王権喪失④
「これから訓練を始める、10人の組を作って整列しろ。とっとと動け!」
「はい!」
初の訓練が始まってからずっと不安があったが、グループでやると聞いて、アイラスを真っ先に捕まえたが、ヨルムやジャンヌ、ナハトの3人は、既に違う人に取られていた。
人が居なくなる前に移動し続け、朝食の際に仲が良くなったメイルの5人グループと合流して、他の人を探して回る。
「おっ、あっこの1人で居るやつはどうだ」
「良いですねメイルさん、私が行ってきます」
「おう、頼むクライネ」
「任せて下さい」
訓練場の端っこで立っている騎士の隣に走り、微動だにしない鎧に声を掛ける。
「あ、あの……入ってくれる人を探してるのですけど、どうでしょうか」
「……別に良いけど、足引っ張らないでよ」
「はい、頑張ります。こっちに来てくだ……」
「触らないで!」
漆黒の鎧から響いた凛とした声が、小手を掴んだ私の手を振り払うと、無言のまま私を待っていたグループの方に歩いていく。
小走りで隣に並んで追い付くが、何も話し掛けられる雰囲気じゃなかった。
「おっ、戻って来たなクライネ。あんたも来てくれたんだな騎士さん」
「私は訓練兵ではない、この帝国建国以来の者だ」
「んえっ、そうなのか。そりゃ残念だな、なら他に誰か……」
「構わん、面白いやつも混ざっているようだ。傍観に徹するつもりだったが、この隊に入るとしよう」
「サンキュ、あと2人だな。どこかに……」
「あ、あの、僕たちも入れてもらって、良いですか」
メイルが辺りを見回していると、おどおどした少年と、後ろで腕を組んでいる少女が、グループを探している最中だった。
「おう良いぜ、これで10人丁度だな」
「集まれ!」
「タイミングも丁度良いし、行こうぜ皆」
最後まで黒い騎士は和に入ること無く整列しに行き、大きく前を開けて立ち止まる。
黒い騎士の前に並んで訓練官の次の指示を待っていると、厳格な雰囲気の男性が段の上に立ち、綺麗に並んだ騎士たちを見回す。
「迅速な行動は出来ているな、これを継続していけ! これからは完全な連帯責任を強いられることとなる、見捨てる事は許されん。覚悟のない者を許すな!」
「はい!」
「陽が落ちる前に帝都を回ってこの訓練場に戻って来い、間に合わなかった隊は飯抜きだ! 走れ!」
「はい!」
声と同時に走り出して訓練場の扉を潜り、大勢の訓練兵と共に城の敷地から出て、帝都へ続く橋を駆け抜ける。
戦闘を走るメイルに全員が続いていたが、いつの間にか黒い騎士の姿が無かった。
「あれ、黒騎士さんの姿がありませんよ」
「マジか、あの鎧脱いでるんじゃないのか? 見るからに重そうだったじゃないか」
「そうだと良いのですけど、探した方が良いと思います」
「ここじゃ目立つから、帝都に入ったら待つじゃ駄目か?」
「ありがとうございます、そこまで走りましょう」
「おう、皆もそれで良いか? 連帯責任だしな」
全員の同意が得られた事を確認して帝都に出て、城に出入りするには必ず通らなければならない橋の横で、消えた黒騎士を待つ。




