22:篠宮のお話
乃愛がおいしそうに食べる姿は屈強な男達だけでなく、女性や子供たちにも大きな影響を与えたらしい。いつもより1.2倍は客が押し寄せ、増えた多くが女性か子供連れの客であった。女性も子供もあまり使える金もないだろうに…
食欲には勝てないのだろうか。
閉店時間ギリギリまで客が入ってきたため、片付けにもかなり時間がかかってしまった。
そして2時半をすぎた頃、一人の男が来店してきた。
「邪魔するぞ」
「じゃまするならかえって。」
国家騎士団第三部隊隊長のダニエルだ。入ってきた瞬間に乃愛に口撃されているが、本人は気にした様子もなくこちらへ向かってくる。普通の男ならば乃愛の顔を見るだけで鼻の下を伸ばすのだが、この男は全くそういった様子が見られない。
なかなか堅気な男なのか、単にそっち系なのか。まぁどうでもいい話ではある。
「ごめんなさいね、もう少し片付けがあるから、そこの席に座っててくれます?」
「ああ、わかった。あとこいつは席を外してもらえないか?話そうとするたびに私にくってかかりそうだ。」
「なにを!おまえがゆいかにちょっかいをだすから────」
「分かったわ。乃愛、私たちが話しているあいだは上で奴隷の子達と仲良くなっときなさい。特にマリナね。あの子はあなたが気に入った子なんだから、怖がらせたりしないようにね?」
「むぅ…わかった…」
乃愛は不満そうにしながらも2階へ向かった。
私は片付けを終えるとダニエルが座っている席の向かいに腰をかけた。
そしてシノに作ってもらったペペロンチーノを机に置く
「それで、聞きたいことというのは?あ、食べながらで失礼します」
「お、おう…まさか食事されながら話すことになるとは思わなかったぞ…」
「ごめんなさいね、まだ食べられてないものだから。腹が減っては戦ができぬ、とも言うし」
そう言うと、ダニエルは急にハッとした表情になり、私を見つめてきた。
「え、なんです?」
声をかけるとまたハッとして顔を俯けた
「す、済まない。思い出してしまってな…これから話すことに関係…というかその中心の人物の事なんだが…」
「へぇ。諺に反応したってことは、その話は転生者のことですか?」
「あぁ、そうだ。君は転生者。それは確かだな?そして本名の苗字は篠宮。結婚とかもしていないな?」
「その質問全部にはいと答えましょう」
「では、君のおじいさんはご存命かな?」
「おじいちゃん?片方は生きてますよ。」
「名前は?」
「富沢梅男。芸能人みたいな名前でよくからかわれてますね。」
「富沢…?梅男という名前はあっているが…」
「あ、ちなみに離婚して苗字変わってます。婿養子なので。」
「ならば、篠宮梅男という名前の時期はあったのだな?」
「ええ。一時期行方不明になって、帰ってきてすぐ離婚したからそれまでは…ってあなたがその名前を知ってるってことはまさか」
「あぁ。彼は一時的ではあるがこの世界に転生していた。」
「はぁ!?な、なんで!?何しに!?」
「彼は世界を救いに来た、と言っていた。実際彼はかなり強くてな…見た目はどう見てもおじいさんで、ステータスを見せてもらったこともあったが73歳と、確実に戦える年ではなかった。だがな、スキルと各能力値はレベル1にも関わらず全て伝説で語られる、レベル1000にまで行った英雄、ゲロイと遜色ない数値を示していた。そして、我々人間を蝕んでいた魔王とその配下、魔族の侵攻をたった一人で止め、魔王を討ち滅ぼした。」
私は空いた口がふさがらなかった。チートとか言うレベルじゃない。これは完全にゲームバランスの崩壊だ。まぁゲームではないのだろうが、おじいちゃんという存在で、世界がバランスを崩している。
