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笑顔の女神⑧

帝国の猛攻を、不眠不休で3日間受け止め続けた兵を休ませるべく、無理の無い速度で平原を進み、王城に入るには、必ず通らなければならない正門に到着する。

門の上の見張りに合図を送るが、門が開く気配は無く、兵士が開門の合図を送る様子も無い。


もう一度開門の合図を送ってみたが、遠くを見るだけで、真下の私たちを見る気が無いのか、あからさまに視線を遠くにやる。


「開門して下さい、パレス王国の国王クライネが戻りました!」


そう叫んで見張りに呼び掛けると、門の小さな扉から、ミルドレットの側近である、ジルドレットが姿を現す。

王城に籠るミルドレットの側近である彼が、主君も居ないのに、こんな所に姿を現すのは珍しい。


時々こっそり城を抜け出すミルドレットに付いて行き、外に出る事はあるが、王城に近いこの門に、わざわざ来ることはないだろう。

忠誠心の強い彼がミルドレットから離れると言う事は、何か重大な事があったのだろうか。


だが、そんな呑気な予想は尽く裏切られ、剣を抜いたジルドレットが、鋭い眼差しで私を睨み付ける。


「パレス王国国王はミルドレット様だ、お前みたいな正統じゃない血を引いた王なんて、誰が王と認めるかよ。お前は防衛戦で死んだ事になってる、とっとと消えろよクズ野郎」


「私は死んでいません、今ここに存在しています。帝国兵を全滅させ、この王都パレスに戻りました。正式に私が王位を退い……」


「ゴタゴタうるせぇんだよ、お前はクーデターを起こされたんだ。ここまで言わねぇと分かんねえのか? 本当に頭の悪いやつだな」


「王に向かって無礼ですよ! そもそも、まだ幼いミルドレット様に王は務まりません。先王が遺された遺言に背くのですか」


真っ先に前に出たエルに向けて、ジルドレットは剣の切っ先を向け、口角を上げて口を開く。

それに対してエルも剣を抜いて応じ、炎を纏わせて、傷だらけの体で私の前に立つ。


「引きます、争う気はありません」


「ですがクライネ様、この者は不敬者です。私個人でも許す事が出来ません」


「エルさん、私たちはこの王都から出ます。良いですね」


唇を噛んで剣を収めたエルは、思いを振り切る様に顔を振り、自分の隊に戻る。

私の前からエルが退いたのを狙った突きが、私の体の中心目掛けて襲い掛かる。


誰も間に合わない速度で突き進む突きに、突如現れた騎士が、その剣を受け流して軌道を逸らす。

そして、体勢の崩れたジルドレットを蹴り飛ばしてから私の方を向き、剣を地面に突き刺して跪く。


「度重なる御無礼をお許し下さいクライネ王、この様な事になってしまい申し訳……」


「離せクソ野郎共が! ミルドレット様以外のゴミが俺に触れるな! お前も何をしてるか分かってんのかテオドール、ミルドレット様に対する不忠だろ!」


「黙りなさいジル、この御方はこの国を守る為に戦場に赴いたのです。それなのに、私たちは戦場にも出ず、ただ王の不在を狙ってクーデターを起こしただけです。民に誇れる騎士ではもうないのです、民に何を言われても、この御方に何を言われようと、言い返す事の出来る言葉など無いのです」


この言葉に対して、この場に居る誰もが口を開く事が出来ず、何が正しいのか、何が間違っていて、何が善で、誰が悪なのか、最早この場に大義すらもなくなってしまった。

取り敢えず、この場で私がする事はひとつ、同じ国民の争いで誰も傷を付ける事無く、この王都から出て行く事だ。


仕方無く踵を返して歩き出すと、城門前の騒ぎに気付いた民が、多く集まって来ていた。ボロボロの私たちが城に入らないのを見て、何人かが心配して声を掛けてくれるが、心配させないように、今出来る最高の笑顔を一人ひとりに向ける。


「私たちは見回りに行きます、今回みたいに次も撃退するので、皆さんは安心して下さいね」


「戦況を伝える騎士から聞いたわ、クライネ様自らが兵の先頭に立って、皆を鼓舞したそうですね。こんなにボロボロになって、ちょっと待ってて」


少し白髪の混じった初老くらいの女性はそう言って、出て来た家のドアをもう一度開けて、家の中に入っていく。

暫くして家から出て来た女性は、黒い布で作られたワンピースと、白い布のワンピースを持って出て来る。


「これ、私の娘のお下がりなんだけど、クライネ様にきっと似合うと思っててねぇ。こんな安い布で申し訳ないけど、良ければ貰って下さいな」


「とんでもないです、この布は動き易くて好きですよ。黒は私には少し早いですが、似合う様になったら見せに来ますね」


「あらあら、それまで長生きしないとねぇ」


女性が頬に手を添えてそう言うと、周りの人が笑い出し、自然と騎士たちにも微笑みが伝染る。

そうして色々な人が色々な物を持って来てくれて、中には子どもが出来た時の為にと、玩具まで頂いたり、痩せているからと、肉を貰ったりなど、気付けば、本当に多くの物が馬車の中に入っていた。


そうして申し訳ないながらも、も色々なものを貰い続けてしまい、砦に行く前よりも、大荷物になってしまっていた。

色々な想いを残しながら王都から出て、1番近くにある砦に、再び歩みを進める。

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