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異世界グルメ

魔人街の飯屋

作者: マルコ

 久々の王都。


 宮廷晩餐会なんてモノに参加させられて疲れた。

 出ていた料理はそれなりに美味そうだったが、ひっきりなしに声をかけられて飲み食いする暇も無かった。

 コレなら盗賊団でも相手にした方がまだマシだったが……まさか王族の招待を断るわけにもいかないので、これから先も行かざるをえないだろう。

 対抗策は、シーズン中は王都に近寄らずに他所で依頼を詰め込むくらいだろうか?

 王子も、まさか依頼を放って夜会に出ろとは……言うかも知れんな。


 まぁ、先の事はおいおい考えるとして……とりあえずは何か腹に入れたい。

 ピークを過ぎたとはいえ、空腹は空腹だ。酒もあればなお良し。


 とはいえ、こんな時間に開いてる店は………


「——ん?」


 良い匂いが漂ってくる。残り香ではない。今、何かを料理している匂いだ。

 こんな時間に夕餉の支度も無いだろう。十中八九は飯屋の匂いだ。

 だが、この方向は——


「魔人街に飯屋なんかあったっけか?」


 そう、魔人街。

 王都の中にある、亜人たちの住む一角だ。


 スラムほど治安が悪いわけではないが、王都の人間はあまり近寄らない。

 仮に飯屋があるとすれば、亜人相手の店だろう。


「——面白い」


 どうせこの匂いの先しか店は開いていないだろう。

 帰って干し肉を嚙るよりは、魔人街の店に突っ込むのが、漢ってものだ。


 そうと決めればあとは早い。

 匂いの元を辿って店を探す。

 道は暗い。

 魔人街に街灯は無い。彼らの多くが夜目が利く種族だからだ。

 それでなくとも、こんな時間では大通りでも灯りは消えているだろうが。

 俺も暗視のスキルが無ければ、匂いだけで店を探そうとは思わなかっただろう。


 程なく、店を見つける。


「む、読めんな……」


 店の看板はあるが、読めない言語で書かれてある。

 とはいえ、店の名前は料理の味には関係ないだろう。

 王都で店をやっていて、全く言葉が通じないということもないだろうし。



 ガランッ



 ドアベルを鳴らして店に入る。

 ——思ったより大きい音が出たので、少々面食らったのはここだけの秘密だ。


 店の中はそこそこ明るい。

 暗視のスキルが無くとも、不自由はないだろう。


 俺の他に客は……コボルトの家族連れ、カウンターにエルフお独り様。……後は奥でドワーフが3人ほど騒いでる。

 この時間でこの人数。店も広いので、かなり繁盛しているのではないだろうか? 味の方も期待して良いかもしれない。


「いらっしゃいませ。——人間の客……しかも、貴族とは珍しいですね」

「……貴族?」


 カウンター越しに話しかけきたのはリザードマンだった。

 恐らくはここの主であろう。

 しかし、何故俺を貴族と……おっと、そういえば今日の服装は正装だったな。


「なに、俺はただの冒険者。服装は気にしないでくれ。お堅いところからの帰りなんでね」

「左様ですか。——どうぞ、お好きな席に」


 言われて俺はカウンターに腰掛け、早速注文する。


「とりあえず、さっきから美味そうな匂いさせてる、ソレをくれ」


 匂いの元は、カウンターの中。厨房で揚げられてるナニカだ。

 俺はソレを注文する。


「……人間のお客人、コイツは俺の賄いで、他の種族の方に出すようなモノじゃないんですが」


 リザードマンの店主が困り顔(たぶん)でそう言ってきた。


「なんだ? 人間が食べたら毒にでもなるのか?」

「……毒にはならない筈ですが……人間基準ですと、ゲテモノですよ?」


 面白い。

 冒険者として、それなりに色々食ってきた。

 ゲテモノの類も数多くだ。

 餓死寸前でも食わないと決めたモノから、何でコレがゲテモノ扱いなのかと本気で疑問に思う美味なものまで様々だ。


「こんなナリでも冒険者なんだ。ゲテモノなら食い慣れてる。……で、結局何なんだ?」


 俺がしつこく問うと、店主はため息を吐き、


「——バッタですよ」


 と言った。

 なんだ、バッタなら人間でも食べる。

 流石に王都では食べないが、辺境の村に行けば普通に食べている。

 俺も、何度か食べたことがある。アレは当たりだ。


「バッタなら平気だ。一皿作ってくれよ」


 そう注文すると、


「なら、コイツを」


 と、作っていたモノを出してくれた。


「いいのか? アンタの賄いだろう?」

「お客さん優先ですよ。私の分は、また作ります」


 なるほど、良い店だ。

 出された皿は、良い色に揚がったバッタの丸揚げ。

 この食欲をそそる匂いは、何かの香草だろうか?


「軍隊バッタの香草揚げです。手づかみで食べるのが伝統ですが……熱いようなら、箸をお使いください」


 なるほど、軍隊バッタか。

 農村部では下手なモンスターより恐れられる悪魔も、揚げれば美味そうじゃないか。


 俺は伝統に倣って、手づかみで口に放り込んだ。


 うん、美味い。


「店主、エールを」

「はい、只今」


 良い! 酒がすすむ料理だ。

 バッタも美味いが、香り付けの香草も良い。

 だが、知らない香りだが、味は食ったことがある。

 このほのかな苦味には覚えがある。——何だったか……?


「店主、この香草はどういうものだ?」


 わからなければ、エールを運んできた店主に聞けば良い。


「サニタス草です。……リザードマンや薬師以外は、薬草。と言った方が通りが良いでしょうね」


 なんと、薬草!

 確かに、モノは試しと昔食ってみた薬草と同じ苦味だ。

 だが、食えたモノじゃない味だった筈だが……?


「薬草からポーションを作る方法はご存知でしょうか? 葉を絞って汁を出すのです。その汁の中に薬効成分と苦味が含まれているのです。その絞り()()をこうして料理に使えば……」

「なるほど、見事な香草になるわけか。……ん? いや、薬草採取の依頼は何度もやっているが、こんな香りはしなかったぞ?」


 そう疑問を示すと、店主は


「この香りは水分が抜けた後に出てくるんです。枯れたサニタス草は同じ香りがしますよ」


 と教えてくれた。

 薬草採取の依頼で必要になるのは、瑞々しい薬草だ。枯れたものになど目もくれない。

 一般に知られていないのも当然だが……身近な薬草やポーションについて知らない事があったとは……

 こんな王都の中でも、新しい発見がある。そう、俺は今、立派に冒険をしている!



 ◆



 ——ふう、変に盛り上がって食い過ぎてしまった。

 持ち合わせが足りなければ、大恥かくところだったな。反省反省……


 しかし、美味かった。王都に来た時は、また来よう。




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