20:三人目の購入
翌朝。
いつもどおり乃愛にくすぐり攻撃をしかけ、くんずほぐれつしながら目を覚ます。
「二人が揃うと毎日そうやって起きるんだね…」
シノが呆れたように苦笑いを浮かべて私たちの部屋に来た。
「おはようシノ。なにか文句でもあるかしら?」
「おは〜♪」
「いや、文句じゃないんだけどね、仲いいなぁって思ってさ。」
「当たり前でしょう?何を言っているの?」
「?」
私たちから本気で「何いってんの?」という目線を受け、たじろいだのかシノは顔を引き攣らせて下に降りていった。
「さてと、乃愛。今日は瑠璃香を買うわよ!」
「いえす!まむ!るりかをかうってなんかへんなひびきだね!」
「なんか悪いことしてるみたいね。」
私たちは笑い合いながら下におり、朝食をとるのだった。
朝食を終え、私と乃愛は二人で外に出た。
奴隷商人がこの国のどこかにいるはずで、さらに言えば私たちとの商売のためにこの近くにいるはずなのだ。だが、相手は馬車であり、移動しながらの商売をしているのだから、どこかに行けば会えるということではない。
ここで便利になってくるのが元の世界で使っていたセンサーだ。
指定したセンサーに電波を送ることで自分のセンサーに反応が来て、どこに相手のセンサーがあるのかがわかる。元の世界ではほとんど役に立たなかったが、この世界はGPSやスマホなどないのでとても有効なのである。
センサーを起動させると、早速反応が帰ってきた。
が、かなり弱い反応だ。遠くにいるらしい。
「おかしいわね…?商談でもしてるのかしら…?」
とりあえず反応している北の方向に向かうことにした。
軽く流しながら走っていたものの、反応している方向は変わらず、奴隷商人の馬車も見えないまま国の果てについてしまった。つまりは北門である。反応は北門の外、北の森の中から来ているようだ。
「門番さん、最近、馬車が通らなかった?」
北門の門番に聞いてみるが、彼は先程シフトを交代したばかりらしく、人が来たのも交代してからは私たちが初めてらしい。
代わる前の門番は騎士団の命とやらで北の森に向かったという。
「どうもおかしいわね…ただでさえ危険な北の森にわざわざ騎士団が門番なんかを一人で行かせるなんて…」
「ん〜、このひとじゃないもんばんのひと、うそついてるきがする〜…」
「やっぱり?それに奴隷商人がわざわざ北の森に行くのも不思議よね…とりあえず、はやく瑠璃香のところに行きましょうか」
考えても仕方ない。反応は最初より強くなっているのは確かだ。北の森を進めば奴隷商人にも瑠璃香にも合流することが出来るだろう。私たちは北門を抜け、暗い北の森に突入していった。
◇
気がついたのは、聴覚と嗅覚に敏感な乃愛が先だった。
「ん、ちのにおい!まものがあばれるおと!」
「本当!?急ぐわよ!」
私たちはさらにスピードをあげて走る。
そのうちに私にも匂いや音がわかるようになってきた。だがどうも変だ。ここでは見たことがない拳銃の音が聞こえる。
「るりかがじゅうもってきたのかな〜?」
走りながら乃愛が呟く。可能性としてはそれが一番高いだろう。
私たちがたどり着いた時、そこにはたくさんのラプトルとゴブリンが倒れ伏し、血で赤く染まった草木に馬車。馬は殺されているが奴隷商人や奴隷は皆無事なようだ。そして瑠璃香と一人の武装した男が対峙していた。
「君が魔物を全部倒しちゃうから僕の計画がめちゃくちゃだよ!しかも無傷でほかの奴隷まで助けるし!隠れてた僕まで見つけるし!そんな奴隷がいるなんて聞いてないよ!」
