さよならのセレナーデ
ドレスを変えて城の広間に行くと、自分のドレスにも劣らない煌びやかなドレスを見に纏った人が、誰かと話したりして私が現れるのを待っている。
その中でひとりだけ輪に入れていない人を見つける。
エルからクロークを受け取って、顔をフードで隠してその男性の下に行く。
「こんにちは」
「あ、はい。こんにちは、どうして顔を隠されているのですか」
「あー、鋭い質問ですけどそれは教えません」
ぽかんと口を開ける男性に、人差し指を口に当てて微笑む。
「陛下!」
「呼ばれてしまったので行きますね、また縁があったらお会いしましょうね」
目立つクローク姿の私をすぐに見つけたエルは、白い手袋を着けてその上に王冠を乗せている。
珍しく鎧を纏っていないエルは、ゴツゴツした鎧姿からは想像出来ない程線が細い。
途中でクロークを脱ぎ捨てて、幕の後ろに隠れてエルから王冠を受け取る。
少し重たい王冠を頭に乗せて、背筋を伸ばして深呼吸をする。
「参りましょう陛下」
「頑張ります」
「肩から力をお抜き下さい、みっともないですよ」
「は、はい。抜きました」
「まだまだ上がっておりますよ、手を上げて一気に力をお抜き下さい」
言われた通りにやると、気のせいか少しだけ力が抜けた気がする。
幕の後ろから一歩を踏み出すと、会場の視線が一気に集まるのが分かる。
会話で満たされていた会場が静まり返り、緊張感が漂って期待が高まる。
「あれが新王、可愛らしい御方ね」
「まだ小さくないか、この国は大丈夫なのか?」
隠された皮肉や、全く包み隠さない不安ばかりが聞こえて、身がすくんで動けなくなる。
それを見て更に不満の声が高まり、会場には嫌な雰囲気ばかりが漂い、高まった期待の反動が大きい。
「エルさん……すみません」
「耳を澄ませてみて下さい、批判ばかりではありません。それにこの批判はまだ陛下のお力を見ていません、直ぐに黙る事でしょう」
「そうでしょうか、そうですね。私頑張ります」
「全力で我々がお支え致します」
凍り付いた足が自然と前に動き出し、今まで以上に堂々として歩ける。
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披露宴が終わって静かな自室に戻り、大きなベッドで仰向けになって、今日の会場の反応を思い返す。
頭に浮かんだ歌を口ずさんでいると、部屋のドアがノックされる。
「どうぞ」
ドアを開けて部屋に顔を出したのは、湯から上がった姿のエルだった。
「失礼致します陛下。本日はお疲れ様でした」
「すみません、なんだか期待に添えなかった王みたいで」
「先程の歌、良ければもう少しお聞かせ頂けませんか?」
「構いませんけど、歌はあまり得意じゃないですよ」
「そんな事は御座いません、とても綺麗な歌声でした。気持ちは籠っていましたよ」
「そんな事言う人嫌いです」
そう言って笑ったエルは、瞼を閉じて歌を聴く準備が整える。
渋々息を吸って、出来るだけ上手く聞こえるように歌う。