そんな私を知ってか知らずか、シノが片付けを終えこちらに来て近くの席に座った。しっかり話は聞こえていたようで、少しびっくりした顔をしている。。
「彼はそのあと、私たちに直接の別れの言葉もないままに消えていってしまった。私は運良く彼と仲良くなってな。一緒に酒を飲むことも良くあった。彼が別の世界の人間だと聞いた時は驚いたよ。その頃は転生者なんていた記録がなくてな。私の知る限りでは彼が最初で最強の転生者だ。彼が帰ってからだな、転生者が月に2人くらい来るようになったのは。彼らは皆若く、異世界転生というものに憧れを持っていたのか、特別な能力をもたずに生まれたにも関わらず、なんの訓練もせずに冒険者になって戦いに向かっていたよ。止めても聞かない、その時は止まっても夜ぬけだしていつの間にかやられてる。そんなことも良くあった。今知ってる中で転生者は君たち2人とノアさんだけだ。」
「ほかの人達はみんな冒険者に…?」
シノが口を挟む。
「ああ。シノさんみたいに生活しようなんて誰も思っていないようだったよ。多くがこの国を出て、冒険者になった。そして消息は不明。ほぼ全員死んでいるだろうな、装備も訓練もろくにせず、準備不足のままこれで大丈夫などとほざいておった。ある人のステータスを見たことがあったが、一般人レベルだ。ひょっとしたらレベル1の私より弱かったかもしれん。」
「そうだったんですね…」
「シノさんが冒険者になると言わなかった最初の転生者でな。料理がしたいと言い始めた時はびっくりしたな。こんな転生者もいるのか…とね。」
「ま、まぁ私、料理好きだったから…」
シノは少し照れながら返した。
「さて、そこでだ。ユイカさん。そしてノアさんの二人はいったい何のためにこの世界に来た?多くの転生者は知らないとか、死んだから転生したんだ!とか言っておったが君たちは強い。なにか、理由があってこの世界に来たんじゃないかね?」
真剣な眼差しで私を見つめてくる。
私も真剣な顔で見つめ返し、答える。
「私たちはこの世界を救えと言われました。でも、神様に問答無用で連れてこられたので、できる限りこの世界を楽しんでからやろうと思ってます。あと、もう一人転生者来てます。今上で寝てますけど。私たち3人は神に召喚された勇者…らしいです。」
軽く知っていることを話す。
「そ、そうなのか…しかし、世界は安定しているし、魔王も復活には100年はかかるはず…なんの目的でこんな時期にこんな強い転生者を…?」
「そうですね…もしかして」
話を続けようとした途端世界が止まった。音もしない。視界に入るすべてが微動だにしない。私も動けなくなっている。まるで時間が止まったようだった。
一瞬、私の視界がブラックアウトして、次の瞬間には神界にいた。
「おっ、呼べたよベた。唯香ちゃんおつかれさま〜」
またあなたか…神って何でもできそうね…
「まあ神様だからね〜基本なんでもできるよ〜できないこともあるけど…」
それで今回はなんの用?
「や〜、世界を救うっていう具体的な説明をし忘れてたな〜って思って。じつはね、4年前に倒された魔王だけど、色々あって復活しそうなんだ。そいつを止めるか復活したあと殺せばおしまい、世界は平和、ってわけ。」
あ、そ。わかったわかった。
ところでおじいちゃん転生させてたの?なんでおじいちゃん?
「あー、まぁ神が転生させたのはそうなんだけどね、僕の親が神の時代の転生だから僕はわかんないんだよねぇ…僕、神様になってまだ4年くらいだし。」
神に親とかあるんだ…
「そういうもんだよ。神生長いから大変だけど、あと9996年くらい頑張らなきゃな〜」
それはどうでもいい。もういいわ。早く帰して。
「ごめんて。じゃ、世界の救済おねがいね☆」
神の似合わないウインクを見たと思った次の瞬間には元の場所に戻っていた。




