのだ、カリナにも聞こえただろう。これはフラグが立ったかもしれない。
「とっ、とにかく、私と一緒に戦ってくれるんですね!?それで宜しいですか!?」
カリナが照れを隠すように声を上げる。
「は、はい!大丈夫です!必ず、新たな王の役に立ってみせますよ!」
顔を赤らめた王が握りこぶしを作って立ち上がった。
「それでは、よろしくお願いしますね、王様!」
「そういえば、王様の名前聞いてないわね…」
私がつぶやくと、みんなはっとして私の方を見た。
「そういえば…聞いていなかったですね…」
カリナが少し衝撃的だと言うような表情になる。
王は頭を掻きながら苦笑いしている。
「今更、ではありますが、僕の名前はハンニバル・ドリス。まぁ、戴冠式が終わればただのハンニバルに戻りますがね。」
このあと、2人とダニエルは城で明日の戴冠式の打ち合わせを行うため、王の自室に向かった。私たちはお役御免だ。3人はそのまま城で夜を過ごすらしい。
そして私たちが外に出て、ゲストについた頃には、明日の戴冠式の話が伝えられていた。
「おかえり。戴冠式は私たち関係者席で見れる見たいだよ?新国王の誕生をまじかで見られるなんて、ちょっとお得な感じだね!」
と、シノが言うように、私たち転生者組(シノ含む)とマリナは関係者席での観覧を許可された。むしろそうしてくれ、と頼まれた。カリナがお世話になった人に近くにいてほしいと思っているからだそうだ。そこまでお世話したかな?という感じではあるが、無下に断るのも良くない。ありがたいことでもあるので近くで見させてもらうことにした。
翌朝、私たちはいつものように目を覚まし、朝食を食べ、いつもとは違う服に着替えた。とはいえいつもと違うのはマリナとシノだけだ。私が城にいっているあいだに服を買いに行ったらしい。そこで正装も買ったのがマリナとシノだけだったのだ。正装に一番近い装いが、私たちの場合制服だったので着替える必要がなかった。
ちなみにゴルドたちバサラ獣王国組は、朝食を食べたあと国に帰っていった。
城は今までにない飾り付けが行われていた。シンプルだった入口も、シンプルだった廊下も、シンプルだった広間も、全てがキラキラ輝く装飾品で埋め尽くされ、一新していた。
戴冠式は広間で行われ、新しく王家のティアラを頭につけたカリナは、その綺麗な青いドレスとも相まってとても綺麗に見えた。ティアラを頭につけたハンニバルが、その全体像を見て固まってしまうくらいには綺麗だった。ダニエルも正装をして、帯刀しつつ、しっかりとカリナの姿を見て涙を流していた。
ダニエルは、実はカリナが小さい頃に家庭教師として2年ほど教えた経験があったそうだ。そんな頃から知っていたカリナが、こんな姿を見せれば涙があふれるのもわかる。
戴冠式は、邪魔が入ることなく無事終了した。
◇
それから三週間と二日後。
その日の昼、私、乃愛、瑠璃香、マリナの4人は、大きな冒険者ギルドがある、バサラ獣王国に向かうために準備をしていた。
今日は、ついにドリス王国を旅立つ日だ。
国王が変わってから、国の様子は少しずつ変わってきた。
国民に余裕と笑顔が生まれてきたのだ。カリナとハンニバルがが頑張っている証拠だ。最初この国に入ってきた南門から、新しい旅は始まる。そこには、この1ヶ月でお世話になった多くの人、そして、王となったカリナやハンニバル、ダニエルの姿もあった。
「来てくれたのは嬉しいけど、あなた達、来て大丈夫なの?仕事は?」
「ええ、今日すべきことはしっかり半分終わらせてきました。残りはお昼のあとです!」
「そうだ、全く問題ない。」
「それならいいわ。…本当にお世話になったわね。」
少し寂しくも感じる。一ヶ月生活してきて、この国の国民のこころの温かさは身にしみて感じてきた。ここに骨を埋めたくなるほどだ。だが、それではつまらない。もっといろんな世界を見たい。そのために力もつけてきた。きっともう何があっても問題ないだろう。
私はもう一度持ち物を確認し、メンバーの顔を見て準備が終わったことを確認した。そして、先程から泣き崩れているシノのところに歩み寄る。
「ぐすっ…うっ…ううぅぅ…ひっく…」
「シノ、今までありがと。また戻ってくるから、泣かないで待っていて?」
「うっ…うぅ…でも…ひっく…寂しいよぉ…」
「…ごめんね…でも、私たちはもっと世界を見たいの。旅をするのに、あなたの店がここに無くなったなって聞いたら、ショックで何も出来なくなっちゃうかもしれないし、この国に帰ろうと思わなくなっちゃうかもしれないわ。あなたが、あなたの店を守っている限り、私はあなたの店に帰ってくるわ。」
「…うん…。」
「それに、スマホ渡したでしょ?本当に寂しくなった時は、電話してきてもいいわ。基本的にはなにか緊急の用事がある時だけにしてほしいけれど、あなたが寂しくて辛い時っていうのは緊急の用事として扱うわ。」
そう、緊急の連絡用に瑠璃香がスマホを作り、シノに渡した。オレンジ色のケースに入れてある、私たちと同じ機種のものだ。
「ありがとう、唯香ちゃん…」
涙で顔を歪ませながらも、シノが必死で笑顔を作ろうとする。そんな様子を見ていられなくて、私は力強くシノをハグした。
「シノ。本当にありがとう。しばらくは離れるけど、私たちの仲は絶対に切れることはないわ。だから安心して。」
「…うん!私こそありがとう…!」
私はシノから離れ、立ち上がった。
「それじゃ、私たちは行ってきます。また、旅の途中でこの国に戻ってきます!その日までお元気で!」
私の声に、集まってくれたみんなが各々に声をかけてくれる。
正直聞き取れないが、それでもみんなが私たちを思ってくれていることは伝わった。
私は踵を返し、言った。
「行ってきます!」
こうして、私たちの新しい冒険は始まったのだった。
これにて1章完です!
これから唯香達四人で冒険する、第2章を進めていきたいと思います!
ここで話の区切りです。ここまで読んで少しでも良いと思ったり、応援したいと思ったりしてくれた人はぜひ評価や感想、ブックマーク等お願いします!