「え、あの、ごめんなさい…でもあなたがそのまま隠れてたらそこの恐竜みたいなのにパックンされてたし、私だって死にたくないから戦うし…私としてはコレが今回のベストエンドだと思ってたんだけど…」
「うるさい!もういい!お前ら全員殺せば解決だろ!」
男は叫ぶと、腰元の鞘から剣を抜いて構えた。
それをみて乃愛が飛び出そうになるが、私は乃愛の襟を掴んで止めた。
乃愛が講義の目を向ける
「瑠璃香なら大丈夫よ。一人でこれだけの魔物を倒せるならあんな男敵じゃないわ。」
私の言葉と同時に、男は動き始めた。スキルとして剣技を持っているのだろう、少しぎこちなさもあるが綺麗な形で瑠璃香に剣を叩き込んでいく。
瑠璃香はその剣に銃身を触れさせ、剣の進む方向をずらし、空振らせた。
「ぐっ!このっ!」
男は、瑠璃香の左側に受け流された剣を下から斜めに切り上げる。瑠璃香はそれをスっとしゃがむだけでかわしてみせた。
「多分私とあなたじゃだいぶ力の差があるからもうやめた方が…」
「うるさい!これでも食らって死にやがれ!」
男は後ろに下がって剣を片手に持ち替え、手榴弾のような小さく丸い物体を投げつけてきた。
「それはいけませんっ!」
瑠璃香は投げられたと同時に叫びつつ、銃を構えて撃った。
男と瑠璃香の真ん中付近で銃に撃ち抜かれた手榴弾は、その場で爆発した。
私たちの方に衝撃は来なかったので、そこまで強力な爆弾ではなかったのだろう。煙が晴れた時、元の場所に瑠璃香の姿はなく、地面に倒れふした男を足で踏みつけていた。
「うわ〜、るりかめっちゃおこってるね〜」
「まぁ、あれ半分自爆だしね。殺し屋なのに命を大切にしない人間に説教する人間だもん、あんな事されたら怒るわよね。」
ほかの奴隷達は遠くにいたため怪我はないようだった。
「商人さーん、縄ありますかー?縛っときたいんですけどー!」
「あ、ああ!す、少し待っていなさい!」
瑠璃香が奴隷商人に声をかけ、商人は丈夫そうな麻縄を持って瑠璃香の方に走っていった。
そのあいだ、瑠璃香は男を何度も踏みつけ、ブツブツ小言をこぼしていたようだ。男の目が恐怖に歪んでいる。
商人から麻縄を受け取った瑠璃香は男の両手を後ろ手にきつく縛り上げ、無理やり立たせてそのまま馬車の中に連れていった。
その中で何が行われたのかは分からないが5分ほど待つと、瑠璃香だけが出てきた。スッキリした顔をしている。
そしてこのタイミングで私たちに気づいたようだ。完全に目が合い、手を振りながらかけてきた。
「唯香ー!乃愛ー!来てくれたんだねー!」
私たちは前に進み出て抱きつこうと手を広げて迫ってくる瑠璃香をかわし、商人のところに歩み寄った。
「えっ!なんで!ひどいよー!」
瑠璃香は無視して商人に話しかける
「大丈夫ですか?」
「え、ええ…あなたたちは…あ、一昨日のお取り置きのお客様ですね。いやぁお客様のお友達が居てくれて助かりましたよ…」
「それは良かったです。とりあえず奴隷買いに来たんですけど、ここで買うわけにも行かないですし、帰りましょう。馬車、馬が殺されちゃってるし、瑠璃香が引いてくれるので。」
「え!?私が引いてくの!?」
「できるでしょう?」
「出来るけど!できるけど私が引かなきゃダメ!?」
「奴隷の中であなたが一番強いでしょ?」
「多分そうだけど!けど…むぅ…」
「ということなので、帰りましょう」
「も、申し訳ありません…ありがとうございます…」
「唯香私使い荒いよ!」
こうして私たちは、瑠璃香に馬車を引かせてドリス王国の北門を目指し、進み始めたのだった。




