笑顔の女神③
1度目の衝突が終わってから砦を回ると、仕掛けとして掘ってあった穴の中で、登ってこれずに座っている帝国兵が居た。
隣に並んだエルが剣を抜くと、帝国兵は怯えるが、決して命乞いも嘆きも漏らさない。
魔力を切っ先に集めたエルを手で制し、チェリーが持って来た梯子を下ろす。
「登って下さい、形は捕虜としますが、客人として迎え入れます。その代わり、パレス国民として暮らして下さい」
「何で殺さないんだ、俺たちは何人も殺したんだぞ」
梯子に見向きもせずにそう言った1人が、血の付いた剣を地面に投げる。
それに呼応するように他の騎士も剣を捨て、質問の答えを聞く為に、私を見上げる。
「なら、殺した分私の国に貢献して下さい。騎士に罪が無いとは言い切りませんが、戦争を始めた王に非はあります。当然反対意見もあったでしょうから」
「聞いてた話とは違うなあんた、王は同盟の使いを送ったが、八つ裂きにされて帰って来たと言ってたし、死体も俺たちは見た」
「そうですか。属国の誘いを断った私にも非はありますね、私たちも反攻の準備をしましょう。ガルドナル将軍にそう伝えて下さい、恐らく治療室で休んでいる筈です」
「やめといた方が良い、俺たち捨て駒は違うが。王が直接率いる部隊は、皆人が変わったように強くなった。俺の知り合いも居るんだが、話し掛けても虚ろなんだ」
人類遠征の際に、皇帝自らが率いる部隊を思い出すと、ドラゴンと互角以上に渡り合っていたのを思い出す。
まるで1つの意思しか持っていない様に統率された動きは、誰かが1人で動かしているようだった。
強さはナハトたちには及ばないが、あの数に囲まれるとなると、いくらナハトと言えども相手には出来ない。
あの黒い魔力が暴走した状態になれば不可能ではないが、もし以前みたいに運良く止まってくれなければ、確実に周辺の国はいくつか更地にされてしまう。
使いこなすにも、方法が分からずにやっても、最悪の事態を引き起こす。
かと言って、他に帝国を倒す方法など無く、更に、今戦争を始めれば、龍人、龍鱗、獣人からの攻撃に晒され、板挟みの状態になる。
「なら、龍人と龍鱗と獣人、あと俺らで共闘戦線を張りゃ良いじゃねえか。帝国の敵勢力に回る」
「軍師さん、それでは後々、この国は人類に対しての立場がありません。貴方にしては得策ではないです」
「何言ってるんだよ、帝国に対して不満を持っているのは、俺たちの国だけか?周辺国に協力を求めて、帝国の立場を無くせば良い 」
「ですが、龍人たちと共に戦うのを納得する人は居るのでしょうか。私たちは相容れない存在です、龍人もまた同じ考えを持っています」
「アイネが居るだろ、こんな時だけ頼るのかって言いたいのは分かる。でもよ、それ以外生き残る方法が無いなら、俺は恥なんて捨ててこの国を守る」
「……エルさん、会議を開きます。貴族や上層部の人を集めて下さい、外を警戒しながらなので、指揮はお願いします」
弾かれるように消えていったエルが人を集めに行く時間を使って、帝国兵を引き上げて、会議が行われる部屋に連れて行く。




