黒雷姫⑥
「聞いてないですよナハトさん、何で脱いでるんですか」
「もう駄目です、我慢出来ません。何でもやると言って下さいましたよね、天井の模様を数えてれば終わりますよ」
湯浴みが終わってナハトを待っていると、何故か服を脱ぎ始めた彼女に、馬乗りされている。
私の服に手を掛けたナハトは、瞬く間に上を脱がし、次は下に手を掛ける。
「聞いてないです、寝るだけですよね。何で脱ぐんですか?」
「熱を冷ます為です、早くその手を離して下さい」
私の手を退けようとするナハトの手をかわして、何とか脱がされないように抵抗するが、このまま防戦一方では、いつかは脱がされる。
この状況を打開する為に思考を巡らせるが、馬乗りに加えて、ナハトは服を着ていない為、どうしても反撃に移る事が出来ない。
「やめて下さい、よ!」
「嫌で、す!」
少し意識して魔力を流そうとすると、体の中の熱が少し放出された感覚がした。
それを証明する様にナハトが顔を歪め、仕返しに電気を返してくる。
「痛いです、ね!」
「やりましたねクライネ様、もう手加減しません」
そう言ったナハトは私のズボンを力尽くで破り、完璧に追い詰められた状況に陥る。
仕方無く蹴り飛ばそうとするが、容易く受け流されて墓穴を掘る。
「嫌、ちょっ、なにして……」
「んっ、なかなかですね」
「お楽しみの所悪いけど、少し良いかなナハト」
「あー、もう何ですかチェリー。今クライネ様と愛を深めてるんですよ」
呆れた顔でナハトを私から引き剥がしたチェリーが、上に着ていたコートを私に羽織らせてくれて、ナハトを裸のまま引き摺って部屋から出ていく。
後でチェリーにお礼を言うとして、ナハトは危険だと自分の中で指定しておく。
代わりの服を貰に行く為に部屋を出ると、ターニャが前から歩いて来る。
丁度良かったと久し振りに顔を見るターニャに走り寄ると、突然抱きしめられて、割と強めに体を絞められる。
「痛いですよターニャさん、どうしたんですか?」
「心配しました、初陣があんな大きな戦でもう気が気じゃなかったです。無理をしたとチェリーさんに聞きましたよ、何でそんな事したんですか? 馬鹿ですか? 馬鹿でしたね」
「失礼ですね。でも、ターニャさんを泣かせてしまったなら、私は正真正銘の馬鹿なんですね。これからは出来るだけ泣かせません、もっと強くなってみせますから」
「はい、私もクライネ様を心配させないように、もう簡単には泣きませんね。我慢します」
離れたターニャの涙を指に乗せると、持っていた寝間着を私に差し出し、コートを脱がせて寝間着を着させてくれる。
ターニャの子守唄の誘いを断って部屋に戻ると、杖を持った紫のローブの人が立っていた。
「何者ですか」
ナイフを抜いて臨戦態勢に入ると、ゆっくりと振り返った紫のローブから、肌の白い若い男性が笑顔で私を見る。
私の声を聞いて部屋に駆け込んで来たターニャが私の前に立つと、男性は少しびっくりした顔をする。
「僕はただの魔術師さ、用があるのはそっちの王様なんだけどね。やっぱり2人だけとはいかないか」
「まずは貴方の詳細を、素性も知らない相手に2人きりなど有り得ません」
「じゃあ僕が素性を明かしたとして、君はクライネくんと2人きりにしてくれるのかい? してくれないよね、なら乗り込んだ方が早いと思ったのさ」
「目的は何ですか、話しならば殺す目的ではないのですよね」
「当然殺す気なんて無いよ、僕はナハトくんの事について話に来たからね。君も知りたいんじゃないかと思ってね」
明らかにターニャを相手にする気が無いと言う男性は、優しい目で私を見てそう言う。
「残念ですけど、もうナハトさんから色々聞きました」
「それはほんの一部で本人しか分からない範囲の事だろう、でも僕は本人が知らない事を知っているからね」
ここから先激化するであろう戦争に、1度暴走を起こしてしまったナハトに対して、恐らく同行を拒む者も現れるだろう。
周りを納得させる為には、ナハトよりもナハトの事を知っていなければ、恐らく同行を認められない。
「何を求めるんですか貴方は、当然無償で提供なんて……」
「そうだなぁ、なら僕はクライネ君が良いかな。大きくなれば美人になりそうだしね」
「殺します」
その言葉を聞いて暗器を投げたターニャの手を慌てて掴むが、既に投じられていた暗器が、男性が持っていた杖に刺さる。




